第W]V話 『理の見た時』


「結局一人で来ちゃったけど、大丈夫、だよね」
イルアの目の前には調和の遺跡があった。
戦う予感がしなかったイルアはついていくといったラティーとレンを少し強引に置いてき
てしまったのだった。
「行ってみよっか」
イルアは遺跡へ入ってみると、神聖な雰囲気がした。
やはり魔物の気配もせず、道は一本道だった。なので理の精霊に会うために奥に続く道を
真っ直ぐ歩いていった。
すると、部屋があり、そこで行き止まりとなっていた。祭壇もある。
しかし――いつもの部屋とはまた違った雰囲気があった。
そこで目に付いたのは壁に長く書かれた絵。
そんなことを気にしているうちに、祭壇の上に光が集まり理の精霊が現れた。
なんだか他の精霊とは違って、普通の人っぽいが背中には翼が六枚ついていた。
炎を宿した赤い翼。水を宿した水色の翼。風を宿した黄緑色の翼が右に。
氷を宿した青い翼。地を宿した茶色の翼。雷を宿した紫色の翼が左に。
そんな変わった精霊だった。
「私の名前は理の精霊メイラです……あなたは、ドール?」
「え?」
すぐにその間違いに気づいたメイラは首を振って微笑んだ。
「違いますよね……ゲイザさんのドール達は、二体とも消滅しましたし」
「ゲイザ……?」
「えっと……すみません。あなたの記憶を見せてもらいますね」
そういってメイラは、手のひらをイルアのおでこに当てて目を閉じた。
彼女の頭の中には、イルアの記憶が走馬灯のように流れている。
「ゲイザさんの大切な人、なんですね……それに、とても辛い過去を持っている。
私と同じですね」
少し悲しそうな笑顔でメイラは微笑んだ。
「私、元々人間だったんですよ」
「え? でも……あなたは理の精霊じゃ――」
「千年前の話です。私が人間だったのは……それに、本当は理の精霊とっても、他の精霊
のように戦いは出来ません。ただ、人々のしていることを、大地や空、そして海を司りな
がら見ることしか、私には出来ませんから」
他の精霊とは違う、というのが今のでわかった。
元々人間だったから、今までの精霊と違って精霊らしくなかったのだ。
契約をするとき必ず戦いを挑んでくるのに、彼女は挑んでこない。
「あなたは、契約しに来たんですね?」
「はい……今、世界に危機が訪れようとしています。その危機を回避するために、理の精
霊メイア。あなたの力が必要なんです」
「いいです。ですが、私もあなたに二つ、言いたいことがあるんです」
メイアはイルアの胸に、心に手を当てた。
「世界の危機を救うのは、あなたにしか出来ないことです。何があっても、あなたは諦め
ないでやり遂げてください。そして――マインドオブライトを強く持ってください。あな
たに今、一番必要なものです」
「……わかりました」
「それでは、契約してください」
イルアは腰にある小さい鞘から小刀を抜き取ると、そのままメイアの胸に突き刺した。
するとメイアは光になり、消えてしまった。
これで、残る精霊は一つ。時の精霊……
「あと一つ……急がなくっちゃ」
そういって、祭壇のある部屋から抜けようとしたとき、何処からか声が聞こえた来た。
『イルア=ディアーグ。聞こえるか?』
ゲイザ――グライアの声が、どこからか聞こえた。
何かの魔法なのだろうか? しかし、イルアはそれ所ではなかった。
『お前と話がしたい。グラディームの破滅の塔へ来い……一番高い塔だ』
その言葉を最後に、グライアの言葉は消えてしまった。
――次が、最後のチャンス。ゲイザを助けてあげて……――
最後のチャンスが、来た。
イルアは走って調和の遺跡を抜けると、すぐにフォーグライクスの中へと入った。

フォーグライシスのハッチを空けるなり、飛び込んできてイルアはルディフに地図を広げ
て指示を出し始めた。
「私を、破滅の塔へ送って! お願い!」
と、破滅の塔だと思われる場所を指差して言った。
「何だかよくわかんないけど、わかったよ」
イルアが座席に座っていないけれど、ルディフは彼女の言葉を聞き一刻を争う自体だと思
いすぐにフォーグライクスを起動した。
イルアはすぐに座席にすわり、レンに小刀を渡した。
「時の精霊との契約、レンに任せるから……」
「な、何バカを言って――」
「お願い……!」
彼女の真剣な眼差しで、レンは言葉を失った。
「ラティー、少しの間だけど、レンについていって。私にはやることが出来たの」
「……もしかして、ゲイザさんですの?」
「……………」
図星をラティーに突かれたのでイルアは少し黙ってしまった。
それを感じ取ったラティーは、少し寂しそうな顔をしていた。
「ごめんね、ラティー。これは、私一人の力でなんとかしたいの」
「わかったですの……ゲイザさんを、助けてあげて欲しいですの」
「うん、約束する」
イルアは微笑んで、泣きそうなラティーと約束を交わした。
(必ず、ゲイザを助ける……私の命が、なくなるとしても――)

フォーグライクスは破滅の塔へと到着すると、イルアだけ降ろして、マルディアグへと転
送していったのだった……



続く……

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