第X話「タクス」
タクスは先ほど魔物の襲撃があった村、スライグにいた。
一人の少女、ネイアーと一緒に墓をたてていた。
魔物が、彼女の母親と父親、そして妹を殺した。
それだけじゃない。この村の何人もの人が魔物に襲われて死んでしまった。
誰のせいだ?あいつしかいない。
魔法結界を破り、モンスターを操って――
それは、黒いフードの男。
タクスは血が止まるくらい拳を強く握り締めた。
「なんで、あいつは関係のない人々まで巻き込むんだ……」
そう言って立ち上がると、墓を見てネイアーを立たせた。
彼女は泣いていたが、涙を拭い墓に向かって笑いかけた。
「お父さん、お母さん、ユイ……行ってきます――仇を、とってきます」
「もう、いいの?」
タクスは墓を見ていたネイアーに優しく言った。
するとネイアーは元気よくこっちを振り向きタクスに笑顔をみせた。
「もういいよ――さ、いこう!」
そして二人はスライグを旅立った。
少し進むと王国に続く洞窟があった。
ここを抜けなければ先へは進めない。
なのでタクスとネイアーはその洞窟に入っていった。
「暗いなぁ……」
タクスは暗闇の中、そう小さく呟いた。
入り口付近だけ明るくて、奥は暗く何も見えない。なのでネイアーが
木の棒を拾い火をつけてそれを明かりにし進んでいった。
数分歩き、眩しい日差しが見える出口に出た。
「目がチカチカするね……暗いのよりは明るいほうがいいけどね」
ネイアーは両手を上に上げ、背を伸ばして言った。
辺りを見渡すと正面には大きな城が見え、街が見えた。
王都『ライラズ』。
この大陸、ネイホの中心都市だ。
タクスは初めて来たためかどうかはしらないが、少し唖然として周りを見ていた。
それもしょうがないことだ。タクスはあの村、ラミアズから一歩も出たことがないからだ。
「すっごい人の数! これがライラズか……すごいな!」
「ちょっとちょっと、あんまり騒がないでよ?こんなところで大声出したら変人だと思われるよ?」
その一言で、タクスは黙った。
さすがに、この人ごみの中で大声を出すのはまずいだろうと思ったからだ。
「ネイアー、自由行動にしよう。あの男の情報を手分けして探せば――」
「そうね。じゃあ、宿屋で待ち合いましょう」
そして二人は別々の場所へ向かって歩き出した。
しかし、タクスの本当の目的は情報収集じゃない。
見物だ。
「まあ――少しくらい見物しても、怒られはしないよな」
王都と言うだけあって、いろいろなものがある。
出店、アクセサリーショップ、情報屋――
特に目に付いたのは闘技場とギルドだ。
闘技場というものは聞いていたが、実際に見るのは初めてだったので少々興奮していた。
「挑戦者、ガイ=イルスー!」
右の扉から、一人の少年が出てきた。
少々小柄で、腰に剣より少し短い感じの刃物を下げていた。
あとは短パン半袖のシャツと、軽装備過ぎる。
「そして我らがチャンピオン!! スレイド=ヴァリアー!!」
一斉に客席から歓声が上がった。
そして左の扉から、青年が出てきた。
黒いマントを纏い、長い剣。そして短剣を装備している。
(こいつ……ゲイザの雰囲気に似ている)
「それでは、両者揃ったところで試合開始と行きたいと思います!」
司会者は両者の間に立って、右腕を思いっきり上に突き上げた。
「レディー……!」
そしてその腕を下に振り下ろし
「GOー―――!!」
ゴングが鳴り、両者はそれぞれ武器を構えた。
(あれは――あの構えは)
スレイドという男を見た。
片手剣と短剣の二刀流。それはよく見覚えのあるアイツの構えに似ていた。
(ゲイザ――まさか、ね……)
「くらえ! 水神剣!!」
ガイは剣を前に突き、水の塊をスレイドに向けて飛ばした。
しかし、そこには何もいなかった。
「一瞬のスキが、命取りだということを知らぬようだな。フッ……」
スレイドはガイの背後に回りこんでいた。
「幻影斬!!」
剣を構えてガイを目掛けて走り出したと思ったら、すでにガイの
前に立っていた。
「終わりだな」
その一言がシンと静まった闘技場に響くとガイは無数の斬撃をくらって
倒れこんでしまった。
「勝者、スレイド=ヴァリアー!!」
「すごいな、スレイドとかいうやつ……」
タクスはそう言いながら闘技場から出るとネイアーが丁度いた。
「あー、タクス!何やってんの!? まさか、情報収集じゃなくて戦いを見てたの?」
「いや、これは……情報はなかったよ。あははは」
なんとか苦笑しつつも免れた。
「それより、ネイアー。ギルドに行って見ないか? いい情報があるきがする。」
「うん、わかった」
二人はギルドショップに向かった。
中に入ると強そうな剣士から旅人まで沢山人がいた。
ギルドショップのオーナーに話しかけてみた。
「あのー、ゲイザというやつを探してるんですけど」
「なんだ、人探しか? それならギルドで働いてみないか?」
「いや、そういうんじゃなくて……」
「ギルドに入る依頼は遠くからも来ることがある。金を稼ぎながら
情報収集ができるが――それにここで働いてくれるってなら指名書を王国にだしてやるよ」
「ホントですか!? やります!」
そのとき、ネイアーがちょっと怒った顔をしてタクスに話しかけた。
「ねぇ、ちょっと! 勝手に決めないでよ!」
「いや、だけどさ……このまま探してても見つからないと思うんだ。それなら
人のために働きながら探して――オマケにギルドでも探してくれるんだよ?」
「まあ、確かに……そうだね、やろう」
二人はギルド員として登録した。
「それじゃ、今日は仕事がないから明日来てくれ」
ギルドのオーナーが言うと二人はギルドショップから出て行った。
「あ、それじゃあたし宿を手配しておくからタクスはそこら辺ぶらついてて。
あとから宿に来てくれればいいから」
そういうとネイアーは宿に向かって歩いていった。
とりあえずタクスはもう一度闘技場にいってみる事にした。
どこか気になる。スレイドという人が。
闘技場でスレイドという人について聞いて見る事にした。
「あの、スレイドという人について知りませんか?」
「あぁ……あのものすごく強い人か。今日は特別に受付に頼んだらいつでも
戦えるそうだぞ? 戦ってみたらどうだ。君も剣士だろう?」
そういうと見ず知らずの剣士は去っていった。
確かに戦ってみるのは知る近道かもしれない。
タクスはそう思い受付でスレイドと戦いたいといって控え室にいった。
控え室にはさっきやられたガイという少年が寝ていた。
所々に包帯が巻かれている。油断したら自分もこうなるだろう。
「だけど・・・戦うしかない」
タクスはそういって闘技場の戦いの場へ向かっていった。
「本日6回目の勇気ある挑戦者は――タクス=カタスロフィー!
スレイド=ヴァリアーの連勝といくか、挑戦者はそれを破るかー!」
タクスとスレイドは位置につき睨み合った。
(何とかして、勝つ!)
「レディー……GOー――――!!」
両者が剣を構える。
(ここは相手が攻撃してくるまで我慢だ……見切るんだ、攻撃を!)
「来ないのか?ならば俺から行かせてもらう……」
スレイドは剣を構えタクスに剣を振るった。
「やられるかっ!」
タクスは寸止めのところで剣を剣で止めた。
「おーっと、物凄い! スレイドの剣を受け止めたー!」
「ちっ」
スレイドはステップし後ろへ引いた。
(なぜだ? 俺にはわかる。敵の攻撃が……)
「今度は俺からだ! スレイド=ヴァリアー!」
「こいっ!」
両者が睨み合う。そしてタクスは地面に剣を突き刺した。
「魔法剣、グランドフォール!!」
地面が割れてスレイドの立っている地面をも砕いた。
「さらにっ! 瞬撃雷功刃(シュンゲキライコウハ)!!」
スレイドが宙に浮いている隙にタクスは飛び、雷を纏った剣で
斬撃をあたえた。
「ぐぅっ!!」
地に落ちて倒れるスレイド。地に立つタクス。
「勝者、タクス・カタスロフィー!!」
盛大な拍手の中、タクスは戦いの場を去った。
(なぜ俺は――予知できたんだ)
続く
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