最終話 『Words for you』
レンたちがルディア、ショーンルと戦っている隙にイルアはラティーと共に、その先の部
屋へと向かっていた。
そこは再び長い通路になっていて、その置くにはエレベーターがついていた。
「ディメガスのときのと似てますですのー」
そうだとしたら、この先にアラグダズガがいるはずだ。
そう思ったイルアは、とりあえずそのエレベーターに乗り込んでみた。
「ラティー」
あまり大きくないエレベーターにイルアの声が響いた。
「ん? どうしましたですの?」
「危なくなったら、逃げてね」
微笑んでラティーにそういったけど、逆にラティーは怒っていた。
「イルアさんを見捨てて逃げるなんて、できないですの! ましてや戦えないのに……」
「そっか……ありがとう」
お礼を言われたラティーは、少し照れたように笑った。
そんな話をしているうちに、エレベーターは上へとあがり、到着していた。
扉が開く。
その先にあったものは、大きな紫色の光を放つ丸い物体。
イルアとラティーは、それに近づいてみた。
「これは……もしかして、動力源?」
「その通りだ……イルア=ディアーグ」
「あなたはっ!」
イルアの後ろには、大剣を構えたアラグダズガが立っていた。
それに気づいたイルアは、すぐに鞘から曲刀を取り出し構えた。
「あの時の力を見せ付けられても、まだやろうというのか……」
「私は、負けられないっ」
そんなイルアの言葉を聞いたアラグダズガは大きい声で笑った。
「くっくっく……笑わせるな。人間は想いだけでは何も出来ないのだろう? 力!! 力
がなければ何も出来ない!! 違うか? そうだろう?」
「私は、想いが力になると思う……どんなことでも、真っ直ぐに、真剣に願っていれば、
それはそれを成し遂げる力になる」
「そんなことが出来たら苦労はしない……どうやら考えが甘いようで」
「!?」
アラグダズガが大剣を構える。
「ラティー、危なくないところまで逃げてね!」
「はいですの!」
ラティーに指示を出したイルアは、再びアラグダズガを見た。
いつ、どうやって、どう攻めればいいかわからない。
そんな状況に、イルアは戸惑っていた。
「はぁぁぁっ!」
決心したイルアは、曲刀を片手に、アラグダズガへと向かって走り出した。
しかしアラグダズガは全く動かず、ただそこに立っているだけだった。
イルアの一撃が、アラグダズガを斬りつける。
「甘いっ!」
斬りつけたのは幻影で、イルアの後ろに大剣を構えて立っていた。
すぐにそれに気づき、曲刀を縦に構える。
大剣が、横に振られイルアに襲い掛かった。
「きゃあっ!」
その一撃はとても重く、怪我はしなかったがイルアは吹き飛ばされてしまった。
「っ――」
体に痛みが走るが、それでもイルアは堪えて立ち上がり、再び曲刀を構えた。
「それでこの私を倒そうとしていたのか……笑わせるっ!」
「イルアさんっ!!」
ラティーが大声で危機を伝える。
「曲刀が……折れてるっ!?」
先ほどのアラグダズガの一撃により、曲刀が折れてしまったのだ。
「これじゃ、戦えない……」
「諦めるんじゃない……!!」
そんな弱音を吐いたときエレベーターの方から声がした。
イルアは振り返ってみると、そこにはゲイザとルミィーがいた。
「ゲイザ=ライネックだと!!?」
「間に合ってよかった……」
ゲイザはイルアの傍に駆け寄ると、両手を前に突き出して呪文を唱えた。
「我が契約にて、出でよ!!」
その両手に光が集まり、白い剣、聖剣ラスガルティーと黒い剣、邪険ニールファが握られ
ていたのだった。
「貴様が俺が倒す、アラグダズガ!!」
「ちっ……お前はいつも私の邪魔をするんだな……」
アラグダズガは標的をイルアからゲイザに変え、ゲイザは二つの剣を両手に持ち、構えた。
「今日こそつけてやる……決着を!! ――ルミィー、サポート頼む!」
「はいです〜」
ゲイザの横にいた妖精は、宙へと飛び上がった。
「ゲイザ、私も戦いたい……ダメ、かな」
「……これを受け取れ」
ゲイザの片手に握られていた、黒くて細身の剣――ニールファをイルアに手渡してあげた。
イルアはそれを持ち、ゲイザの横に立って構える。
「小賢しい……まとめて消し去ってくれる!」
アラグダズガの大剣が、縦に振られた。
それは直接の攻撃ではなく、衝撃波による攻撃だった。
「ルミィー!!」
「はいですー! ……聖なる壁よ、我が汝たちを守れ……バリアー!!」
その呪文と共に、ゲイザとイルアを囲むように見えない壁が現れた。
妖精型ホムンクルスにしては、すごいほうだろう。
「私の野望はこんなところで朽ち果てるわけにはいかんのだ!」
次は直接攻撃へと持ち込んできた。
すぐにゲイザはアラグダズガの元へと向かい、大剣をラスガルティーで防いだ。
「黙れっ!! 自分の星のために戦う理由はわかる……しかし、戦いで勝ち取った世界な
んていいもんじゃないだろう!」
「何故だ……私は星のため、自分の存在のために戦っているのだ!!」
「たかが自分の存在のために、他の人間を巻き込んで、人を不幸にするっていうのか!?」
鍔競り合いのまま、話は続いたがアラグダズガの大剣にとてつもない力が入りゲイザは弾
かれてしまった。
「ちぃっ……それは貴様自身のエゴだ!!」
「エゴで結構!! 私は私のために戦う!!」
「何故、人のことを考えることが出来ない!! 存在を保つのに、多くの人間を傷つけて
もいいって言うのか!?」
「それが私の生き方だ!」
その一言で、ゲイザは諦めたのか顔を俯かせた。
再び顔をあげたときは、決心をしたように左手の拳を握り締めていた。
「イルア、攻撃を叩き込む! ついて来れるか?」
と、イルアの方を向いてみると、イルアは笑って頷いた。
「上手くゲイザと息を合わせてみるよ!」
「よし……行くぞっ!!」
二人は一斉にアラグダズガへ向かって走り出す。
ゲイザが正面から向かって斬りつけるが、それは大剣によって防がれてしまった。
「隙あり!」
その隙をついて、イルアは背中へと回りこんで突きの一撃を決めた。
そしてアラグダズガの防御が崩れる。
「はぁっ!!」
ゲイザの横切りが、見事にアラグダズガの腹筋へと刻み込まれた。
「行くぞ、イルア!」
「うん!」
二人は並んでアラグダズガの真正面に立つ。
今なら怯んでいるので、どんな攻撃でもくらわせれる。
「これが光と闇の最終奥義! ――ホーリーッ!!」
ゲイザがラスガルティーに光の力を溜める。
「ダークネスッ!!」
イルアがニールファに闇の力を溜める。
「「クラッシャーァ!!」」
二人の攻撃が、アラグダズガを襲う。
そして光と闇が共鳴し、大きな爆発を起こした。
爆発が消える頃には、アラグダズガの姿は消えていた……
静まり返った部屋。ただ動力源が動く音だけが聞こえていた。
「イルア、動力源を止めるんだろう」
「うん……これは、ミリアちゃんに任された私の仕事」
イルアは自然と胸に手を当てたが、ミリアのペンダントがないことに気づいた。
小刀を腰から取りだすと、動力源となっている物体に小刀を突き刺した。
そして、柄を握ったまま、力を込める。
水色、茶色、黄緑色、青色、紫色、赤色、黄色、灰色、そして、黒、白の色の光体がイル
アの体からその動力源へと向かっていった。
それを黙ってゲイザ、ラティー、ルミィーは見ていた。
次第にイルアの表情が青ざめていった。
それを見て心配したルミィーがゲイザに話しかけた。
「ゲイザさん、あの方、大丈夫ですかー?」
「……………」
「ゲイザさん!!」
今度はラティーがゲイザに怒鳴ってきた。
「イルアさんの所へ行ってあげて下さいですの」
するとゲイザは少し笑って、ゆっくりイルアの元へと近づいた。
「お前たちはエレベーターで下の階にいるやつらと合流していろ……いいな」
「はいですー」
「了解ですの!」
同じ妖精型ホムンクルスのラティーとルミィーはエレベーターへと向かい、そして消えて
行った。それを確認すると、ゲイザはイルアの傍へと向かった。
「イルア……辛い、か?」
「ううん、だい、じょうぶ……」
そんなイルアの言葉とは裏腹に、とても苦しそうだった。
ゲイザはそっとイルアの柄を握る両手に、そっと手を添えた。
「お前は、無理しすぎだ……」
ゲイザは笑ってそういうと、イルアも笑った。
そして脂汗が、額から流れた。
「ゲイザ……本当はね、大丈夫じゃ、ない……」
「やっぱりな」
そしてゲイザもその小刀に力を送る。
するとゲイザからも光体が出て、動力源へと向かった。
「すまないな、イルア……」
「え?」
突然のゲイザの言葉に、イルアは少し力を抜いてしまったが、すぐに小刀に力を入れなお
した。ゲイザは目を閉じて、笑っていた。
「俺のために、色々してくれたんだろう……――ミリアから聞いた」
「そっか……やっぱり、ミリアちゃん、ゲイザと会ってたんだ」
「俺のために頑張ってたって」
「うん……頑張ったよ……」
イルアも目を閉じた。今まであった事が、思い出される。
ゲイザと出会ったときのこと。
自分がホムンクルスだったときのこと。
魔晶石を奪われたときのこと。
永遠の眠りについたときのこと。
再び目を覚ましたら、ゲイザが居なかったときのこと。
そして、ゲイザを探す旅に出たこと。
夢の中に出てきた少女のこと。
グライアとしてのゲイザと戦って、死んでしまったときのこと……
全てが、思い出された。
「イルア……もし、無事に帰れたら、ずっと一緒にいような」
「うん。一緒に、いたい……」
「約束だぞ」
「うん……約束だよ」
最後の魔力を、手に握っている小型に振り絞った。
二人の手が触れ合い、互いの力を感じ取れた。
「俺達の物語を終わらせる……そして――」
「あなただけの世界を――私たちが望む世界を……」
「ああ。平和な世界にするため、全てを……終わらせる」
そして、辺りが白い光に包まれて動力源は破壊された。
そのときの揺れは、要塞の外にいたレンにも聞こえた。
サイグとエーレはフォーグライクスで待機しているのだ。
「……揺れ? 動力源を破壊したのか?」
「レンさーん!!」
ラティーと、もう一人の妖精型ホムンクルスが一緒に出てくるのが見えた。
どうやら中に残っているのはゲイザとイルアだけらしい。
「アラグダズガはどうした?」
「ゲイザさんとイルアさんが倒しましたですの!」
「そうか……じゃあ、二人で中に残っているのか?」
「はいですー」
レンに質問に、ラティーとルミィーが交互に答えた。
と、そのとき、辺りが揺れて要塞が崩れていった。
「まさか、動力源の破壊が原因……くそっ! お前ら、逃げるぞ!」
「で、でも、中にはイルアさんやゲイザさんがいるんですの!」
「この星が崩れる前に逃げなければいけない! それに、あの崩壊だとあいつらは助かっ
ていない!! いいから逃げるんだ!!」
「っ――!!」
ラティーとルミィーを両手に持ち、レンはフォーグライクスへと逃げた。
ゲイザとイルアを残して、そのままフォーグライクスは飛び立ってしまった。
マルディアグに戻る最中、ラティーは泣いていた。
「う、えっぐ……うぅ……」
「……………」
ラティー以外の人たちも、苦しかった。
見捨ててきてしまったようにしか思えない。しかも、助かりもしない状況で。
フォーグライクスの後ろでは、トライブラッガの崩壊が始まっていた。
宇宙から見たら、丸い星にひびが入り、それがどんどん割れていく。
そして欠片があたりに散らばっていく。そんな様子だった。
「ルディフ博士、トライブラッガの破片が、マルディアグやグラディームに落ちていきま
す!!」
エーレのその言葉に、ルディフは答えなかった。
もうすでに魔法機関銃で迎撃しているのだが、数が多すぎるのだ。
「被害は最小限にとどめれたけど……大丈夫だと思う」
「思うって、あんたなぁ……」
サイグはそんな調子のルディフに、ため息をついた。
笑いたいけれど、笑えない。
そんな状況だったからだ。
「仕方ないんだ……戻ろう、マルディアグに。俺達には、俺達のやるべきことがあるはず
だ。今はそれをやるんだ」
そして、レンたちはマルディアグへと向かった。
エピローグへ、続く……
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