第W]\話 『仲間の想い』


研究所へ戻ったイルアたちは、トライブラッガであったことを全て話した。
緑がなく、干乾びた大地。
そんな惑星に一つだけあった要塞。
そこにあった魔物の卵。
世界を危機に陥れようとしている本人、アラグダズガ。
「なるほどのぉ……そんな強敵じゃったか。そのアラグダズガとかいうやつは」
「そうですの〜……何かいい方法はないですの?」
「そうじゃのぉ」
ルアグ博士は、ひげを片手で撫で、目を閉じて考えた。
「一人で戦ってみたらどうじゃ」
「そんな、一人で? 無理に決まってる――」
その考えを聞いたレンは、すぐに否定をした。
あんな強い敵、一人で倒せるわけがない。
「一騎打ちならば、また違った方法でチャンスも見つけられるじゃろう……どうじゃ、や
ってみんかね?」
「……なら、私がやります。いえ――やらせてください」
イルアがすぐに名乗り出た。
その一騎打ちをする人として。
「ほう。それじゃ、娘っ子がアラグダズガと戦い、その他は一騎打ちが出来るようにその
ときまで娘っ子を守る……それでよろしいかの?」
イルア以外の人は、少し納得がいっていなかったようだが、とりあえず頷いた。
「それじゃ、今は休みなさい。ワシとルディフはフォーグライクスの整備をするのでな」
ルアグ博士はそういうと、ルディフがいるフォーグライクスへと工具箱を片手に持って
向かっていった。
とりあえず、イルアたちは傷を癒し疲れを取るために寝室へと向かった。


部屋に入ったらすぐにサイグはベッドに横になって寝てしまった。
エーレがベッドに腰をかけているイルアの目の前まで歩み寄り、真剣な眼差しを向けた。
「イルアちゃん……無理だよ」
「え?」
「あんな怪物、一人で倒そうだなんて!」
レンも、ラティーも頷いていた。
あのアラグダズガの力は、確かに強い。
「私も、一人じゃ倒せると思ってないよ」
「……それなら、なんで」
「一人じゃないもの」
イルアは微笑んでそういった。
「ラティーも、レンも、エーレも、サイグも……それにゲイザもいる。だから、私は戦え
る……」
「それとこれとは、訳が違うですの!」
ラティーもエーレに横を飛び、一緒になって怒った。
だけど、イルアは一歩も引く様子はなかった。
「一人で戦ってても、仲間がいるって思えば……戦える。ね、レン」
「いや、しかしな――」
何かを言おうとしたが、レンは口を閉じて黙りこんだ。
反論をしても、絶対何も受け流される気がしてならない。
とりあえず、話の内容を変えてみることにした。
「何故、一人でアラグダズガと戦う決心をした?」
「消されたくないから……この星と、住む人たちを」
「そう、か……」
イルアの正直な願いは、一人で抱えるには重い事ばかり。
そんなことを思いつつ、レンは部屋を出るようにドアのノブに手をかけた。
「少し外の空気を吸ってくる……早く休めよ」
「うん」
「特にイルア……アラグダズガと戦わなければいけないし、精霊を使って動力元を破壊す
るんだろう? ならば十分な体力を補充しておけ。いいな」
「うん、ありがとね、レン」
イルアの感謝の言葉を聞くと、レンは居心地が悪そうにそっぽを向き、すぐに寝室から出
て行った。
するとエーレはイルアの横に腰かけた。
「イルアちゃんがそこまで言うなら、私は止めない――というか、止めれないよ」
「エーレ……ごめんね」
エーレも先ほどとは打って変って、笑っていた。
なんだか、イルアにつられてしまったのか、優しい微笑みをしていた。
「イルアちゃんって、優しいんだね」
「ですの……イルアさんは、優しすぎますですの」
そのエーレの言葉に、ラティーも便乗した。
イルアは自分が優しいかどうか考えてみたが、わからずに笑った。
「優しい、のかな……わかんない」
「でも、優しい心は人にはなきゃいけないと思うな、私は――優しさがない人間なんて、
ただの悪い人だよ。なんだかんだ言っても、兄さんやレンさんも優しいしね」
ふと、寝ているサイグの方をイルアたちは見たが、いびきをかいて寝ていた。
そんなサイグに、エーレとイルアはくすくすと笑った。
「うん。みんな、優しいよね……」
「でも!!」
エーレはベッドから立ち上がり、少し歩いてイルアの方を振り返った。
「優しい心を持たないそんなアラグダズガは、イルアちゃんが成敗しちゃってね!」
そういってエーレもレンと同じく走って部屋を出て行った。
イルアの肩に、ラティーは腰を下ろした。
話題が見つからないのか、ラティーは少し戸惑っていた。
「イルアさん……えっとー、ゲイザさん、大丈夫ですの?」
「きっと大丈夫だよ。ゲイザは……」
少し心配だけれど、ゲイザならきっと大丈夫。
今はそう信じるしかない。イルアはそう思っていた。
「そうですの……大丈夫、ですの。イルアさんは、ゲイザさんのこと、どう思ってるんで
すの?」
「んっと……大切な人、かな」
「大切な人って……それだけじゃわかんないですのー!」
そんなラティーの言葉に、イルアは顔を少しだけ赤面させた。
「だから――す、好きな人?」
「やっぱり、そうでしたか。そうじゃなきゃ、ゲイザさんを探す旅なんてしませんですの♪」
それを聞いたラティーはイルアの目の前へ飛び、笑った。
「この戦いが終わったら、イルアさん、ゲイザさんと一緒にいられたらいいですの♪」
それが、一番ラティーにとっては幸せかもしれない。
彼女は彼女なりに考えていた。
「ありがとう、ラティー」
「はいですの!――あ、そういえば私、ルアグ博士に用事が……それじゃ」
ラティーもまた、部屋を出て行った。
それと同時に、サイグがベッドから起き上がった。
一応欠伸をしていたが、少し演技交じりで先ほどまでのいびきなどは狸寝入りによるもの
だとイルアは思った。
「ふぅ……あっと、あのさ」
「おはよ、サイグ」
「あ、うん。おはよう……――上手くは言えないけど、頑張れよ」
少し早歩きでドアに近づき、ドアノブに手をかけた。
「ちょっと外に行ってくる」
そういって、出て行ってしまった。
イルアは一人残された部屋で、ベッドに潜り込んだ。
「ありがとう、みんな」
そして、少しの休息を得た――決戦の時に備えて。


続く……

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