第W話 『夢の中で会った少女』


「やぁっとついたーですの」
イルアとラティーは山道を抜けてからそのまま南に突き進み、港町デュラズへ来ていた。
つい最近にも来たためか、あまり懐かしいという感じはなかった。
だけれど、潮の香りがほのかにする。
「あっ」
イルアは顔に何か冷たいものが一粒当たったのを感じた。
そして空を見上げると、黒い雲が真上にあり、白い粒が少しずつ降って来た。
「うー、雪ですのー……イルアさーん、今日はこの辺で休みましょうよー」
駄々をこねるようにラティーはイルアに言った。
小さい体には、寒さは厳しいようだ。
イルアも先の戦闘のせいで少し体が痛むので今日はこれ以上歩くのは無理だとわかっていた。
「そうね……あ、でも――」
ふと思い出す。
前回来たときはホテルに泊まったけれど……そんな豪華なホテルに泊まる金など持ち合わせていない。
イルアはため息をつき、町中でも見える大きな建物を見つめた。
「ホテルは無理、よねぇ……」
ぼそりと呟く。ラティーから聞いてみれば、それはちょっと残念そうにも聞こえた。
しかし、ホテルに泊まれないとなると、普通の宿を探すしか道は残っていない。
今更この寒い季節で雪が降っている中野宿というわけにもいかない。
「イルアさん、フツーの宿屋、ありますかねぇ?」
周りをキョロキョロと見渡してラティーがイルアに言った。
さすがに体力も寒さに奪われてくるぐらい寒くなってきたので、イルアとラティーはさっさと
普通の宿屋を探すことにした。

「広いねぇ……デュラズは」
もうかれこれ30分ぐらい町の中を歩き続け宿屋を探しているがまったくそれらしき
建物が見つからない。前に来たときは大きくて目立つホテルに、港にしか用がなかったのでまったく
街中を歩いていなかった。
今まで歩いてきたけれど、歩いている人の姿はそんなに見当たらなかった。
多分雪が降っているからだろう。
「あ、イルアさん。あれっぽいですの」
2階建ての建物をラティーは指を指した。
出入り口のドアの横には宿屋と書かれている。
間違いない。
「じゃ、寒いからさっさと中に入っちゃいましょ」
そういうと、イルアは小走りで寒さから一刻も逃れるために宿屋の中に飛び込むように入っていった。
ラティーは寒くて飛ぶ気力さえないのでイルアの方に座っていた。
「おやおや、寒かっただろ? 何名様だい?」
イルアが走って入ってくるといかにも優しそうな普通のおじさんがカウンターの仕切りの中から笑って
出迎えてくれた。
「に、二名様でっ」
息が切れている。小走りをしたつもりだが、本当はそんな体力は残っていない。
やはり先の戦闘と少しだけ長い道のりを歩いたためだろう。
「はいよ。疲れているようだから、ゆっくり休みな」
「は、はい」
イルアは鍵を受け取りガルドを払うとすぐその鍵に書かれている番号の部屋まで向かった。
101号室。
ドアに立てかけられた板と鍵に書かれてある番号を見比べて、確認をした後鍵穴に鍵を差し込んで回し
すぐその部屋に入った。
「はぁー、つかれたですの〜」
ラティーがすぐイルアの肩から降りて飛び回り始めた。
部屋は最初っから暖められていたらしく、寒いところから入ってきたイルアとラティーにとっては
天国なような場所に感じられた。
しかし、温かい空気が逆に冷えた体をもっと冷えさせるような感覚にさせる。
「よっと」
イルアは腰に下げてある曲刀の入った鞘をベッドの横に置くと、ベッドにすぐ倒れこんだ。
倒れこんでから少したつと、今日の分の疲れが体に染み渡るような感覚に陥った。
「ちょっと戦闘で足痛めちゃったみたい……」
少し痛む足を寝ながら片手で摩った。ラティーの言葉を待っていたが、気づくと用意されたもう一つの大きな
ベッドの腕で体を小さくして寝ていた。
「……私も寝よっと」
目を閉じると、すぐに眠気が襲い掛かってきて、段々意識が薄れてきて、気づくと眠りに入っていた。


(誰か、いる……)
辺りは真っ暗で、何も見えない。
ただ見えるのは、黄色い長い髪の人。
『精霊、を――』
小さい声だけれど、聞こえる。声が。
『精霊を集めて――そうでないと、世界は――』
(何? 精霊、って……)
精霊とは始めて聞く。まったくわからない。
とりあえずその声を聞いてみる。
『水晶洞窟へ……その小刀を持って』
「ちょっと、あなたは――」
『私は――』
黄色い髪の長い女の子は、何かを言いかけて消えていってしまった。
再び辺りは何もない真っ暗になったと思えば、次は遠くに何かが見える。


(さっきの女の子? それにゲイザ?)
黄色の長い髪。それに今のゲイザとはちょっと違う雰囲気を出しているゲイザ。
何かを話しているようだった。
遠くにありすぎて、イルアは歩いて近づいてみても、その分その場所は遠ざかっていった。
近づけない、ということだろう。仕方がないからイルアはその場でその様子を見ていた。
「あの……これからここを出て行っても見つかって殺されるだけだと思うんです……
だから、あなたにボディーガードをしてほしいのですけれど……」
「あぁ……って、なんで俺が?」
食器を拾うのを止めてゲイザは少女の方を見た。
少女は少し震えて今にも泣きそうな瞳をしていた。
「だって、強そうですし――それに、私なんで追われているのかもわかりません。
ちゃんと自分自身についてわかってないんです……」
ゲイザは俯き、何かを決意したように一回頷くと立ち上がって少女の顔を見ずに
話を始めた。
「俺も昔、捨てられて親もだれなのかわからない。手がかりになるのもこの小刀くらいだ……」
鞘に収まっている小刀を取り出した。
それはイルアがレンから受け取った小刀。そしてゲイザに貸してもらった小刀だ。
「俺も、君と同じだ。自分が誰だかわからなかった……だから、一緒に探しに行かないか?
その『答え』を」
ゲイザは少女に手を差し出した。
そして少女はゲイザの手をとった。
「はい……私の名前はミリア。ミリア=ビリアムズです」
ミリアと名乗った少女。
黄色い長い髪の少女の名前。
ラティーも確かそんなことを言っていたような……
(――あ……ペンダント)
イルアはミリアといった少女の胸を見た。
そこには自分にかけられてあるペンダントと同じだ。
翼がついていて、黄色い宝石。
でも少しだけこちらのほうが羽がボロボロになっている。
「その、答えを……一緒に探してください。
そして、私を守ってくださいね。ボディーガードなんですから」
彼女はゲイザに微笑んだ。
すると、辺りは再び真っ暗になって消えていった。

「んっ……」
イルアは眠りから目を覚ました。
「おはようですのー、イルアさん」
目の前にはラティーが笑って飛んでいた。
(さっきの夢は、なんだったんだろう)
普通の夢ならあまり思い出せないが、さっき見た夢はちゃんと思い出せる。
それになんというか、目覚めはいい気分じゃない。
誰かに強制的に起された感じがする。
とりあえずイルアはラティーに次の行き先を言った。
「さ、疲れもとれたことだし今日は『水晶洞窟』へ行きましょう」


続く……

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