第X話 『精霊と契約、黒い宝石』
「ここが水晶洞窟ね」
イルアとラティーは港町ディラズから少し北西に向かったところにある
洞窟の中の5割が水晶で出来ていると言われている水晶洞窟へ向かった。
まだ入り口の辺りだが、中からは涼しい風が吹いてくるのがわかった。
「あのぉ、イルアさん」
「何?」
「まだ、ここにやって来た理由聞いてないんですの」
宿屋から起きて、すぐに水晶洞窟へやってきたわけだが、
「ごめん、まだ言ってなかったね」
苦笑いをしてイルアはラティーに謝った。
イルアは勢いで水晶洞窟へやって来た。わけは判らないけれど、きっと、
(急がなきゃいけない)
心の中でそう思っていた。
「精霊に会わないと」
「セイレイ、ですの?」
歩きながら、イルアはそう言った。
イルアもラティーも『精霊』についてはわからない。
グラディームと違って、こちらでは精霊という存在が実証されていないのかもしれない。
「その、セイレイさんに会うっていっても……理由があるわけですよね?」
「えぇ、あるよ。ちゃんとした理由が」
イルアは、歩いていた足を一旦止めて俯いた。
「きっと、大変なことが起こる……だから、精霊に聞いてみたいの」
「大変なこと、ですの……?」
「わからない」
そう呟くと歩くことを止めていた足を再び動かし、水晶洞窟の中を進んでいった。
片手にゲイザの小刀の鞘を握り締めて。
「空が、怪しい」
レンはとある雪の積もった草原の真っ只中に立っていた。
上を見上げるといつもと変わらない青い空と白い雲があった。
しかし、いつもと違う雰囲気を放っている。
「なんだろう……嫌な予感しかしない。お前はどうだ?」
空を見上げていた目線を下に落として左の手から少し砕けた黒い宝石に話しかけた。
すると、その宝石は少し鈍く黒い光を放った。
「精霊、だと?」
『危ない。世界が……』
少女の声が、直接心に話しかけてくる。
「あいつらの仕業なんだろう?」
『わかりません……ワタシには。でも、そう考えたほうがいいかもしれませんね』
ミリアと名乗ったペンダントのように、この黒い欠けた宝石も、自分の心に話しかけてくる。
レンにはもうそれは不思議なことでもなく感じていた。
「いいのか? あのペンダント、お前の仲間じゃないのか?」
『いいんです。ミリアさんとは、話す事もないですから』
その声はどこか寂しそうな、何かをこらえている様な少女の声だった。
ふぅ、とレンはため息を吐くと、目を閉じた。
「あいつらを止めないと、やばいからな……さ、行くか」
『はい』
そういうとレンは左手を握り締め、ズボンのポケットにその宝石を突っ込み、再び歩き出した……
「もう、結構な距離は歩いてるですのー」
「そうね……って、あなたは飛んでるんでしょ」
「えへへー、ばれちゃいましたか」
水晶洞窟の入り口から、相当歩いたがまだ奥にはたどり着いていないらしい。
まだ奥へ奥へと入っていくが、行き止まりらしいところはない。
途中から段々と水晶の輝きが洞窟全体に増してきた気がする。
「精霊って、どんな人だろうね?」
「ん〜、きっとラティーのような姿を――」
そんな会話をしているうちに、長い通路を抜けて行き止まりらしい場所へ抜けた。
そこには水晶で出来た床半分に、あとは深い泉があるだけだった。
「行き止まり……? 精霊はやっぱりいないのかな」
「どうします、イルアさん」
「待ちなさい」
どこからか、女性の声が聞こえた。
その声の主はイルアでもラティーでもない。
「誰!?」
イルアは身構えてあたりを見渡したがそれらしき人は見当たらない。
と、そのとき、その部屋の置くにある泉から、人が現れた。
「私は精霊。水の精霊、ウィルティーです。何用ですか?」
その姿に、イルアとラティーは呆然としていた。外見は普通の人と変わらないのだが、
水面に立っていて、水色の長い髪、そして軽そうな鎧と剣を持っている。
「あ、あのっ――」
イルアは少しと惑いつつも、水の精霊ウィルティーに近づいた。
「世界が危ないというのは、本当ですか?」
「……それは、あなたたち人間がしようとしていることです」
返事の声にはどこか軽蔑と冷たい感情が含まれているとイルアは感じた。
「わ、私は……精霊を集めて世界を――」
「――わかりました」
言いかけたイルアの言葉は、どこか強い口調のウィルティーによってかき消された。
すると、ウィルティーはゆっくりと剣を構え始め、戦う用意をしている。
「そこまで仰るのなら、覚悟はおありなんでしょう?」
「えっ」
「イルアさん、来ますよっ!!」
なんだかわからなかったイルアだが、ラティーの声で何のことかわかり、腰に下げてある曲刀の柄に手をかけた。
「行きますよ……あなたの覚悟、みせてもらいます」
「………!!」
イルアは剣を鞘から抜き、両手で構えると走り出して攻撃をしかけた。
「先手必勝、ですのっー!」
ラティーの声援を後ろに、イルアはウィルティーに向かって剣を振る。
しかし、その攻撃はかわされた。かわされたというより、
「水になった!?」
水はとても剣では斬る事は不可能だ。
さすが水の精霊といったところか。とても『普通の人間』では出来ないことをした。
「喰らいなさいっ! ウォータースパイラル!」
剣を水に突き刺し、ウィルティーの剣には水を纏わせ、そして遠くから振りつける。
「きゃっ!」
ものすごい速さの水は、とても素人には避けられない速さだった。
イルアは間一髪のところで避けたが、左足を掠めた。
「い、イルアさん!! 血、血ー!」
ラティーが後ろで大騒ぎし始めた。イルアは自分の左足を見ると、左足から微かだが血が流れている。
掠ったとき、水圧で切れたのだろう。
「その程度ですか?」
(これじゃ、負けちゃうっ!!)
イルアは普通の攻撃では通用しないことに気づかされ、今自分が出来る攻撃の術を考えた。
今出来る技は限られる。ましてや、昨日扱い始めたばかりの曲刀だ。
「でも、やるしかない――でやぁぁー―――っ!!」
剣を再び構え、ウィルティーに向かって剣を振るう。
再びウィルティーは水になり、その攻撃を避ける。
そのときだ。
「えぇぇぃ、ウォータースパイラルッ!!」
先ほどウィルティーが使用した技をイルアは見よう見真似で使用し始めた。
曲刀に水を纏わせ、剣を振るう。
今、ウィルティーは水になってその体が離れている。
イルアは水圧で吹き飛ばそうと考えたのだ。
「そんなっ!!」
ウィルティーは見事に砕け散り、イルアは曲刀を地面に突き刺してその場に膝をついた。
さすがに、さっきの攻撃で左足を痛めている。しかも、まだちょっとだけ昨日の戦闘の痛みが残っている。
「イルアさん、大丈夫ですかー?」
「ま、まあ、一応……」
と、倒したと安心しているとき、
「油断はしないほうがいいですよ?」
下げた頭の上には、剣があるのがイルアにはわかった。
少し経ってから、ウィルティーは再び水の中で再生していたのだ。
「だけれど……いいです。わかりました――あなたの覚悟が、どれほどのものなのか」
ウィルティーは剣をイルアの頭から話、水にして消した。
「あなたの持つ小刀を、私に刺してください」
「刺す……?」
「はい。そうすれば、私はその小刀によって、あなたと契約したことになります」
その言葉を聞くと、イルアはゲイザの小刀を、小さな鞘から取り出す。
ウィルティーの目の前までいくと、目が合い、先ほどまでの戦闘とは打って変って優しい瞳をしていた。
「契約、させてもらいます」
そういって小刀をウィルティーの胸に突き刺す。
ザクッ、と音がなったものの、嫌な音はせずにそのまま刃が胸にめり込んだ。
すると辺りは光に包まれ、光が消えたときにはその場には小刀しか残っていなかった。
「これで、契約、だよね?」
「たぶん、ですの」
精霊と契約。
それは夢に出てきたミリアという少女の頼みでもあった。
「世界が危ないってことは……イルアさん、ちょっとルアグ博士のところに戻るですの」
「え、なんで?」
「きっと博士ならわかってるかもしれないですの。だって、ルアグ博士ですから」
そのルアグ博士ですからという言葉に、ちょっと納得ができたイルア。
「振り出しに戻っちゃうけど、戻ろうか……ゲイザも大事だけど、世界がなくなったらどうしようもないからね」
そしてイルアとラティーは水晶洞窟の来た長い道のりを再び戻り、
ルアグ博士のいる研究所へと向かった。
続く……
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