最終話『Mind of Light』
マイを失った悲しみで泣いていたゲイザに、どこからかはわからないが
ミリアの声が聞こえた。
(ゲイザ……ごめん、ね)
「ミリア……?」
その声は心が闇に飲まれる前のミリアの声だった。
ゲイザは涙を拭い、瞳が虚ろなまま、未だ攻撃を続けているミリアを見た。
(少し、闇の私に打ち勝つことができたの。でも、遅かった――
ねえ、ゲイザ……私を、殺して)
「何を馬鹿なことをいっている!」
ゲイザはミリアに叫んだ。しかし、本人に叫んでも、何の変化もなく、まだ攻撃を続けている。
スレイドも、その攻撃を防ぐのに精一杯だった。
「ゲイザ!! こっちももう持たないぞっ」
(お願い……また、心が闇に飲まれる前に、私を)
再び、ミリアの声が聞こえてきた。本人の口から発せられた声ではなく、
ゲイザの胸の中に語りかけてくるように。
「しかし、俺は……――」
今のゲイザには無理だった。大好きな人を殺すことを、できるはずがなかった。
しかし、再びいつものミリアには戻ることはない……
(このままじゃ、大好きな人たちや、罪のない人たち……そして、ゲイザも殺しちゃうかもしれない。
だから、せめてゲイザが私を殺してくれれば……人を殺し続ける兵器として生きるくらいなら、
私、大好きなゲイザに殺してもらった方がいいから……)
それがミリアが出した答えだった。
ドールとして生まれてきた運命。それに逆らうことなく、唯一、一番幸せにこの世を去る方法。
それは、ゲイザに殺してもらうことだった。
その答えを聞いたゲイザは、拳を握りしめて俯いた。
少しの間、そのまま考えていた。
「――わかった」
ゲイザはやっと腰に下げていた聖剣ラスガルティーと邪剣ザオグガーズ
を両手に取った。
そのとき、二つの剣から眩しい光が放たれ、メイラからもらった
首にかけていたペンダントが光りだした。
「なんだ? この、光は……」
ゲイザの背中から、白と黒の翼が現れ、2つの剣は宙でペンダントと合わさって
薙刀になった。
「これが、マインドオブライト――心の光……」
ゲイザはそう呟いた。
そして白と黒の翼で宙へ羽ばたき、宙に浮かび上がるとミリアを見た。
(私が、私であるうちに……殺して)
するとミリアの攻撃がピタリと止まった。
ドール完全体化したミリアの顔を見てみると、泣きながら微笑んでいた。
そう、いつものミリアに戻っていたのだ。
「ゲイザ。私、マイちゃんも殺しちゃったし……このままじゃ、
ゲイザとスレイドさんまで殺しちゃう。」
ゲイザは俯いたまま、涙を堪えていた。
「せめて、みんなを殺しちゃうくらいなら……私を一番愛してくれた人に、殺して欲しい。
それが、私の最後の……頼み」
そうしてゲイザは聖邪剣、マインドオブライトを構えた。
「ミリア……!!」
ゲイザは堪えきれず瞳から涙がこぼれる。
「ゲイザ……」
ミリアも、涙を流し、俯いた。
「くっ……………でやぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
翼を広げ、ゲイザはマインドオブライトでミリアの腹部を突き刺した。
そして、辺りは光に包まれていった。
ゲイザは目を開いた。
すると、目の前にはミリアが、笑って立っていた。
しかし、その姿は消えかかっていた。
「ゲイザ、これが最後になるから……あなたに、
言っておきたいことが3つ、あるの」
ゲイザは黙ってミリアの話していることを聞いていた。
「最初はね、ありがとう……私を守ってくれて。
ボディーガードだからね、ゲイザは……だから、ありがとう」
そういってミリアは泣きながら微笑んだ。
ゲイザは何か言おうと思ったが、
何も言わないでそのままミリアの話を聞いた。
「2つ目はね……大好きだよ、ゲイザ」
ミリアはゲイザの唇に口付けをした。
「私を、慰めて、守ってくれて……ずっと傍にいてくれて。
嬉しかった……」
ゲイザもまた、泣いていた。
「最後に……私は、ゲイザともう会えなくなっちゃうけど……
でも、思い出は残ってるでしょ? だから、忘れないで……
私も、消えてもずっと忘れないから」
そういってミリアはゲイザの方を向きながら、離れていった。
「さよなら、ゲイザ」
光が消えたとき、ゲイザはドール完全体化したミリアの場所で膝をついていた。
そして、床に落ちていた、欠けたペンダント……
ゲイザはそれを手に取った。
「ミリア……うっ、くっ」
ゲイザは必死に涙を堪えていた。
「さよなら……ミリア」
そして、堪えきれずゲイザは泣いてしまった。
「これで、全て終わった……俺は戻るとするか……」
そう呟くと、スレイドは消え去ってしまった。
光を見る少女。闇を見る少女。
そして、光と闇を持つ少年。
彼らの運命は残酷なものだったけれど、
その先に待つのは光だから……
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