第V]T話「make up my mind」
ゲイザ達はタクス達に先を急げと言われ、上の階を目指した。
この部屋の雰囲気だけ、異様に変だった。
「なんだ、この雰囲気は……!」
ゲイザは腰に掛けてある剣を手に掛けた。
「この感じ、ドール? だが、これは……まさか!」
スレイドは恐る恐る、歩いていた。
「ミリアさん? だけど、この魔力は強力すぎます」
光の魔力も感じ取れる。しかし、闇の魔力も感じ取れた。
マイはゲイザの後ろに隠れながら歩いていた。
「これは――ドール、完全体……!!」
ゲイザ達の目の前にあったもの。それはドールの完全体化した
ミリアの姿だった。
「ミリア、そんな……!!」
「手遅れ、だったのです、ね」
「くっ、最悪な事態を招いたか」
ゲイザ、マイ、スレイドがドール完全体化したミリアを見ていたとき、
灰色の触手っぽいものがゲイザ達に襲い掛かった。
「やらせん!」
スレイドはその触手を切り捨てた。
「ゲイザ、もうこうなっては彼女は助からない!」
襲い掛かってくる触手を剣で切り落としながらスレイドは後ろに立っているだけの
ゲイザに言い聞かせた。
「だからって、殺せというのか!?」
「そうだ。それしか道がないんだ!」
ゲイザはそれでも剣を鞘から抜かなかった。
大好きな人を、そう簡単に殺せる分けない。
「ゲイザさん……ワタシ、どうすればよいのでしょう?」
マイもまたゲイザと同じように迷っていた。
彼女も、ミリアのことを大切な人だと思っているのだから。
「くっ! 俺一人ではこの攻撃は防ぎきれん……!」
襲い掛かってくる触手を、スレイドは切り払い続けていた。
迷っているマイやゲイザに襲い掛かる触手も。
「ゲイザ! どっちにしろ、彼女を止めなければ、人々は滅びるぞ!」
「だが、俺は……ミリアを殺すことは、できない!」
ゲイザは俯いた。
「迷いは運命を狂わせる……この世界に住む人々を助けたいか、それとも
光のドールを殺さずこのままにしておくか……」
スレイドはゲイザに託していた。この世界を救うか、ミリアを殺さないか。
「彼女はもう彼女ではない。たとえ殺さなかったとしても、仲良く一緒になんて
ことは、もう無理なんだ!!」
「くっ、ミリア……!」
ゲイザはミリアを見た。下半身は触手が絡まってわからないが、上半身だけはしっかり
見えている。あのときのまま、目は虚ろなままだ。
「ミリア……」
「ゲイザ」
「ミリア!?」
ミリアが口を開いてゲイザという名前を喋った。
「破壊、する……何も、かも」
しかし、前のミリアには戻らなかった。
「前のミリアには、戻ってくれないのか!?」
「無理です。心の闇が、彼女の心を呑み込んでいます……」
「ゲイザ!! どうするんだ!」
再びスレイドに答えを聞かれたゲイザは悩んでいた。
「くそっ……俺は」
まだ答えは見つからない。
大切な者を殺すか、世界の人々を殺すか。
「俺は――」
と、そのとき、一本の触手がゲイザに襲い掛かろうとしていた。
「くっ! ゲイザ! 触手がそっちへ行ったぞ!」
スレイドは防ぎきれなかった。触手は先端を尖らせ、針のように鋭くなった。
言われてからその触手に気づいたゲイザは、もう逃げれなかった。
「っく、逃げれない!!」
そのとき、ゲイザは刺さったと思い、目を瞑っていた。
しかし、痛みは感じられない。
そのかわり、前の方で誰かが倒れる音がした。
目を開くと、目の前にはマイが倒れていた。
「マイ!!」
倒れたマイを、ゲイザは抱きかかえた。
「ゲイザ、さん……」
触手は見事にマイの命ともいえるペンダントを貫いていた。
「ワタシ、もう……だめ、みたいです」
「なんで、俺を庇った!」
「そうしたかったから、です……ワタシは、ゲイザさんを守りたかった。
真っ直ぐで、ワタシとミリアさんのことをいつも思っていてくれていた、
ゲイザさんを……」
苦しそうな声を、マイは一生懸命出してゲイザにそう言った。
「チクショウ! 俺はミリアとマイを守るために、一緒にいたのに……
守るはずの俺が、助けられるなんて……!」
マイの瞳には涙があった。
「でも、ゲイザさんのために、死ねて――嬉しかった……」
「マイ……!!」
ゲイザも、守りたかった人を守れない悔しさで、泣いていた。
最後にマイは……微笑んで目を閉じた。
そして、ペンダントは砕けてマイの体は溶けた。
「マイ……俺は、お前に何もしてあげてなかったのにっ!」
「ゲイザ、どうするんだ……!」
スレイドは尚もまだ、触手を切り払っていた。
「俺は……っ!」
(ゲイザ……)
そのとき、心の中にミリアの声が聞こえた。
続く
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