「剣を握る少女」
「ルベリィ親衛隊長、報告を」
ネイホ国王の目の前に膝をつき、頭を下げた。
私は、ネイホ国王の娘にあたる、王直々の親衛隊長。
ネイホ王、ディッズ=ハオラティ=マイヤーの娘、アズサ=ハオラティ=マイヤーの
妹、ルベリィ=ハオラティ=マイヤー。
でも、本当の子供じゃない。
母親は私が拾われる前に死んでしまったもの。
私は、ディッズ王に拾われたのだ。
「ルベリィ、大丈夫か?」
「は、はい! え、えっと……街はいつもどおり何事もなく、平和でした。
多数の窃盗事件はまだ解決していないものが気がかりですが――」
「うむ、よろしい……ルベリィもまだ親衛隊長に成り立てで疲れているだろう?
自分の部屋でやすんでこい」
「はい、了解しました」
私は王に報告をすませ、言われたとおりに部屋に向かおうとした。
だって、今日は初めての親衛隊長としての仕事の日だったから、
緊張のためかとても疲れていたのだ。
「ルベリィよ――」
王に呼ばれたので疲れのため、歩きが遅くなっていた足を止めた。
なんだろう、怒られるのかな……?
「たまには父さんとか、呼んでもいいのだぞ?」
「わ、私は……――っ!!」
何だかわからないけど、私は走って自分の部屋へ走って逃げてしまった。
逃げる理由なんて、本当はなかったんだけれど……
「うむぅ……難しい年頃になったなぁ」
私は、親に捨てられた。
本当は捨てられたわけじゃないんだけれど。
「おとうさまー」
「はは、ルベリィは元気だな」
私が八歳の頃。あの頃の私は、まだ剣を握ろうと何か考えていなかった。
「ルベリィー、みーつけた!」
「お姉さま、今度はわたしが鬼だねー」
「うん、わかったー」
いつもながらのかくれんぼをお城の中でする私と姉の姫。
そのときは、私も姫としてみんな扱ってくれていた。
とある話を聞くまで、私はその現状を受け入れていた。
「―28、29―30! それじゃ、お姉さま、行くよー!!」
私は無邪気にかくれんぼをしていた。でも、そう、あのとき……
アズサ姫を探していたとき、私はある話を聞いてしまった。
「お姉さまー、どこー?」
城の廊下を歩いていたとき、国王の部屋から話し声が聞こえた。
大きい声が聞こえた。
「国王様! どうするのですか、ルベリィ様の件は――」
「ルベリィは私の娘だ。私の勝手だろう」
「しかし――」
私の事を話していた。なんだかよくわからなかったけれど、かくれんぼを
一旦放置して私はその声が聞こえる部屋のドアに耳を押し当てた。
静かに、その話し声を聞いた。
「本当の子供じゃないのですよ、王。そこをわかって仰っているのですか?」
「わかっている。あの子は私が責任を持って育てておるのだ、別によいだろう」
「それはルベリィ様のためにもなりませぬ。本当のことを知ったルベリィ様は心を閉ざされる
こと、間違いありません」
(私は――本当の子供じゃない――)
私は絶句した。
頭の中が真っ白になって、それで何がなんだかわからなくなった。
本当の子供じゃない。私がここにいることすら、間違っている。
それだけが、私の心の中で響いてやまびこのように繰り返されていた。
「っ――」
私はその場にいるのが辛くて、走って逃げ出してしまった。
これじゃ、私は……
自分の部屋に戻った私は、涙をこらえてベッドの上へ飛び乗ってそのまま顔を隠すように
うつ伏せになった。
「ぅ、ぅっ……」
私はどうすればいいかわからなかった。
まだ八歳だった私には、とても辛すぎる現実だったのだ。
涙を拭って顔を上げてみたら、目の前には壁に立てかけられた剣があった。
無意識のうちに、その細い剣、レイピアを握っていた。
ちょっと重かったけど、まだ軽いほうだったので小さい私には握って持つことが出来た。
「ルベリィー、なにやってんのよー」
アズサ姫が私の部屋に入ってきた。そういえば、かくれんぼをしていたことを忘れていた。
「ちょ、ちょっと、何持ってんのよ!」
「お、ねえさま……?」
「危ないから元に戻しておきなさいってば」
「だって、だって……私、ここにいちゃいけないんだもん。ここにいたら、ダメだって……
だから、私、私――」
また涙が頬を流れていくのがわかった。私は、とても辛かった。
この剣で、死ねれば死にたいとか思っていたのかもしれない。
「バカね、あなたは私の妹なんでしょう? それに越した事はないわ」
「おねえさまっ」
私は剣を捨てて、姉のアズサ姫に抱きついた。
その言葉で私は少し、救われたのかもしれない。
でも、偽りの姫は嫌だから、それから私は国王――お父様に頼んで
剣を習いたいといい始めた。最初は反対したけれど、次第にお父様も私の意志を
わかってくれていった。それから数年たって、私はお父様に真実を聞かされた。
私がここにいる理由を――
今は亡き王女様が、城の目の前に捨てられていた私を拾ってきてくれて、
それからすぐに死んでしまったらしい。
だから、私はせめて生かしてくれた人々のために、剣を握る決意をしたのだ。
人々を守るために、誰よりも強くなりたいと願う――そう決意したのだ。
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