第W]Z話 『野望と真実』
ルアグ博士の研究所について一日、フォーグライクスの強化が完了した。
イルアたちも体を十分に休み、睡眠もちゃんととれた。
最後の決戦の時を迎えようとしていた――
「フォーグライクスはこれであの星へ行けるはずじゃ……気をつけて行って来るんじゃぞ。
そして必ず帰ってくるんじゃ。無理そうだったら一旦引き返すことも手ということを忘れ
るな」
真剣な眼差しで、ルアグ博士はイルアたちを見ていた。
彼は彼で、責任を感じている。
ゲイザが消えてしまったときも、口には出さなかったが自分のせいだと少し思っていたの
だ。
そんなルアグ博士の言葉に、イルアは微笑んで返した。
「大丈夫です、ルアグ博士……私は必ず帰ってきます。ゲイザを連れて」
「必ず、じゃぞ。出ないと、ワシが天国にいる娘っ子の母に怒られてしまうのでな」
「はい……」
イルアは空を見上げた。すると、少しだけこの間より大きく見える。
世界の危機が、少しずつ近づいてきている。
「マルディアグ、グラディーム……そしてトライブラッガ――また戻るのか。俺は、あの
死の星に……」
星を見上げたレンが、拳を握り締めた。
そうしてイルアたちはフォーグライクスに乗り込み、未開惑星トライブラッガへと向かっ
たのだった……
フォーグライクスに乗り込んだイルアたちは、すぐに座席につきシートベルトを閉めた。
「さて、今回ばかりはちゃんとシートベルトしないと死ぬよ」
「そんなに危ないのか!?」
驚くサイグに、ルディフはその言葉とは打って変って、笑っていた。
なんだか、また別の怖さが漂う。
「それと、しっかり?まっててね。これ、やったことないから保証できないし」
「ちょっと!! 何それ!?」
それを聞いたエーレは一瞬顔が青ざめた。
「さてと、それじゃいくよ――っ!」
ルディフは操縦席の方へと向くと、色々なボタンを押したりレバーを下に下げたりと、い
ろいろな事をやっていた。当然、見ているだけの人は何も出来ない。ただそれを見ている
ことと、成功することを無事に願うことだけだ。
「高度上昇、エンジンフル出力。フォースコーティング展開、ブースターフルチャージ」
空を飛んでいるフォーグライクスが、空高い方へと向き、イルアたちの体はシートに沈む
形となった。
そして揺れる。エンジンの揺れと、フォーグライクスから出ているブースターの揺れ。
そんな状況に、イルアは目をつぶっているだけだった。
「キャー、ですの!!」
イルアの肩に?まるだけのラティーはとても危なかった。
それに気づいたイルアは、そっとラティーを手にとって包むように持ってあげた。
「イルアさん、ありがとうですの!」
「うん、もう少しの辛抱だからね」
それから少したち、フォーグライクスの揺れも収まった。
イルアは目を開けてみると、窓の外には無数の星と黒い空間、そして目の前には茶色い星
があった。
そんな光景はすぐになくなり、イルアたちはトライブラッガへと到着した。
「建物も、街も、村も……何にもない星だな」
トライブラッガをフォーグライクスの窓から見た光景は、とても良いものではなかった。
家もなければ、人もいない。ましてや、緑の草花、木、森もなく、ただそこは魔物が佇む
星となっていた。
「ルディフ博士、あそこに見える大きな要塞に向かってくれ。あれが敵の本拠地だ」
「オッケー、了解したよ」
そんな星に、唯一あった建物が、大きい要塞だった。
目の前の大きな要塞。
そこからは邪念が微かに感じられた。
フォーグライクスを降りたイルアたちはその入り口の前にいた。
「ここに、アラグダズガがいるの?」
「おそらくな」
イルアの言葉に、レンが返した。
「ともかく、中に入った方がいいんじゃないのか?」
サイグが辺りを見渡しながらレンに聞いたが、レンは何も言わずに要塞の中へと入って行
ってしまった。
イルア、サイグ、エーレもそれに続いて要塞の中へと入った。
その中には敵兵も、魔物もいない場所だった。
「何にもない……何故だ」
レンは剣を鞘から抜いて、辺りを見ながら敵がいないことに警戒していた。
全員一応武器を構えていたが、魔物が出てくる気配もない。
「とりあえず、奥にいこうよ」
警戒をやめたイルアが、剣を構えたレンにそういうと、
「そうだな。真っ直ぐ進めば奥だろう」
剣を片手に持ったまま、奥の道へと進んでいった。
そこには、白くて丸い物体が、沢山あった。
とてもじゃないが、気持ち悪い。
「魔物の卵、だと……!?」
辺りに散らばるその丸いくて少しばかり大きい物体の正体は魔物の卵だった。
「早くこんな気味の悪いところ抜けようよ!」
「ですのー!」
それを聞いたエーレとラティーが、早くこの部屋を出たいとばかりに騒いだ。
確かに、今魔物が孵化してしまっては戦いまでに身が持たない。
「そうだな。でも、あんまりうるさくすると、孵化するから気をつけろ」
そのことを聞くと、騒いでいたエーレとラティーは黙り込んだ。
足音を立てないように、イルアたちは奥の部屋を進んだ。
「よく来たね、君たち!」
先ほどの部屋を抜けると、そこにはショーンルとルディアがいた。
待ち伏せされていたのだろうか。
「ルディア!! お前、俺たちがここに来ることを知っていたな」
レンが剣を構えて、ルディアに叫ぶと彼女は微笑んで剣を鞘から引き抜いた。
「もちろんよ……そしてあなたたちはここで息絶えるのよ」
「そんなことっ!!」
叫んだのがイルアだった。イルアは曲刀を鞘から抜き取り構えると、レンの横に並んだ。
「当たり前だ! 俺たちはここで死ねないんだよ」
サイグは双剣を両手に構え、イルアの横に並ぶ。
「まだ、やるべきことをやってないから、ね」
杖を両手に持ち、エーレはイルアたちの後ろに立った。
「あくまで僕たちに盾突くのかい? 無駄だっていうことをわか――」
「下がれ……ルディア、ショーンル」
その声と共に奥の部屋から現れたのは大きい体に、大きい大剣を片手に持った男……
「アラグダズガ様!? なぜあなたがここに!!」
剣を鞘に収め、ルディアはすぐに床に膝をついて頭を下げた。
「そんなことはどうでも良い……私の計画を邪魔するものを消しに来ただけだ」
「あなたがアラグダズガ? なんでこの星を私達の住む星にぶつけ様とするの!?」
イルアが曲刀を構えつつ前に歩み出た。
「いい機会だ、教えてやろう――我々の住む星は、お前たちの住む星とは違い日が当たら
ない。だから地は干からび、緑もない……そんな星に人が住めるわけでもない。だから私
は貴様らの星を潰す」
「たったそれだけのことで!!」
「お前たちはたったそれだけのことでだと思うだろう? 我々はそうではない……とても
大切なことだ。だからそんなお前たちも殺す。自分のことしか考えないもの達を――」
「それは、あなたじゃないの!?」
「黙れ!!」
アラグダズガが片手に持っている大剣を遠くから一振りすると、真空波がイルアを襲った。
それをくらったイルアは、少しの距離を吹き飛ばされてしまった。
「イルアちゃん!?」
エーレはイルアに駆け寄ると、すぐに治癒術を使い回復してあげた。
「だ、大丈夫……」
曲刀を片手に、イルアは再び立ち上がった。
「まだ起き上がるか……フンッ!!」
今度は全体に真空波が放たれた。
イルア、レン、サイグ、エーレは悲鳴を上げつつその場に倒れこんでしまった。
「魔晶石の力は凄いな……クックック」
「えっ……」
アラグダズガの左手に握られていた石は、かつてイルアが持っていた鉱石、魔晶石だった。
彼はディメガスからその石を貰い受けていたのだ。
そしてアラグダズガは大剣を片手に、イルアに歩み寄ってきた。
「感謝するぞ、イルア=ディアーグ……そして、消えろっ!」
大剣が、イルアの頭上へと振り落とされた。
目をつぶったイルアは、まだ生きていることに不思議に思い、目を開けてみると目の前に
は黒いマントを羽織った、黒髪の少年と薄紫色の髪をした小さい妖精がいた。
「貴様というやつは……何度も何度も、私の邪魔をするっ!!」
「イルアは、死なせないっ!!」
ゲイザが、アラグダズガの大剣を二本の剣で防いでいたのだ。
目の前にいるのがゲイザだとわかったイルアは喜びのあまりその場に立ち尽くしていた。
「はぁっ!!」
剣に力をいれ、ゲイザは大剣とアラグダズガを吹き飛ばした。
「今のうちに逃げるんだ!! 今の君達じゃ不利だ!」
「だけど、ゲイザ!」
右手をゲイザへと伸ばしたが、左手をレンに?まれた。
「彼の言うとおりだ。今は戻ったほうがいい」
「……………」
そしてサイグ、エーレ、レンはその場を逃げるように出て行ったが、イルアは戸惑ってい
た。とてもじゃないけれど、ゲイザを置いていくなど出来なかった。
「イルア。俺は大丈夫だ……必ず生きて戻る。だから、戻るんだ」
「うん……約束だよ」
イルアは微笑んでそういうと、ゲイザとルミィーをその場に残してその要塞を後にした。
続く……
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