第V]Z話 『光の心を大切な人に』


なんとか炎の精霊と契約を交わしたイルアとエーレ。
再びイルアたちはフォーグライクスの中で次の目的地を相談していた。
とりあえずは優先をしなければならない精霊集めの話。
ルディフとサイグ、エーレに今まであった事を話した。もちちろん、精霊のことや世界の
危機のことなどを中心に。
精霊の話を聞いたルディフは人差し指を立ててにこやかに笑っていた。
「残りの精霊は四体だね」
そのルディフの言葉に、イルアは吃驚していた。
「え!? でも、マルディアグにいる精霊は今ので全部だって……あ」
「マルディアグにいる精霊、だろう。グラディームにはまだいるというわけだな」
「でも、どうやっていくの?」
「それが可能な人物が、一人だけ心当たりがあるはずだろう?」
レンにそういわれて、イルアは少し考えた。
マルディアグとグラディームを行き来できるようにしてくれる人といえば、一人しかいな
いはずだ。
イルアよりも先に、ラティーはその答えを言った。
「ルアグ博士ですの!!」
「そうだ。ということで、次の目的地は……」
「ちょ、タンマ!」
レンが次の目的地を言おうとしたとき、サイグが挙手をしつつ言葉を遮った。
「ちょっと、俺とエーレをスェルダンルに降ろしてくれないか? 色々とやることがある
からな」
「そうか……わかった。ルディフ、一旦スェルダンルへ向かってくれないか?」
「アイアイサー!」
「「……………」」
彼は、本当に天才博士なのかと疑いたくなる言葉が沢山ある気がしてならない。
フォーグライクスの中にいる、ルディフを除いた全員が、そう思った。

やはりフォーグライクスの性能は確かなものだった。
第三大陸から約三十分で第二大陸王都スェルダンルまでついてしまったのだから。
フォーグライクスのハッチから出たサイグとエーレが、ハッチの中にいるレンとイルア、
ラティーを見て話していた。
「んじゃ、用が済んだらレスコォールまで行くからさ」
「イルアちゃん、またね」
そういって二人はスェルダンルへと戻っていってしまった。
「さて、ルディフ。次はレスコォールによろしく頼む」
「わかったよ。発進、っと!」
再びフォーグライクスは宙へ浮かぶと、レスコォールへの方角を向いて直進していった。


「ルアグ博士ー!!」
いつもの通り、ラティーは研究室のドアを開けて勢いよく入ってきた。
「ルアグ博士、お久しぶりです」
「お主は、ルディフか」
ラティー、イルア、レンはこの間来たので顔は知っていたが、意外な人物がいたことにル
アグ博士は少々驚いていた。
「何故お主がここに?」
「飛行船、操縦係です」
いつものことだが、意味不明な発言。
「まあよい……お主ら、精霊を六体集めたようじゃの。そんでマルディアグへ行きたい、
そういう用件じゃろう、娘っ子よ」
「ま、まあ……そんなところです」
何と言う洞察力を持っているんだ、この老人は。
とりあえず説明が省けたのでイルアはそれはそれでよしとした。
「それじゃ、ルディフよ。その飛行船は外に止めてあるんじゃろ? 改造するんでな、ち
ょっくら手伝え」
「はい!」
何時もと違う雰囲気なルディフだった。やる気満々で、何かに興味を持っている、そんな
感じだった。
ルアグ博士とルディフはそのまま道具を持って外へと出て行ってしまった。
「じゃあ、これからどうしよっか?」
なんだか、やることがなくなってしまったイルアは戸惑いながらもレンとラティーに聞いた。
「精霊と戦ってきたから、疲れているだろう? 少し休んだらどうだ」
「そうですの! 今後に備えて、ぜひ休むべきですの!」
そんな二人の意見を受け入れがたかったが、一応それも一理あるのでイルアは頷いてみせ
た。
「そうだね。休むことにするよ」
そういって、イルアは研究室の寝室へと向かい、ベッドに潜るとすぐに眠りについたの
だった。



まただ。
また、悲しい、光の記憶だ。
だけど、彼女の言うことが正しかったら、今回で最後のはず――

広い石作りの部屋に、一人の少年と、下半身が魔物化している少女、そしてその少女の攻
撃を防いでいる男の人がいた。
ゲイザと、ミリアだった。
どうやら、ゲイザは泣いているようだった。
(ゲイザ……ごめん、ね)
「ミリア……?」
ミリアの声が心に直接聞こえてきた。
ゲイザは涙を拭い、瞳が虚ろなまま、未だ攻撃を続けているミリアを見た。
(少し、闇の私に打ち勝つことができたの。でも、遅かった――ねえ、ゲイザ……私を、
殺して……)
「何を馬鹿なことをいっている!」
ゲイザはミリアに叫んだ。しかし、本人に叫んでも、何の変化もなく、まだ攻撃を続けて
いる。ゲイザに似た男の人も、その攻撃を防ぐのに精一杯だった。
「ゲイザ!! こっちももう持たないぞっ」
(お願い……また、心が闇に飲まれる前に、私を)
再び、ミリアの声が聞こえてきた。本人の口から発せられた声ではなく、ゲイザの胸の中
に語りかけてくるように。それは見ていたイルアにも聞こえていた。
「しかし、俺は……――」
今のゲイザには無理だった。大好きな人を殺すことを、できるはずがなかった。
しかし、再びいつものミリアには戻ることはない……
(このままじゃ、大好きな人たちや、罪のない人たち……そして、ゲイザも殺しちゃうか
もしれない。だから、せめてゲイザが私を殺してくれれば……人を殺し続ける兵器として
生きるくらいなら、私、大好きなゲイザに殺してもらった方がいいから……)
それがミリアが出した答えだった。
ドールとして生まれてきた運命。それに逆らうことなく、唯一、一番幸せにこの世を去る
方法。それは、ゲイザに殺してもらうことだった。
その答えを聞いたゲイザは、拳を握りしめて俯いた。
少しの間、そのまま考えていた。
「――わかった」
ゲイザはやっと腰に下げていた聖剣ラスガルティーともう一本の黒い剣をを両手に取った。
そのとき、二つの剣から眩しい光が放たれ、首にかけていたペンダントが光りだした。
「なんだ? この、光は……」
ゲイザの背中から、白と黒の翼が現れ、二つの剣は宙でペンダントと合わさって薙刀にな
った。
「これが、マインドオブライト――心の光……」
ゲイザはそう呟いた。
そして白と黒の翼で宙へ羽ばたき、宙に浮かび上がるとミリアを見た。
(私が、私であるうちに……殺して)
するとミリアの攻撃がピタリと止まった。
下半身が魔物化したミリアの顔を見てみると、泣きながら微笑んでいた。
そう、いつものミリアに戻っていたのだ。
「ゲイザ。私、マイちゃんも殺しちゃったし……このままじゃ、ゲイザとスレイドさんま
で殺しちゃう」
ゲイザは俯いたまま、涙を堪えていた。
「せめて、みんなを殺しちゃうくらいなら……私を一番愛してくれた人に、殺して欲しい
。それが、私の最後の……頼み」
そうしてゲイザは聖邪剣、マインドオブライトを構えた。
「ミリア……!!」
ゲイザは堪えきれず瞳から涙がこぼれる。
「ゲイザ……」
ミリアも、涙を流し、俯いた。
「くっ……………でやぁぁぁぁぁぁっっっ!!」
翼を広げ、ゲイザはマインドオブライトでミリアの腹部を突き刺した。

いつものように、黄色い髪の少女は記憶が消えると共にイルアに目の前に現れた。
「これが、私とゲイザの最後の思い出……」
「そんなの、悲しすぎるよ」
先ほどの記憶が脳裏に浮かんできて、悲しみに似た辛さがイルアの胸の中を熱くした。
俯いたイルアは、両手を強く握り締めていた。
「だけど、逆らうことは出来なかった」
「わかってる! わかってるけど!!」
「イルアちゃん」
ミリアの優しい声が、イルアを落ち着かせた。
「人の心は、悲しみや苦しみを乗り越えて強くなるものだよ……だから、ゲイザはとても
強いんだよ。わかるでしょ? 彼の心の強さが」
ゲイザに何度も心を救われたイルアには、その言葉に意味がよくわかった。
どんなに辛くても、彼の傍にいれば乗り越えられる。
それは彼の心が強いから。
「私の記憶、私の夢はこれでおしまい」
何故か、ミリアは微笑んでいた。
多分、彼女にとっては一番の微笑みだろう。
「次が、最後のチャンス。ゲイザを助けてあげて……」
「うん……」
いつものごとく、辺りが光に包まれて真っ白になった。
そして、これで最後かもしれないミリアの一言が……

――あなたの、マインドオブライトを、大切な人に――



続く……

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