「漆黒の記憶」


雨の中、一人の女性が赤ん坊を抱えて走っていた。
暗い夜道の中、森の中を――
そして、その女性は森の中に建っていた家を見つけた。
「この子だけは、生かしてあげたい」
そういって、その家の前に布にくるまれた赤ん坊と小刀をそっと
置いてあげた。
「ごめんね……でも、これもあなたのため。死ぬより、生きていたいものね……」
女性の瞳からは涙が流れていた。
少しの間、赤ん坊を見ていたが何かを思い出したかのように
いきなり走ってその家から走っていった。
森の中を走っていた女性の目の前に、一人の男が現れた。
「あの赤ん坊はどこだ」
「……………」
男の両手には双剣が握られていた。
「教えません」
「そうか」
そう言って男は双剣で女性を斬りつけた。それは一瞬の出来事だった。
血を吹き、女性は倒れてしまった。
「言っていれば助かったものを」
男はそういって去ってしまった。
女性の亡骸は、森の中、誰にも知られることもなくただ雨に打たれていた。

そして、14年後。
女性が赤ん坊をおいていってからそれほどの月日が流れた。
その家は二人の夫婦が住んでいた。名前はラグとハラカ。
その赤ん坊を拾い、育てた。名前はゲイザと名づけた。
そしてまた、二人の間にも子供がいた。その子供の名前はレミア。
歳は13歳。ゲイザの歳は14歳だった。
4人は平和に楽しく暮らしていた。
「ゲイザー! 朝よ!」
レミアがゲイザを揺らして起こす。
しかしゲイザは寝返りを打ってなかなか起きない。
「もう……お母さーん?ゲイザが起きないのよ!」
すると、母親のハラカは台所から小走りで歩いてきた。
「ゲイザは朝に弱いからねぇ……困ったわ――そうね、蹴ったら起きるんじゃないかしら」
「お母さん、それはいくらなんでもちょっと酷いよ……」
すると、ゲイザはいきなり起き上がった。
どうやら二人の話し声で起きてしまったらしい。
「おはよう……………」
「ゲイザ! 遅い!!」
レミアは怒った顔でゲイザを立たせた。まるで立場が逆だ。
「ほら、朝ごはん食べて、さっさと顔洗わないと。タクスくんと一緒に
遊ぶんじゃないの?」
するとゲイザは何かを思い出したような顔をした。
「あぁ、そうだったな。今日は遊ぶ約束してたっけ」
「ご飯もうできてるわよ? さぁ、早く食べて」
そういうとハラカはゲイザの部屋から出て行った。
「いい加減に早起きしたらどうなの?」
「朝に弱いからさ、ちょっとそれは無理だ」
「無理だ無理だっていってるから出来ないんでしょ!」
「いや、そんなこと言われたって」
「ほら、早く! ご飯食べないの?」
「はいはい……」
ゲイザはご飯が出されているテーブルのイスに座ると急いで朝ごはんを食べた。
すぐ口の中に食べ物を詰めると水を飲んで家から出て行った。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、気をつけてくるのよ」
ハラカのやさしい声と共に、ゲイザは家から出て行き
タクスと待ち合わせしている森へ急いだ。

「タクス! ごめん、寝坊した」
ゲイザはタクスがいる木のところへと走って向かった。
「遅い! ったく、何分待たせればいいんだよ……まあいいか」
そういうと、タクスは木に立てかけていた木刀をゲイザに渡した。
「今日は剣の稽古、付き合ってもらうから」
「ああ、わかった」
二人は向き合って、木刀を構えた。
「はあぁっ!」
ゲイザが先攻し、タクスに木刀を振りかざした。
すると、その木刀の攻撃をタクスは自分の木刀で弾いた。
「昨日よりは踏み込みがよくなったね」
「まだまだっ!!」
静かな森に、木刀と木刀がぶつかり合いカンカンと音が響き渡る。
二人はそれから少したち、休憩することにした。
「ふう――疲れたな」
ゲイザは木刀を木に立てかけると、木で日陰になっている場所に座った。
「なあ、ゲイザ。お前の大切にしてるその小刀ってなんだ?」
タクスもゲイザと同じく、日陰になっている場所へ座った。
「これか? これは、俺が赤ん坊の時、一緒に捨てられていたものらしい」
小さい鞘にしまってある小刀を取り出した。
その小刀の刃は錆がなく、見事な刃をしていた。
「へぇ……なるほどな〜――って、俺そろそろ帰るわ。母さんの手伝いしないといけないし」
そういうと、タクスは木に立てかけてある2本の木刀を手に取り、家に帰っていった。
「じゃあねー!」
「またな」
タクスの姿が消えると、ゲイザもその場から立ち上がった。
「そろそろ俺も家に帰るか……」

夜。
ゲイザの家の夕食の食事が終わり、ゲイザは父親のラグに呼び出されていた。
「父さん、話ってなに?」
ゲイザはラグの部屋に入り、イスに座った。
「ゲイザ、俺は昔お前が捨てられていたと話したよな。
そしてその一緒に捨てられていた小刀とお前が捨てられていた原因がわかったかもしれん」
「俺は、捨てられていた……理由?」
ラグは机の棚から何か出そうとしていたとき、部屋にレミアが入ってきた。
「お父さーん。お客さんだよ」
「ああ、わかった。ゲイザはここで待ってろ」
そういうと、ラグは急ぎ足で部屋を出て行った。
「ゲイザ、お父さんと何はなしてたの?」
「お前には関係ない」
「もーっ! ゲイザのけちんぼ!」
レミアは顔を膨らませて怒った。
「あ、そうだ……ゲイザ」
レミアが何かいいかけたとき、どこかの部屋から食器か何か割れる音が聞こえた。
「きゃぁぁーっ!」
ハラカの叫び声が聞こえた。
「レミア!」
「ゲイザ、行ってみよ!」
二人は部屋を出て、声のする部屋へ走っていった。
その部屋には血だらけで倒れているハラカと、黒い服を着た男と戦っている
ラグの姿があった。
「父さん!!」
「ゲイザ!! レミアを連れて逃げろっ!」
ゲイザは戸惑ったが、放心状態のレミアの手を引っ張り2階にある
自分の部屋へと走って逃げた。
「貴様っ!」
ラグは錆びている剣でその男の双剣を防いでいた。
「早く引き渡せといっているだろう!さっきいた少年を!」
「誰が引き渡すものかっ!」
すると、男はラグの剣を真っ二つに折り、双剣を再び構えなおした。
「フッ、何故そう馬鹿なやつばかりなんだよ。素直に引き渡せばいいのに」
「ゲイザは俺の子供だ!」
「違う、あの紫と黄色の瞳を持つ人間――あれは光と闇を持つ者として
生まれてきたものの証だ!」
「ぐぅっ!?」
男の双剣は、ラグの心臓を突き刺していた。
「邪魔なんだよ、光と闇を持つ者は……」
そういって、ゲイザとレミアが逃げた部屋へ歩いていった。

「レミア! しっかりしろ!!――っち」
レミアは放心状態で突っ立っているだけだった。
ゲイザの部屋に逃げ込んだが、見つかるのは時間の問題だ。
「どうすればいい」
そのとき、閉めたはずのドアが壊され、そこに立っていたのはさっき
ラグと戦っていた男だった。
「見つけたぞ」
「くっ……」
ゲイザは武器も何も持っていなかった。
ただ、殺されるのを待つばかりだった。
「死ねっ!」
「ゲイザッ!!」
男の双剣がゲイザに斬りかかろうとしたとき、レミアがゲイザの前に
出てきて、双剣の攻撃からゲイザを庇った。
「ゲ……イ、ザ――」
そういって、レミアはゲイザの目の前で倒れた。
「レ、ミア?……俺の、俺のせい……で」
「邪魔だ……死ね!」
「きゃぁぁぁっ!!」
倒れたレミアを、その男は更に斬りつけた。
斬られた胸から血しぶきが飛び散り、ゲイザの服や顔にも血がついた。
「あ――あぁ……うわぁぁぁっ!!!」
ゲイザは叫んだ。そして、小さな鞘にしまっていた小刀を取り出した。
「お前が……お前がぁぁっ!!」
「闇の、力……!?」
男は、身動きが取れなくなっていた。
「うぁぁぁっ! うぁぁっ! あ゛ぁぁぁぁ!!」
ゲイザはその片手に持っていた小刀でその男を斬りつけ、
斬りつけ、斬りつけまくった。
そして、その男は動かなくなり、ゲイザもその場で小刀を落としてしまった。
「俺が、みんな、を、殺し……た」
そういってその場に倒れこんだ。

それから数年が経ち、ゲイザは一人の生活をおくって行った。
あの事件があった日から、ゲイザはタクス以外の人には心を閉じていた。
ミリアがゲイザの前に現れる日までは……


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