第W]Y話 『空へ』


「イルア!! 目を覚ませ、イルア!!」
重く閉じた瞳を開けてみると、目の前にはレンが心配そうな顔で自分を見ていた。
上半身だけを起こして辺りを見渡してみると、先ほどと変わらない場所、破滅の塔の最上
階にいる。
「私……生きてる?」
あのとき、確かに息を引き取った自分が、何故ここで息をしているのか。
イルアはとても不思議に思った。
「イルアさん、何があったんですの?」
レンの横を飛んでいるラティーが、イルアのことを心配しながら聞いた。
さっき、息を引き取る前のことを思い出しながら、イルアは瞳に涙をためていた。
助けられたことが、本当に嬉しかったからだ。
「ゲイザは、元に戻ったよ……」
「本当ですの!? それで、ゲイザさんは何処にいったんですの?」
「わからない……だけど、記憶も、光の心も取り戻したから、もう大丈夫」
「よかったですの……――あ、イルアさん……ペンダント」
ラティーはイルアの首にかかっているチェーンを見て、ミリアのペンダントがないことに
気づいた。また、イルアもラティーに言われてから気づき、辺りを見渡した。
「ミリア=ビリアムズも、マイと同じ道を辿ったのか……」
ペンダントが酷く破損していた。黄色い宝石は砕かれ、白い羽も辺りに散らばっていた。
何があったかは知らないが、イルアは立ち上がり白い羽を一枚手に取った。
「ペンダントの光の力を解放したんだろう……光の力は癒しの力――イルア。お前を助け
るためにゲイザ=ライネックはそのペンダントを壊したんだ」
「私を、助けるため?」
羽を指でつまんで、それを見つめた。
ミリアならば、死んだイルアを助けるためにそんなことをするだろう。
「イルア。塔の下にフォーグライクスがあるから、早く行くぞ。精霊は全て集まった。あ
とはあの星へ行く手段を考えなければいけない……」
「――うん。手遅れになる前に、行かなきゃ」
そしてレンとラティーが最上階を降りたとき、イルアはその羽をしまった。
「ちゃんと、お別れできなかったのは悲しかったけど――」
散らばった黄色い欠片を両手で寄せ集める。
「ありがとう……ミリアちゃん」
また、声が聞こえるかもしれないと少し期待をしてみたが、そんなことはなく……
ただ突然のことに虚しさだけがこみ上げて来た。


フォーグライクスに乗ったイルアたちは、そのままマルディアグへと向かい、再びルアグ
博士のいる研究所へと向かった。
研究所の横にフォーグライクスを定着させると、ルアグ博士が珍しくわざわざ出迎えてく
れた。両手にはおそらく工具用品が入っているボックスを持っている。
「どうしたんですか、ルアグ博士」
ルディフが一番先にフォーグライクスの出入り口ハッチから出てくると、彼もまた工具用
品が入っているボックスを片手に。
「フォーグライクスを改造するんじゃよ。お主も手伝うんじゃ」
「もしかして、あの星までこれでいくつもりなんですか!?」
さすがのルディフも驚いた。
その話を聞いてイルアたちもフォーグライクスから降りた。
「特殊コーティングをつけ、装甲と火力を増すことで可能のはずじゃぞ」
「いや、しかし……前代未聞ですよ。空を越えて星に向かうなんて」
「いいからわしの言うとおりに作業するぞい……娘っ子たちは研究所で休むがいい」
迫り来る決戦のときのために、イルアたちは休むことにした。

研究所へ行き、寝室へ向かうとそこにはグラディームに行く前に別れた二人がいた。
「よっ。元気か?」
「あ、やっと戻ってきたー」
サイグとエーレが椅子に座ってそこにいたのだ。
ラティーが二人の前まで飛んでいくと、首をかしげて聞いた。
「お二人の用事は澄んだんですの?」
「うん、家をちゃんと片付けてこなかったから、兄さんと一緒に片付けてきたの」
「ここまで来るのに大変だったんだぜ?」
ため息をつきながら、サイグは立ち上がった。
「ここ数日間、あの空に見える星が現れてから魔物がまた増えて凶暴になって来たんだ」
「なんだと?」
その話に、レンは眉をひそめた。
グラディームに行っていたイルアたちは、マルディアグの現状を知らない。
「なんでも、あのルアグ博士って人によるとあの星から魔物が送られてきてるみたいなん
だってさ……お前たち、あの星に行くんだろ?」
「うん……だから、サイグとエーレは関係ないから行きたくないならいかなくてもいいん
だよ?」
それを聞いたエーレは椅子から立ち上がり、イルアに早歩きで歩み寄った。
少し怒っているようにも感じる。
「私は、イルアちゃんたちの力になりたい。それじゃダメなの?」
「ダメ、じゃないけど……危険なの。あの星は……」
「わかってるよ。だけど、力になりたい」
イルアを見つめる目は、とても真っ直ぐで真剣な目。
多分、何を言っても聞かないだろう。
イルアはエーレに微笑んで見せた。
「うん。わかった……」
「やった! ありがと!!」
エーレは喜びのあまりイルアに抱きついた。
「俺も行く。ショーンルのこともあるし、乗りかかった船だからな」
「そうか……足を引っ張るなよ」
「ああ、わかってるって!」
そうして、サイグとエーレが再び仲間に加わり、戦いの時まで体を休むことにした。


続く……

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