第W]W話 『時の狭間で』


再びルアグ博士の研究所へ戻ってきたレンたちは最後の精霊と契約するための手段を教え
てもらっていた。
「ほう、娘っ子を置いて戻ってきおったか……まあ、今回は娘っ子に頼もうと思ってなか
ったからいいじゃろう」
となると、契約しに行く人は一人しかいなくなる。
「それじゃあ、最初っからレンさんが契約しに行く、ということもなっていたんですの?」
「そうじゃな……時の狭間へ行くのは体力的にキツイじゃろうしのぉ」
レンにとっては、それは単なる嫌味としてしか聞こえなかった。
そういいながら、ルアグ博士は人間が一人入るぐらいのガラス張りの箱へと向かった。
「若いの、この中に入るのじゃ」
「大丈夫なのか?」
「保障はせんよ」
「くっ……仕方ないか」
しかたない、といった風にレンはため息をつくとその箱の中に入った。
よくよく考えてみると、下手をしたら戻ってこれないかもしれない。
「それじゃ、時空の狭間へ転送するぞい」
「レンさん、ガンバですの♪」
「ち、ちょ――」
レンが何か言いかけたときには、もうすでに転送が始まっていた。


……………
朦朧とした意識が戻ったとき、目の前には灰色の空間が目に入った。
これが時の狭間というものなのだろうか?
そんなことはどうでもいい。
とりあえず、こんな場所から元の世界に戻れるのか?
そんなことを思いながらレンは体が浮いていることに気づいた。
「この空間は無重力なのか?」
「時の空間だからな……」
「誰だ!?」
見知らぬ人の声がどこからか響いて聞こえた。
こんなところに人間がいるわけがない。
そうすれば、その声の正体は唯一つ……
「時の精霊か?」
光が目の前に集まり、それはやがて人の形を象っていった。
「我が名は、時の精霊テュアルグ」
「時の精霊テュアルグ。イルア=ディアーグの代理として、契約しに来た」
「そうか」
……………
少しの間、辺りは沈黙になった。
「契約させて――」
「断る」
「なっ!?」
何故か、一瞬で契約を拒否されてしまった。
「あと一つ……世界の危機を阻止するために、時の精霊テュアルグの力が必要なんだ」
「世界は消えても、時の流れは消えん」
「だから関係ない、と?」
「話がわかるな」
「ふざけるなっ!!!」
レンは剣を鞘から引き抜き、怒りに任せて力強く構えた。
精霊だからといって、彼の言葉と思考がレンには気に食わなかったらしい。
「ほう、やるのか? 時を司る私に?」
「時だが何だか知らんが、非常にムカツクんだ!!」
その言葉に、テュアルグは少し笑った。
「怒りに任せて剣を振るうのは愚かしい」
「契約をしてくれないのなら、力ずくでも契約してもらう!」
そんな言葉を聞いたテュアルグは、少し微笑んだ。
「なるほど……興味が湧いてきた。どれほどの力か見せてもらおう
テュアルグはどこからか長剣を出し、それを構えた。
「ハンデとして、時の力は使わん。その代わり、貴様にもハンデがついているがな」
「無重力空間、だな」
「そういうことだ」
「行くぞっ!」
時の空間には様々な破損したものが流れている、レンはそれを利用し、足の踏み場にした。
こうすれば、移動するとき蹴っていけばどうにかなる。
「はあっ!」
そんな考えは甘かった。
なんと、その破損物はテュアルグの長剣によって粉々に砕かれてしまったのだ。
「くそっ! こうなったら我武者羅だ!!」
とりあえずレンは、今足をついている破損物を蹴り飛ばし、テュアルグの元へと飛んでい
った。
「はぁぁっ!!」
レンの剣が、黒く光り、闇の炎が宿り幅渡りが二倍になった。
「くらえ! ダーク・スラッシュ!!」
「やるな……」
見事にテュアルグの胴部を斬ったが、彼は痛みを言わずただ長剣を構えていた。
なんだか手加減されている気分で、レンは嫌な気分になった。
「今度は私から行くぞ!」
長い長剣をその場で一振りするだけで、レンの元へとその攻撃は届いた。
しかしその斬撃は剣によって弾かれてしまった。
「居合射瞬斬」
すぐにテュアルグは体制を立て直すと長剣を横に振ると、真空を切る刃が現れレンを襲っ
た。
「ダーク・バリアーッ!!」
闇の壁がレンの目の前に現れ、その真空破は防がれてしまった。
すると、急にテュアルグは斬られた胴部を抑えて痛みを堪えた。
「なるほど、口だけではなかったか……契約、してやろう。早くしろよ」
レンは少し躊躇いつつも、イルアから扱った小刀を片手に、それをテュアルグの胸へと突
き刺した。
光になって消えると同時に、辺りも光に包まれていきレンの意識は遠ざかっていった。


……………
「戻ってこれたのか?」
目を開けてみてみると、そこはルアグ博士の研究室だった。
「無事、契約して帰ってきたか……よかったよかった。はよ娘っ子を迎えにいってやれ」
ルアグ博士は時空転送機の扉を開けてレンを急かすように言った。
「少し心配だしな……グラディームへ向かおう」
「はいですの!」
これで全ての精霊との契約を済ませたレンたちは、再びグラディームへ行き破滅の塔へむ
かったイルアを迎えに行くことにした。


続く……

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