第Y話「守りたい者」
ミリアの体調も回復し、マイが旅立つ準備が出来たので
ゲイザ達は今、ガラドの家を出て行こうとしていた。
「本当にお世話になりました」
ミリアがガラドに深くお辞儀をし礼をした。
「いやいや、俺もお礼いわなきゃな。俺には出来ないからな……マイを導くことが」
ガラドも苦笑をしてマイの頭を撫でた。
するとマイはゲイザ達には見せない笑顔をしていた。
「それじゃ、ガラドさん。本当にありがとうございました。マイは俺守ります」
「ワタシ……子供じゃない。戦えるから」
ガラドとゲイザは苦笑をした。まあ確かに先ほどの戦闘でも
マイは強いと言うことは明らかだ。
人並み以上の魔力。特殊な属性付のカード。
ゲイザの助けになってくれるのは目に見えている。
「それじゃ、また」
「おう、またな!!」
笑顔で手を振ってガラドはゲイザ達を見送り、ゲイザ達もガラドに手を振り返した。
道中でゲイザは立ち止まった。
「ここ、ファムレイグだから――道よく知らないんだった……」
「ゲイザ〜、迷子になったらどうするんですか?」
するとマイが二人の横をスタスタと歩いていった。
その姿に気づいたゲイザはマイを呼び止めた。
「お、おい、マイ!」
「こっち、町があるの」
そういって再びスタスタと先頭を歩いていった。
「ゲイザ、何ボーッとしてるんですか?早くしないとマイちゃんに
置いていかれますよ。早く早く!」
「あぁ、ちょ、ちょっと!!」
ミリアはゲイザの手を取り、マイを追いかけていった。
ゲイザ達は水の都ミネアについた。
「すごいな……街に川がある」
「うん、船で移動してる人が沢山いる……」
ゲイザとミリアは初めて見る光景に驚いていた。
ミネアは水の都という名前の通りに都内は水路で張り巡らされており、
街中の移動手段も船が多く用いられている。
「それで、何をするんですか?ワタシ、旅の目的良くわからないんで」
「そうだな。とりあえず宿を探すか」
ゲイザは宿を探して部屋をとった。
その間にも街中を歩いていたためマイ以外は少々キョロキョロと街中を見ていた。
宿はとったし、「とりあえず、街を見て歩きたいから……自由行動にしようか。」
「賛成!」
「わかりました」
そういうとミリアは荷物を置いてどこかへ行ってしまった。
しかしマイは部屋にある椅子に座っていた。
「マイはいかないのか?」
「ワタシは一度来たことがありますから。それよりゲイザさん。ワタシ、
あなたに質問したいことがあるんですが……」
「なんだ?」
「ワタシ達が何なのか……知りたいんですよね?この旅の目的は。」
そういうとゲイザはうーんと少々考え込んで悩みながら言った。
「まあな。俺は何者なのか、君達は何者なのか……まあ、旅のきっかけは
ミリアが敵に狙われているのを助けたことだけど。それで敵から逃げようと旅をして、
西の大陸ネイホからテレポートで東の大陸のファムレイグまで来てしまったわけだが。」
するとマイはゲイザに背を向けて椅子に座ったまま外を見た。
「それじゃ、これから何をするつもりなんです? ワタシ達だって、普通の人と同じです。
別に違いを求めてもなんの意味もないと思うのですが」
そう言われるとゲイザはさらに悩んだ。
「あー……まあ、そういうとお終いなんだが。俺は俺が何なのか知りたい。それだけだ」
ゲイザは少し苦笑しつつも微笑んで言った。
「そう、ですが……ワタシ、答えを――」
「ゲイザ! また部屋にいたんですか? 早く街に出かけましょう!」
マイが何か言おうと思ったときタイミング悪くミリアが来てしまった。
ゲイザは言いかけた言葉が気になるがとりあえずはミリアと一緒に街に出ることにした。
「じ、じゃあ、マイ。カギ預かっててくれ。俺はミリアと一緒に見物にいってくる」
「ハイ。いってらっしゃい」
バタン、とゲイザは扉を閉めて出て行った。
マイはため息をついて街で流れる川と空を見て呟いた。
「いずれ、言わなきゃいけないこと――それはわかってる」
「涼しくて気持ちいいね!」
「そうだな」
ミリアとゲイザは川沿いに歩いていた。
少しミリアは悲しい顔でうつむいて呟いた。
「このまま、この時が、この平和が続けばいいのに……」
「どうした?」
ゲイザはミリアの横顔を見たが、いつもより元気がないみたいだった。
「あ、いや、別に……そうだ、ちょっと座れる場所で休憩しましょう」
ミリアは走って橋のかかってる道に造られたベンチに座った。
遅れてゲイザもミリアの隣に座った。
「ゲイザ、もうちょっと親しくなってもいい?」
「親しく?」
ミリアがゲイザの顔を覗き込んで笑っていた。
先ほどの暗い表情が嘘のようなくらい明るかった。
「普通に喋ってもいい?」
「構わない。元からな」
「やった!」
ミリアは嬉しそうに笑った。
つられてゲイザも少し笑ってしまった。
「私ね、色々考えてたの、ゲイザと出会う前。これからどうすればいいのかって。
私は命を狙われて、それで知ってる人も誰もいない。守ってくれる人も誰もいない」
そういったミリアはさっきより明るくはなく、少し悲しい顔をしていた。
「そこでね、ゲイザに会ったの。嬉しかった……見捨てないで、私を守ってくれると言ってくれたとき。
あのときね、ちょっと泣きそうになったの。嬉しかったから――」
ゲイザはミリアの顔を見ると目に涙が溜まっていた。
「一人で寂しかった。誰かに助けて欲しかった。だから、私は私を守ってくれるゲイザが好き。
これからも、ボディーガード、やってくれるよね?」
ミリアが泣きながらゲイザを見つめる。
そしてゲイザは笑ってこう言い返した。
「何言ってるんだ、当たり前だろう?約束したからな……何があっても守り通す。
それがボディーガードだ」
泣いているミリアにゲイザはハンカチをあげた。
ゲイザは心の中で感じていた。ミリアの孤独を。悲しみを。
そして……
「ここら辺からか……聖なる気配。やっと追いついたか」
黒いコートを着た男が民家の上からゲイザとミリアを狙っていた。
隣にはもう一人、怪しい人が立っていた。
黒い服装を身に纏った女。
「いいか? 今度こそミリアを捕らえろ。隣にいるあいつは俺に任せろ」
「了解……」
女がゲイザとミリアのいる橋の左に下りた。そして男が反対側の右へ。
「この邪悪な気配……貴様らか!!」
ゲイザは剣と小刀を鞘から抜いた。そして独特な構えをしてミリアをかばう形になった。
「今日こそミリアを捕らえさせてもらう。覚悟してくれよ……?」
「私は――ゲイザがいる!」
「ほう、そうか。弱そうな少年に何が出来る?見ろ、もう捕まっているだろう」
「んー!!」
ゲイザが男に気を取られている隙に女のほうがミリアを捕らえていたのだ。
「貴様、卑怯なっ!」
ゲイザが女のほうへ走ろうとしたとき、目の前に男が現れ剣で斬りつけられた。
「がはっ!?」
「ンンンー!!(ゲイザー!!)」
「黒一!ミリアを捕らえたのなら下がれ!」
「わかりました、ラムダ様」
黒一と呼ばれた女は物凄い跳躍力で2階建ての民家の屋根へ飛んだ。
「くっ、ミリアは、俺が守る、って――言ったんだ!」
ゲイザは立ち上がって剣を構えなおした。
「まだ立てるか。ならば相手をしてやろう。
そして諦めさせてやろう、ミリアを取り返すのをな!」
ラムダと呼ばれた男は黒いコートの懐から鞘を取り出し刀を見せた。
その武器は剣の中でもこの世で一番切れ味の良いと言われる。
「刀――俺はそんなもので斬られたのか!? だが、屈しはしない!!」
ゲイザはラムダに剣を振りかぶったが刀で簡単に受け止められてしまった。
「何っ……!」
「力押しだけではオレには勝てんよ……そぉらっ!」
ラムダはゲイザの剣を跳ね除けた。
「ま、まだだ――喰らえ、闇黒剣!!」
小刀でラムダに斬りつけたが、それは残像だった。
「攻めが甘いな。喰らえ、秘奥義、無音殺!!」
「な、なにっ!?」
刀が素早い動きでゲイザを捕らえる。そして斬りつける。
「光は闇に、闇は闇に、この理は換えられん! 殺戮の刃!!」
「っぅ!!」
なんともいえない痛みに襲われる。無数の刃が体に切り刻まれる。
「刹那の彼方へ……消えろ」
「ぐあぁぁぁっ!!」
最後の闇を纏った刀の一撃で血まみれになってゲイザは倒れた。
ラムダは何事もなかったかのように刀についた血を払い、鞘に収めた。
「さらばだ。もう会うこともなかろう」
「いやぁぁぁぁ!ゲイザー!!!」
ラムダと黒一はミリアの悲鳴と共にミリアを捕らえて連れて消えてしまった。
「俺が――俺が……ミリアを守るって、行ったのに!ミリアを助けたかったのに……
俺は……俺は!!」
ゲイザの叫びは街に響き渡った。
虚しく響く……
そしてゲイザの目の前は真っ暗になった。
続く
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