第[話 『風が吹く場所』


「そろそろピューウラ村に到着ね」
地下洞窟を出て北東へ向かい風魔の谷の近くのピューウラ村へ向かっていた。
精霊と契約するのにも結構体力を使う――戦いやそこまでの道のりなどで――ので、
風魔の谷へ向かう前に近くにあるピューウラ村で休んでから行くことにした。
「あ、ちょっと風が強くなってきたですの」
強い風で飛ばされない様にラティーはイルアの肩につかまった。
「そうね……ここらへんはちょっと風魔の谷の影響もあって風が強いって言われていた
はず――」
「あ、見えましたよ、イルアさん! あれがピューウラ村ですの」
一歩一歩、歩くにつれて遠くにある村がだんだん見えてきた。
そして村が見えてくると同時に風もだんだん強くなってきた。
イルアとラティーは風に髪をなびかせながらピューウラ村へ向かった。


「ふぅー……風がちょっと強くて吃驚したけど、村はそうでもないね」
イルアは村の入り口に入ると同時に辺りを見回した。
村は石壁で囲まれており、縦の長さは20メートルはありそうな高さのものだ。
簡単に言ってしまえば、砦のようになっている。
「なるほどですの〜。魔物や敵などを村から守るためにも使えるわけですのね」
「なんだか、周りは石の壁なのに上を見ると空があるって、ちょっと変な感じ……」
イルアは周りを見回してから空を見上げる。いつもどおりの青くて清清しい空だった。
それに、風が強い影響もあり空気は丁度よく涼しい感じがした。ちなみに、今の季節は冬。
この辺りは全く雪が降っていない。おそらく精霊の影響かもしれない。
「そうですね〜……――それより、さっさと宿屋をとるですの。ちょっと休みたいですのー」
ふくれっ面でラティーはイルアの目の前で腰に手を当ててみた。
と、目の前に幸いちょっと離れたところに宿屋はあった。
「そうね、それじゃ、宿屋に――あれ?」
目の前にラティーがいて見えなかったけれど、さっき宿屋に知っている人が――もっと詳しく
言えばつい最近までちょっとだけ一緒に旅をした人が宿屋に入って行った気がする。
「どうしたですの?」
「いや、なんでもないない……」
「それじゃ、早く行こうですのー」
(まさか、こんなところにいるなんて……)
イルアはそんなことを思いつつ、ラティーの言うとおりに宿屋に入っていった。


一方、風魔の谷付近にいたレンは近くの大きい山に来ていた。
『レンさん、何故ここへ?』
ポケットに入っている少し欠けた黒い宝石がレンに喋りかける。
しかし、レンはその言葉には答えずただその山の頂上を目指して歩いていた。
『あの、レンさん……』
それに気づいたレンは一旦立ち止まり、ポケットから黒い宝石を取り出した。
「すまん、勝手な行動はしないつもりだったんだが――きっと、ここの山にあいつがいる
と思うんだ。お前の元持ち主……あいつに」
『あの方ですね。闇の心の、あの女剣士……』
赤い身軽そうな服装をした、髪の長い剣士だったと、マイは思い出して言った。
「あいつには借りがある。だから今あいつと会わなきゃいけないんだ」
そういうと、レンは歩いていた足をもっと速くして山の頂上へ急いだ。


宿屋に入ったイルアとラティーは、とある人物と再会していた。
「お、お前は確か……イルアだったっけ?」
「イルアさん、お久しぶり!!」
青い髪のツンツン頭の少年と、灰色の髪の髪を両方で縛っている少女。
キシュガルとリュアだった。
「マルディアグを放浪していたので、いつか会うと思っていたですのー」
ニコニコと笑い喜んだ様子でイルアの肩に座ったラティーが言った。
「へへっ、ラティーも元気そうだな」
そのラティーの笑顔に負けないくらいの笑顔でキシュガルも答えた。
「っていうか、なんでイルアさんがここに?」
リュアの疑問にイルアはちょっと戸惑いながらも、かつての仲間であったキシュガルと
リュアに今まであったこと全てを話すことにした。ゲイザが消えてしまったこと、そして
新たな世界の危機を――


レンが走り、たどり着いたのは山の頂上にある遺跡だった。
その遺跡の入り口には、一人の女性が立っていた。
――まるでレンを待っていたかのように。
「よく来たわね、レン」
優しそうな声。それはレンにとっては甘い誘惑にしか聞こえなかった。
レンは拳を握りしめ、怒りを込めた眼差しでその女剣士を見た。
「貴様……っ!!」
「ここにいれば、あなたと会える気がしたわ」
「何をほざく!! 俺と会いたい、みたいな事言って……」
「会いたかったんだもの、いいじゃない」
「うるさいっ!!」
『!?』
今までにない以上に怒りをあらわにしているレンに、マイは吃驚した。
眉間にしわを寄せて、今にもくって掛かりそうな勢いだ。
「俺は、あんたを――ルディアを殺さないと気がすまないんだ」
「姉の私を? あんまりじゃない?」
「闇の道を選んだあんたは、俺の姉じゃない。お前はもう俺の姉じゃない!!」
鞘から剣を引き抜き、レンは剣を構えて走り出した。
イルアと戦ったときとはまた違い、我を失ったような感じだ。
「はぁぁぁっ!!」
『レンさん!! 危ない!』
少し小さい声が、マイの声が確かに聞こえた。
その声は危機を呼びかけるもの。それはわかったのだが、その出来事は一瞬のうちに
起こってしまった。
「あくまで私に剣を向けるのね」
「かはっ……!?」
一瞬。剣の煌きしか見えなかったけれど、確かにルディアは剣でレンを斬りつけ、確かに
レンの背後に立っている。血がレンの腹から溢れ出している。
「いいわ……でも、止められるかしら、世界の危機を」
「な、に……っ?」
「危機を救う鍵は、こちらにあるもの――『ゲイザ=ライネック』が」
『っ……………!?』
なぜゲイザ=ライネックという名が、そのマルディアグという世界で――
なぜゲイザ=ライネックが、世界を救う鍵――
マイは一瞬混乱してしまったけれど、ミリアのペンダントを身に着けた少女を思い出し
やっとわかった。ゲイザはこの世界に来ていたのだ、と。
「ふふっ……あなたも闇の世界へ来ればわかるわ。闇の心地よさが」
「くっそ……」
血が出ている腹を押さえながらも、まだ剣を片手に持ってルディアを睨みつけている。
しかし、レンはついに痛みに耐え切れずその場に倒れてしまった。
「……さようなら、私の弟。今度会うときは、敵、ね」
なんだか寂しそうにルディアがそう呟くと闇を体に包み込んで消えていった。
『ゲイザさんが……いるの? この世界に、なんで……』


「少しの間に色々あったんだなぁー」
キシュガルがテーブルに頬杖をついて、少しダルそうに息を吐いた。
「で、その精霊と契約しにいく旅の途中、というわけ?」
「そういうことですの♪」
頭の中がちょっと混乱しているリュアは、ラティーにそう質問し宿屋のカウンター
付近にあったテーブルから離れた。
それに気づいたキシュガルはリュアを追いかけた。
「ちょ、ちょっとリュア! お前どこ行くんだよ!!」
「決まってんでしょ、休むの。明日はイルアさんの手伝いしないと」
「へ?」
聞いたキシュガルも、後ろで椅子に座っているイルアも、テーブルの上で座っている
ラティーも、リュアの発言に吃驚した。
「そ、そんなに吃驚しなくても……」
「あは、あははは……でも、無理に手伝わなくてもいいよ、リュア」
イルアは苦笑をしてから自然な笑いでリュアに話した。
「いいえ、手伝います。なにせ私たちは困っている人を助けるのが目的ですから」
「あ、なるほど……そうだな、手伝うか」
リュアの言葉にキシュガルは納得し、とりあえず一晩宿屋に泊まってから
風の精霊がいる風魔の谷へ向かうことにした……


続く……

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