第X]話 『それぞれの決着』


一日の休息を得たイルアたち。
アラグダズガによって負った傷も、それなりに回復した。
本当は、完璧に回復させた方がいいのだが、時間がない。
彼の野望を止めるために、必要な時間が後わずかしかないのだ。
イルアたちは整備が終わったフォーグライクスに乗り込み、座席に座りシートベルトを装
着した。やがてエンジンで揺れ動き、空へ飛んだ。
「フォーグライクス、高度上昇、エンジンフル出力。フォースコーティング展開、ブース
ターフルチャージ……」
空を飛んでいるフォーグライクスが、空高い方へと向き、イルアたちの体はシートに沈む
形となった。
そして揺れる。エンジンの揺れと、フォーグライクスから出ているブースターの揺れ。
しかし二度目なので、大して怖くはなかった。
やがて青い風景が、黒に変わり目の前にはトライブラッガがあった。
そんな星をみながら、レンは全員に声をかけた。
「今度こそ、終わりにさせるぞ」
「もちろん、あいつらを叩きのめして俺達の星を守る!」
サイグは拳を握りしめ、前に突き出した。
そんな様子をみて、エーレは笑った。
「兄さんったら、張り切りすぎだよ」
「そうですのー。そんなに張り切らなくてもいいですの」
「病は気からっていうだろ?」
「兄さん、それ……違うよ」
そんなやり取りを見て、イルアはつい笑ってしまった。
そして……小さい声で呟いた。
「終わりにしよう……悲しみしか生まれない、こんな戦いを」
そういうと、イルアはそっと瞳を閉じた――

再びやってきた未開惑星。
そして目の前にそびえる大きな要塞。
「いくぞ! 最低無駄な戦闘は避けるんだ。もし戦うことになったらイルアを最優先で守
れ。いいな!」
そしてイルアたちは要塞の奥へと進んでいった。

前と変わらず、一方通行。
唯一変わったところは、魔物の卵が全てなくなっていたことだ。
卵の欠片があちこちに見えることから、全て孵化したのだろう。
イルアたちは気にせずにそのまま進み、アラグダズガが出てきた部屋へと向かった。

その部屋にいたのは、前と同じくルディアとショーンルだった。
アラグダズガの気配はない。
「くっ……ルディア! 今日こそ決着をつける!」
「ショーンル、お前っ!」
レンとサイグは武器を取り出し、すぐに構える。
「イルアちゃん、私達が隙を作るから、ラティーと一緒に奥の部屋に向かって!」
「わかった!」
エーレも杖を構える。
「へぇ……君達も懲りないねぇ。あんなにボロボロにされちゃってさ。まあ、あの裏切り
者のおかげで逃げられたのは運が良かったからだね」
人をバカにするような笑いをし、ショーンルは腰に手を当ててそう言った。
そしてルディアも鞘から剣を抜いた。
「行くわよ……あなたたち全員、闇に陥れてあげる」
「させるかっ!!」
レンがすぐに剣を構えてルディアに攻撃をしかけた。
見事に剣でそれは弾かれる。
「ファイアソード!」
いつの間にかショーンルが詠唱を開始し、発動した。
炎の剣が現れ、それはサイグに襲い掛かった。
「当たるかっ!!」
双剣でそれを弾き返す。しかし炎が手に当たり、火傷をしてしまった。
「イルアちゃん、ラティー。今ならいけるよ!」
「うん、ありがと!」
「レッツゴーですの!」
ルディアとショーンルが戦闘をしている隙に、イルアとラティーはその脇を通り奥の部屋
へと向かった。
あとは、レンとルディア、そしてサイグとショーンルの戦い。
「サイグ、お前はあっちの魔法使いを頼む!」
「わかった!」

剣と剣がぶつかり合う。
レンは幾度も攻撃をしかけているが、まったくルディアには効かなかった。
「全然ダメね……」
「なにっ!!」
「だけど、成長はしてるのね」
ルディアは笑った――しかし目は笑っていない。
「お前に何がわかる!!」
「私は、闇しか持たない人間――あなたも昔はそうだったでしょ?」
「っ――!」
昔、色々なことがあった。
嫌なことばかりがあった。
そのなかでレンは、光の心を失っていた。
「だけど、今は違う!」
ルディアと距離を少しとり、剣を構え直す。
両手で握り、睨みつけた。
「わかってるわ。あなたは、あの子に教わったんでしょ?」
「マイのことか? ――もしかしてアンタは、そのためにマイを俺にワザと渡したって言
うのか?」
「……それはどうかしらね。元々利用価値はあったのよ。あの闇の力を解放して、アラグ
ダズガ様にその力を渡せば、あの方はもっとお強くなる」
「なにがっ!!」
両手に持った剣をレンはルディアに振付けた。
しかしルディアは、それを片手に持っている剣で受け止めた。
「なにがアラグダズガだっ!! アイツは、俺達の両親も、仲間も……殺したやつなんだ
ぞ!! なのにアンタは、なんでアイツの肩を持つんだよ!!」
「……………」
「答えれないのか? 何か事情があるっていうのか!?」
「ウルサイッ!! あなたは素直に私に殺されればいいのよ!」
「くっ!!」
レンは再びルディアと距離をとった。
次の一撃で、すべてが終わる。
そんな予感がした。
「くらいなさいっ、奥義! 漆黒瞬滅斬!!」
「――!!」
ルディアが剣を構え、姿を闇に消した。
そして、その瞬間、レンの目の前にルディアが現れた。
「見切ったっ!! 秘奥義、漆黒斬滅撃!」
その瞬間、時が止まったかのようにルディアの動きが止まる。
「その心と共に、刹那を垣間見ろっ!!」
無数の斬撃が、一斉にルディアを襲う。
そして床に倒れこんだ。
「……………」
虚しさがレンの心を多い尽くした。
「全部、ワザとだったんだろう? アラグダズガの元にいたのも、マイを俺に奪われたの
も、ゲイザ=ライネックを逃がしたのも……全部」
けれど、彼女からはもう言葉は返ってこなかった。
返ってくるはずもなかった。
「……さよなら、姉さん」

サイグはショーンルとの一騎打ちをしていた。
「ショーンル!! なぜ貴様はアラグダズガの元にいる!」
「あの方の志は高く、僕を必要としてくれるからね……だから――」
「必要として欲しいのか? 自分自身を」
「そうさ! 誰も僕を必要としない……唯一ディメガスとアラグダズガ様が僕を必要とし
てくれた……だから僕は、こうやって力を貸しているのさ!」
その言葉と共に、ショーンルは詠唱を始めた。
しかし、サイグはその詠唱を止めようとしなかった。
「だから、人を傷つけていいってもんじゃないと思う」
「何……?」
ショーンルはその言葉を聞くと詠唱を中断した。
「自分を必要にしてくれる人のためなら、他人を傷つけていいのかって言ってるんだ!」
「ふっ……何がわかる。見捨てられた僕の寂しさなんて!」
「わかるかよ!!」
「じゃあ僕のやることに口出しするなよ!」
二人は叫びあった。
ほかの事を忘れて、戦わずに。
「お前は、他の人のために存在してるのか!? 違うだろう!! 自分は、自分の為に存
在してるんだ!」
「っ――!?」
「それでも、お前はそのアラグダズガの志を一緒に目指すっていうのか?」
その言葉を聞いたとき、ショーンルは俯いて悲しそうな顔をした。
「……僕は、そうしないと生きれない」
「そうか。残念だ」
サイグはゆっくりとショーンルに近づくと、双剣の片方を腹部に突き刺した。
なぜか抵抗しないショーンルは、サイグに笑いかけた。
「最後に、気づかせてくれて、ありが――」
その言葉は途中で途切れた。
そして、息を引き取った……
「バカなヤツだ……くそっ!」

二人の戦いが今、終わりあとは一つ……


続く……

FC2 キャッシング 無料ホームページ ブログ blog