第V話『もう一人の旅立ち』
タクスは自分の家に戻って絶句していた。
そう、そこには母親が倒れていたのだった・・・
「母さん! 母さんっ!? ――そんな、ウソだ!」
信じたくない、そんな気持ちでタクスは母親の死体を見ていた。
殺したのは、黒いコートを身に纏った謎の男に違いない。
そう思ったタクスは外に飛び出してゲイザの家に向かった。
「ゲイザ!!……おい、いないのか!?」
家の扉を開けてみたら、誰もいない。
だけれど、食料や本、食器などが散らかっていた。
「まさか、ゲイザも? アイツは、アイツはどこだ!!」
と、そのとき誰かがゲイザの家に入ってきた。
「ちっ、一足遅かったようだ。む、小僧……?」
さっき村を襲ったあの男だった。
「お前は、さっきの!! なんで母さんを殺したんだよ!」
「あぁ……『アレ』はお前の母親だったのか。抵抗してきたから殺したまでさ」
タクスは憎しみが込み上げ、拳を握った手は怒りで震えていた。
「お前が、お前がっ!!」
剣を構え、斬りかかった。
「憎しみや怒りだけで何ができる? 力がなければ、なにもできなかろうに!!」
男は素手でその攻撃を止めてタクスを吹き飛ばした。
「がぁっ!? ……く、くそ――俺、は……何もできない、のか?」
タクスは吹き飛ばされたせいで息ができない状態だった。
男はタクスの前まで歩いていった。
「ふっ、悔しいか? ならばオレを憎め。オレはミリアを殺す……
一緒にいるやつも同じく殺すさ。多分、お前の相棒だろう……じゃあな」
そういうと男はゲイザの家を出て行った。
それと同時にやっとまともに起きれるようになってタクスは起き上がった。
「ゲイザは生きてるのかミリアって子と一緒に……そして俺はアイツを殺したい。
俺も……旅立つよ」
タクスはゲイザの家を出て自分の家に戻った。
「持ち物は……これでいいよな」
リュックに旅に必要なものを詰め込んでいた。
誰もいない、静かな家。
誰もいない、静かな村。
前は暖かかった、家と村をめちゃくちゃにしたヤツ。
タクスは許せなかった。
リュックを背負い自分の家を出たら家の横に立てた墓を見た。
「母さん、いってくる……さようなら、元気で」
そういうとタクスは歩き出して村を出た。
タクスは地図を読みながらディーファ森の目の前にいた。
「危険そうな森だが、進むしかないよな……」
怪しい森に足を踏み込んだ。
南の方角へ進むようにして歩いていたタクスはふと、目の前に変なものがあることに気づいた。
「この岩の大きさ、モンスター? ゴーレムか!!」
「マタ、テキ……コロス」
「また? ――そ、そんなことより、来る!」
ゴーレムは大きな腕をタクス目がけて振った。
しかしタクスは剣で受け止めて何とか大きいダメージはしのいだ。
「次はこちらからだ! 魔術剣、ファイアブレイク!!」
剣先から噴出す炎を纏った剣で斬りつけたが、ビクともしなかった。
「効いてない!? ならば・・・!」
もう一度、ゴーレムに攻撃を与えようとした。
「奥義、斬裂十華撃(ザンレツジュウカゲキ)!」
華麗に剣を使って10回ほど斬りつけた。
その奥義でゴーレムは倒れてしまった。
「ふう、やっぱり一人はキツイ……ゲイザがいればな
――いや、そんなこと言ってる場合じゃない。先へ進もう」
そういってタクスは出口に向かって歩き始めた。
「やっと出口だ……というか、もうこんな時間か。今日は野宿にするかな」
タクスは森から少し離れたところに木を集めて焚き火をした。
食事はさっき森で狩った肉食モンスターの肉だ。
「俺、どうすればいいんだ……この先、一人で戦って行けるかな」
タクスは星空を見上げた。そして、小さな声でため息をついた。
「あいつは強いし、俺もいつ殺されるかわからないんだよな。
どうしよう……この先、俺は」
そのとき、遠くで大きな爆発音が聞こえた。
どこからか煙が出ている……
タクスはその方向へ走っていった。
「これは……?」
一軒の家が建ってた。近くには村がある。
スライグ村だ。人々は動揺してる人ばかりだ。
よくみるとモンスターがあちこちにいる。
「うっ!? ……このモンスター、村に――なぜ」
村には普通、「魔法結界」というモンスターを村に入れないための呪文が施されてある。
しかし、モンスターが村に入れることができるのは・・・
「あいつ!? まさか、この村までも!!」
そう、あのときの男なら可能なのだ。
モンスターを召還できる能力。並みの人間ではできない呪文だ。
「誰か助けて!! し、死にたくないー!」
ここの村人らしき男の人が叫んでスライムに追われている。
タクスは剣をぬき、スライムを一刀両断した。
「くそっ、ここの村の人を助けるんだ! ――ラミアズ村の二の舞はごめんだー!!」
村のあちこちにいるモンスターをタクスはひたすら倒し続けた。
「くらいな! 烈火!」
どこかでモンスターと戦ってる女の声が聞こえた。
「そこの人! 一緒に戦おう!」
タクスがその女に大きな声で話しかけた。
「ええ、わかったわ。あたしの名前はネイアー=ビアルグア」
「俺はタクス=カタスロフィ。よし、行こう!!」
二人は残りのモンスターを倒し始めた。
「大地よ……くらえ、魔法剣グランドフォール!!」
タクスは剣を大地に突き刺し、地割れをおこして敵を消滅させた。
「氷牙、龍陣!!」
弓で矢を放ち、追加攻撃で氷の柱で敵を攻撃した。
そして、モンスターが全滅。
「やっと、おわった……」
タクスはため息をついた。するとネイアーはふと気づいたように走り出していった。
「お、おい! ――なんなんだ?」
いきなり走りだしていったネイアーをタクスは追いかけることにした。
ネイアーがいた場所は、最初に見た一軒の家だ。
すると、ネイアーはその家の中に入っていった。
そっとタクスは中を覗くとないていたネイアーがいた。
「なんで、死んじゃうんだよ……お母さん、お父さん、
ユイ……」
さっきの戦いで、モンスターに殺されたらしい。
父や母、妹……
(俺と、同じだ……)
「あ、あはは――み、見てたんだ……」
ネイアーはタクスが見ているのに気づき涙を拭って苦笑いしてみせた。
「俺も、殺されたんだ。母さん……」
「そう、なんだ……」
「ちょっと話が長くなるけど、聞いてくれるかな?」
そういって、タクスは村であったこと。
あの男のこと、謎の少女と友人ゲイザのこと……
すべてを話した。
「そうだったんだ……これからも、旅がんばって」
「うん、ありがとう」
タクスは家を出て行こうとしたとき、
「あの、あたしも連れて行ってほしいんだけど」
「――なんでか、教えてくれないか?」
「あたし、タクスさんやあたしみたいに悲しむ人を増やしたくないから。
だから、せめてみんなのために出来ることをしてみたいって、あたしはそう思った」
ネイアーは、本当に決意したとタクスは思った。
「ああ、わかった……よろしく、ネイアー」
続く
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