第Z話 『契約者の力』
イルアとラティーはルアグ博士の研究所があるレスコォールという街から少しはなれた所
にある地下洞窟に来ていた。
「ねぇ、また精霊と契約するために奥まで行かなきゃいけないの?」
少し弱音にも聞こえるような声でイルアは少し前を飛んでいるラティーに問いかけた。
水の精霊との契約のときも水晶洞窟での長い道のりを歩いた。なのでさすがに再びもの
すごい距離を歩くのは嫌だった。
「それは私にもわからないですの。でも、きっと今回も奥にいるですの」
「やっぱり、奥なのね……」
ガクリ、とイルアはラティーの言葉を聞いて肩を落とした。
「精霊って、奥が好きなのかしら」
ふとそんな疑問がイルアの口から出た。
というか、そんな言葉をいいたくなった。
『そんなことありませんよ、イルアさん』
「えっ!?」
どこからか聞こえる、聞き覚えのある大人びいた女性の声がイルアから聞こえた。
「イルアさん、何か言いました?」
「いや、私は何も……」
『ここですよ、小刀です』
その声が場所を指示する。イルアは腰にかけてある小刀を鞘ごと手に取ってみた。
少し光っている。多分、これから声が出ていたのだろう。
でも、誰の声かはわからない。
『水の精霊、ウィルティーです。驚かせてしまってすみません』
「なんで、声が?」
イルアが小刀に話しかける。遠くから見たら変人に見えかねないような絵だ。
「契約をした小刀を通じて私と会話が出来るようになっています。それに、その小刀を
利用すると協力な魔法なんかも使えちゃったりもしちゃいます」
「ふむふむ、なるほどですの」
『ウィルティー、あなたはどこにいるの?』
ウィルティーが言った言葉の一部、「小刀を通じて私と会話が出来るようになっています」
という発言が何か引っかかる。
『私はどこにでもいます。具現化できる場所が限られているだけです』
「どういうこと?」
とてもわかりづらい説明。イルアとラティーは首を傾げているばかりだ。
『簡単に言えば、私が姿を現せる条件が満たされている場所はあなたと契約した場所。
水晶洞窟の最深部とイルアさんの目の前です』
「目の前、って……どういうこと?」
『普段はイルアさんの目の前でも具現化はできないのですが、契約者が力を望めば具現化
できるんです。でも、契約者の体力が結構削られるので無駄に私を具現化しないほうが
よろしいですよ――わかりましたか?』
さっきの説明とは打って変ってわかり易く、尚且つとてもためになる説明になった。
イルアとラティーはウィルティーの言葉には答えずただ首を縦に振って頷いていただけ
だった。というか、契約にそんな効果があったことに初めて気づいたので声も出ないくらい
ただただ、頷いていただけだった。吃驚したという気持ちもあったのだろうが。
「わかっていただけたようなので、私はこれで……地の精霊ノルスの所までついたらまた」
ウィルティーは小刀からそういうと、小刀から放たれていた光は消えて声も聞こえなくなった。
「あ」
小刀の光が消えてから少したってラティーが何かを思い出したように声を漏らした。
「イルアさん、そういえば……精霊さんって何で奥にいるんですの?」
「ウィルティーが言っていた内容によると、多分奥しか具現化できないからだけど……
別に奥じゃなくても、いいよね――聞いておけばよかった」
と、再び肩を落とした。
風が強く吹いている丘の上に、レンが立っていた。
そして丘から広い大地と空を見渡していた。
「精霊はあいつらがどうにかしてくれそうだな」
『そのようですね……ミリアさんのおかげ、ですかね』
右手の手のひらに握られている少しだけ欠けた黒く澄んだ宝石を見つめて話しかける。
その宝石には意識が宿っているようで、レン自身もよくわからないけれど、他の人間には
全く聞こえないらしい。
「……お前は一体なんなんだ? いい加減に教えてくれてもいいだろう……名前も、存在も」
この前拾った宝石で、結構話しているけれどまだ名前すら教えてもらっていない。
それどころか、なぜ宝石に意識が宿っているかという事自体も。
『……………』
「駄目、か?」
少しの沈黙。そして、宝石から小さい声が微かに聞こえた。
『――ワタシはマイ。宝石に意識を閉じ込められ、兵器として作られた存在、ドール』
レンは空を見上げる。
でも、小さい声はちゃんと耳に聞こえていた。
黒い宝石から聞こえた声はとても悲しそうな、風の音に消されそうな小さい声だった。
「ドールっていうのは、なんだ?」
初めて聞いた言葉だ。この世界にドールという意味を持つものはない。
『愚かな人間を殺すために、精霊によって作られた殺戮兵器……』
「お前は元々グラディームにいたんだな」
『――はい』
「なぜ、あの女がお前を持っていた」
『利用価値があるから、だそうです』
「そうか」
二人にしかわからない会話を淡々と続けて、少しの沈黙。
そして、ちょっと気まずそうな顔をしたレンが、会話を切り出した。
「俺はお前――マイの指示に従おう。目的は同じようだからな」
『そうですか……わかりました。よろしくお願いしますね、レンさん』
「……ああ、よろしく」
レンにはその手のひらにある黒い宝石に宿っている意思の女の子、マイが笑っているよう
に感じられた。
そして、強い風が吹き荒れる。
「多分、ここら辺が最深部だと思うんですけど――」
広い行き止まりの場所を見渡してラティーがイルアに言った。
確かに、行き止まりということは最深部だろう――それにその場所の中心部には祭壇が
ある。
『地の精霊ノルス、出てきなさい』
小刀が再び光りだして、ウィルティーのいつもより大きい声が聞こえた。
すると祭壇に光が集まり、それが次第に人の姿になって行く。
「……ったく、うるせぇなあ」
また、人の姿をしている。人間のようだけれど、精霊だ。
ウィルティーとの違いは性別が男でいい体つきをしていることだろうか。
『ノルス、精霊であるもの、礼儀は正しくしなさい』
「はいはいはいはい、わーった。まったく、ウィルティーは説教が好きだなぁ」
『……………』
なんだか、ウィルティーとはうって変わってまったく別の性格だ。
イルアもラティーも精霊はウィルティーみたいな丁寧な言葉や正しい礼儀をしている
と思っていたけれど、それは全く違うものだった。
「契約、したいんだろ?」
「あ、は、はい」
イルアはいきなりの問いにしどろもどろしながたも答えた。
その返事を聞くとノルスは土の中から斧を取り出した。
「やっぱり、また戦うんですの……?」
「そのようね。やるしかないわ」
ラティーが戦う場所になりそうなところから飛んで逃げ、イルアは腰に下げてある鞘から
柄を掴んで曲刀を取り出した。
「そうそう、そうこなくちゃ――力を見せてもらうぜ!」
ノルスが大きな斧を振り上げる。あんなものをまともにくらうと死んでしまうだろう。
ウィルティーのときと同じく、イルアは頭の中で戦法を考える。
「でりやぁぁぁっ!!」
大きな斧を片手に、まだ間合いが足りないはずなのにイルアを標的に振りかぶる。
「グランドクラッシャァァァッ!!」
地面にそのまま斧を叩きつける。するとイルアを目掛けてその叩きつけた場所から
沢山の岩の柱が次々と出現する。
『イルアさん、水の力を使ってください!』
「み、水の力!?」
『小刀を取り出して、イメージするんです!』
「わかった!」
ウィルティーの言葉を聞いてすぐに小刀を取り出す。
(守って!!)
心の中で『守り』をイメージする。
そのとき、イルアがその岩の柱に飲み込まれて、辺りが砂煙によって包まれた。
「イルアさん!?」
遠くから見ていたラティーには、その岩の柱がイルアに直撃したように見えた。
けれど、砂煙のせいで見えない。
「へっ、もう終わりかぁ?」
へらへらと笑いながらノルスが斧を肩に背負いながら砂煙を見ていた。
と、そのとき――
「ウォーター、スラッシュッ!!」
砂煙の中から水圧のよって固められた水の塊がノルスを目掛けて飛んできた。
「うお!?」
間一髪のところでノルスがその水の塊を斧で真っ二つにした、
そして、目の前を見てみると無傷のイルアが立っていることに気づかされた。
「水は癒しや守りの属性でもあるから、身を守る『バリアー』が役に立ったわ」
曲刀を右手に、そして小刀を左手に持っているイルアはノルスを見てにやりと
笑った。
「イルアさん、地は水に弱いですから、バンバン攻めていっちゃってくださいですのー!」
「了解! ――清らかな水よ、我を傷つかんとする敵を飲み込め……」
曲刀を腰の鞘にしまい、小刀を片手に呪文の詠唱をし始めた。
それに気づいたノルスもさすがにやばいと思い、こっちは強行突破で斧を片手に突っ込んで
きた。しかし、その間に詠唱は終わる。
「水よ、全てを飲み込め! ウォータートルネード!!」
その声と同時にノルスの目の前に大きな水の竜巻が現れ、ノルスはその水の竜巻に飲み込まれた。
そして、水の竜巻が消えるとそこにはノルスの姿がなかった。
「わーったよ、負けだ、負け」
光が再び祭壇に集まり、ノルスがそこに現れた。
さっきの魔法で大きいダメージはさほどくらっていなかったようだ。
「ったく、ウィルティーはどっちの見方なんだよ……」
『私は、契約者の見方ですよ――もちろん、あなたがた精霊も』
「へいへい、そうかいそうかい……そら、さっさと契約しな」
ノルスは胸を反り上げ、いつでもイルアがそこに小刀を刺せる様にした。
もちろん、痛みはないのだが。
「契約させてもらいます、地の精霊ノルス」
イルアは小さい鞘から小刀を取り出し、ノルスのいる祭壇の前まで向かって行った。
さすがに契約も二回目なので戸惑いもない様子だ。
そしてイルアはノルスの前に行くと、いきなり小刀が光りだしてウィルティーの声が
聞こえた。
『ノルス、少し私たち精霊は人間について考え直さないといけないと思います』
「……………」
『私の契約者、イルアさんは――』
「わーったよ、説教は後で聞いてやるから、早くしやがれってんだ」
少し虫の悪そうな感じでノルスが言ったけれど、さっきのウィルティーがノルスに向けた
言葉は、少なくとも説教とは言いがたい感じだった。
『イルアさん、契約を』
「はい」
ウィルティーがそういうと、小刀が放っていた光が収まった。
そして、その小刀をノルスの胸に突き刺す。
辺りが光に包まれて、その光が消えたときには祭壇の上にいたノルスの姿は見えなくなった。
「やりましたですの、イルアさん」
「これで二つね……残りはわからないけれど、博士が言うにはここから北東にある村の近く
の風魔の谷にいるって」
「多分風の精霊さんですのー。あ、でも近くに村があるからそこで少し休んでから
いきましょうですの!」
「うん、そうね……ちょっと疲れちゃったし。魔法ってのも、結構疲れるものなのね」
地の精霊ノルスとの契約を交わしたイルアは、小刀を鞘にしまって腰につけ、
ラティーと共に再び長い道のりを戻って風魔の谷の近くにある村を目指した。
続く……
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