第W]話 『切ない過去』
「さて、今度はどこに行くんですか?」
と、操縦席に座ったルディフがイルアたちに聞いた。
実際のところ、光の精霊、闇の精霊との契約はもう済んでいる。
残る精霊は、あと二つ。
「地図には、精霊のいる場所あと一つしか記されてないけど……どういうことかな? も
しかして、残りの精霊は一つ?」
イルアが地図を見ながら言った。
「いや、まだ一ついるんだよ……この世界にも、マルディアグにもいない精霊が」
「なんだそれは?」
とても不思議に思ったレンが、まるでいない精霊を言っているかのように聞こえてならな
いという風に聞いていた。
「まあ、それは色々あるから……その地図に記されている場所へ行こうよ」
「それじゃ、ここ、かな?」
イルアが指差したところはラミアズ村と記されている場所だった。
なんの変哲のない普通の村、ラミアズ。
フォーグライクスは村はずれの森に停まっていた。
イルアはそこに顔を見たことがある人がいることを知っていた。
「みんなは、適当にぶらついてて――」
「俺とルディフはフォーグライクスに残る。イルアとラティーで行って来い」
良くは知らないが、きっと何かあることをレンはわかっていた。
「はいですの! それじゃ、イルアさん。タクスさんたちの所へ行くですの!」
「そうだね。それじゃ、いってきます」
言わなければいけなかった。彼の親友が、自分のために記憶を失って敵になってしまった
ことを、自分自身の口で――
「ここですの、イルアさん」
ラティーは一回ラミアズ村に来たことがあるので、案内をしてもらっていた。
まずは、タクスの家。
イルアは目の前にあるドアをノックしてみた。
「すみませーん」
するとすぐにそのドアは開いた。
「はい、どちら様……――って、イルア!?」
タクスは目の前にいる人物をみて、ただ驚くことしか出来なかった。
あのとき、息を絶えたはずのイルアが、なぜこの地にいるのか。
「あー、まあ入りなよ。遠いところからわざわざ来てくれたし、おもてなしはするよ」
「実は、話があってここまできたの……」
タクスの家の中に入ったイルアは、今まであった事をラティーと共にタクス、そしてルベ
リィに伝えた。
ゲイザのおかげで、自分がホムンクルスから人間になり再び目を覚ましたこと。
そのせいで記憶を失ってしまったゲイザが行方不明になり、探す旅をラティーとしたこと。
世界の危機が訪れていて、精霊と契約しにこの世界に来ていること。
いなくなってしまったゲイザは、敵になってしまったこと。
この胸にあるペンダントのこと。
新しい仲間のこと。
タクスたちがいなくなってから、あったこと全てを話した。
……………
「なるほどね……そんなことがあったとは」
テーブルに膝をついてタクスは今まで話された全てを整理し考えながら言った。
確かにいっぺんに色々言い過ぎたかもしれない。
「イルアちゃん、大変ね……お疲れ様、と、言いたいけどまだやることのこってるもんね」
「うん。私にしか出来ないことだから……それでも、一応あなた達には話しておこうと思
ってね」
何かを思いついたのか、タクスは手のひらを叩いて笑って見せた。
「あ、じゃあ……ゲイザの家に行ってみなよ。ラミィーなら知ってるだろ?」
「はいですの! ラティーに任せるですの!」
椅子から立ち上がり、イルアは再びタクスとルベリィの方へ向き直った。
「それじゃ……タクス、ルベリィ。またね」
「おう! ゲイザをよろしくな」
「頑張ってね、イルアちゃん、ラティー」
そんな温かい別れの挨拶を背に、イルアはラティーと共にゲイザの住んでいた家へと向か
ったのだった……
「この家がゲイザの……?」
「はいですの。森の中にあるから、少し探すのに手間取ったですの」
森の中に一つだけポツリとある家。そこがゲイザの家だった。
「鍵は……開いてるみたい」
家のドアを開けてみると、普通に開いてしまった。
ここを旅立つとき、ゲイザは鍵をかけて行かなかったらしい。
「レンとルディフ博士には悪いけど、もうちょっと寄り道していこっか」
「はいですの!」
中に入ってみると、ごく普通な木造で二階建ての家。
一回には生活をするのに必要なものしかない。
そのまま二階へのぼってみた。
「ここはゲイザさんの部屋ですの。私も一回ここに来たことがあるですの」
「ゲイザの部屋……普通だね」
何もない、普通の部屋。ベッドがあって、机があって、クローゼットがある。
と、そのとき机の上に何かあることに気づいた。
「この写真は……?」
「家族、ですの?」
写真立ての中に入っていた写真は、幼いゲイザと小さい女の子、そして父親と母親らしき
人だった。
しかし、小刀を借りたとき、自分は捨て子だと言っていた気がするのをイルアは思いだし
て不思議に思った。
「あ!」
ミリアの言葉を思い出した。
――ゲイザの、大切な人だから……二度目は、嫌だったんだろうね。大切な人を失うのは
。いや……三度目、かな――
二度目はミリア。三度目は自分。そうすると、一度目は家族。
そうだった。ゲイザは家族を失っていた。
「そう、だった……ゲイザ、辛い思いばっかりしているんだ……私も、辛い思いをさせて
しまったのかな?」
「そんなこと、ないですの」
「え?」
ラティーが、真剣な眼差しで俯いているイルアを覗き込んでいた。
「きっと、ゲイザさんは辛い思いをしたとしても大切な人が好きだから……今度は、イル
アさんが助けてあげる番ですの……頑張る、ですの」
そんなラティーの言葉に、イルアは少し助けられた気がした。
すぐにイルアはラティー微笑んで見せた。
「それじゃ、レンたちも待ってることだし、戻ろっか」
「はいですの!!」
そしてイルアとラティーはゲイザの家を出ると、フォーグライクスへと戻っていった。
続く……
FC2 | キャッシング 花 | 無料ホームページ ブログ blog | |