第V][話 『ここにある心』


翌朝、イルアたちは目を覚ますとルアグ博士とルディフによってフォーグライクスの所ま
で集められた。
「娘っ子よ、これでフォーグライクスはいつでもグラディームへいけるぞい」
「フォーグライクスに転送装置をつけたんだ! すごいだろう!」
外見は全然変わらないけれど、これでグラディームとマルディアグを行き来出来るように
なったのだろうか?
「ささ、早く乗った乗った!! テストも兼ねて、早速転送してみよう!」
「テストもなしに転送するなっ!!」
「気にしな〜い、気にしな〜い」
レンに怒鳴られつつ、ルディフはフォーグライクスのハッチを空けて乗り込んだ。
ため息をついたレン、ラティーも続いて乗り込んだ。
「娘っ子」
イルアも向かおうとしたとき、ルアグ博士に呼び止められた。
フォーグライクスに向いていた視線を、ルアグ博士の方へと移した。
「こいつを持っていくんじゃ」
「これは、地図……?」
「それにはちゃんと精霊のいる場所が書いてある。参考にしてくれ」
「ありがとうございます」
地図を片手に、イルアはルアグ博士にお辞儀をすると、すぐにフォーグライクスの中へと
急いだ。

フォーグライクスに入り込むとそれぞれ座席についてシートベルトをつけ体を固定した。
「さ、転送を始めるよ。結構すごい揺れが予想されるから、がんばってね」
何を頑張るのかわからないが、イルアたちはそれなりの覚悟を心の中で決めた。
「転送五秒前。四、三、二、一……転送開始っ!!」
転送が始まると同時に視界が光に包まれていき、意識もまったくない状態になった。


目を覚ますと、フォーグライクスは青い空の上にいた。
どうやら転送は成功したようだ。
「ここが、グラディーム……」
イルアはフォーグライクスの窓から外を覗んでみた。
長い塔が一本建っていたり、台地が綺麗に分断されていたりとまたマルディアグとは違う
風景が見られた。
「さ、君達の目的地はどこかな?」
一番騒ぎ出しそうな人が、多分冷静にイルアたちに目的地を聞いてきた。
「どうする、イルア。俺は全くわからんぞ」
「私も、一回来たけどわからないですの……」
レン、ラティーの言葉を聞いたイルアは、先ほどルアグ博士に貰った地図を懐から取り出
し、広げて見せた。
「ルディフ博士、ここに飛んでほしいの」
イルアが指差したところにあったのは、真聖の神殿と書かれてある場所だった。

土地柄になれないため、少し手間取ったがその場所はすぐに見つけられることが出来た。
「ここが真聖の神殿……」
イルアの目の前には、とても神秘的な遺跡があった。
「光の精霊がいるのか?」
「そうみたいだね」
そんな会話をしながらイルアとレン、そしてラティーはその入り口に入ろうとしたが……
「む……………」
「どうしたの?」
イルアが中に入りかけ、次にレンも入ろうとしたときいきなり動きを止めた。
それに身構えている。
「イルア、少し中に入れ」
「う、うん……」
「でやぁっ!!」
いきなり剣と取り出し、レンは何も扉のない入り口に斬りつけた。
すると、何かがあるかのように弾かれてしまったのだ。
「やはり、光の壁が……」
「え? どういうこと?」
まったく状況を理解できないイルアは、神殿の中に入ったままレンを見ていた。
「俺とラティーは中には入れない。お前一人で行って来い。俺たちはフォーグライクスの
中で待ってるから」
「なんだかよくわからないけど、わかったよ」
そうしてイルア一人が神殿の奥へと進んでいった。

「なんだろう、この心地よさは……」
神殿の中はとても温かい光がさしていて、明るい場所だった。
通路は一本道しかなく、マルディアグのときの契約と違って入り組んではいないようだった。
「この先に、精霊がいるのね……」
イルアは小刀を片手に握り締め、奥の部屋へと進んでいった。

奥の部屋に行ったら祭壇があった。
ここはいつもとは変わらないらしい。
光が祭壇に集まると、やがてそれは人の形を作り、精霊が現れた。
「私の名は、光の精霊シャウナ……なんのようですか?」
美しい姿に、イルアは一瞬見とれたが、すぐに我に戻り、話を切り出していった。
「契約しにきました」
「そうですか……マルディアグの精霊はもう全て契約しているようですね」
シャウナは小刀を見て、それを確信した。
「いいでしょう。契約者として相応しいか、力を見せてもらいます」
イルアはすぐに曲刀を構えると、シャウナも光の槍を出してきた。
「と、言いたいところですが……あなたの力は、その心を見ればわかります」
優しく微笑んだシャウナが、すぐに光の槍を片手から消し去り、イルアに歩み寄ってきた。
それと同時に、胸にあるペンダントが輝きだした――
「ドールは、この世界からいなくなってしまったんですね」
どこか悲しそうな、寂しそうな表情でシャウナは言った。
「……ミリアさんのことですか?」
「はい。あの子は私の子ですから……」
「あなたがドールを生み出したんですか?」
「そうですね。何年前でしょうかね……もう千年にはなると思います」
「でも――」
イルアは、胸にあるペンダントを片手で抑えた。
優しく、包むように……
「でも、ミリアさんは、ここにいます」
「その心の力を使い果たすか、ペンダントを壊すか……そうしなければドールの命は消え
ないですからね」
「心の、力?」
初めて聞いた言葉に、イルアは不思議に思った。
しかし、シャウナは目を閉じて首を振った。
よくわからないが、教えてくれないということなのだろうか?
「それは、誰にでもある力。私から教わるものではなく、自分で見出すもの……」
ゆっくりと目を開けて、シャウナは微笑んだ。
「さ、契約をしてください。私もこの世界を守りたいですから――」
左手に持っていた小刀の鞘から小刀を取り出し、構えた。
「光の精霊シャウナ。契約させてもらいます」
その小刀を、両手で突き刺した。
するとシャウナは光になって、消えていった。
「心の、力……自分で見出せ、か」
小刀を鞘にしまい腰に下げると、イルアは来た道を戻りフォーグライクスへと向かった。

残りの精霊は、あと三つ。


続く……

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