第V]Y話 『魔法の力』


隕石破壊、そして戦争停止という目的を果たしたイルアたち。
第三大陸ルスツェンブルガ、そして第二大陸クォルピアは魔物たちからの恐怖から逃れら
れたのであった。
とりあえず、今後の事も兼ねて第三大陸の王都、ルアシュレルグの前に停めてあるフォー
グライクスの中で話し合いを行っていた。
「さ、これから……――」
「あのー、ルディフ博士?」
「何?」
何故かいきなり仕切り始めていたルディフを、イルアはとどめる様に声をかけた。
「なんで仕切ってるんですの?」
全員の疑問をイルアの肩に座っているラティーが口にした。
すると、ルディフはとてもにこやかな笑顔で微笑んでいた。
「うん、ボクも君達についていくよ。フォーグライクスがあれば便利だろう? 操縦する
人も必要だし。ね? いいだろ?」
「勝手に話を進めるな!」
そんなマイペースなルディフに、呆れながらもレンが怒鳴った。
しかし、サイグとエーレはもう慣れていたので何も言わなかったが……
「簡単にいうと、君達に興味が湧いてきたんだよ、うん」
「な、なんですか、それは……」
別の意味で捉えてしまったイルアは、少し焦りつつも苦笑していた。
「ま、そういうことだから、よろしくね」
どこまでもマイペースなのだろう。この人は。
フォーグライクスの中にいる誰もが、そう思ってしまった。
雰囲気を変えようと、レンは咳払いをして話を切り出していった。
「とりあえず、この後のことだが……本来の目的である精霊を集めたいと思う」
「質問ー」
フォーグライクスの座席シートに座っているサイグが挙手をしていた。
「なんだ」
「前から疑問になってたんだけど、精霊ってなんだよ」
「うむぅ……」
説明に困ったレンだったが、すぐにルディフが変わりに説明してくれた。
「精霊は、この世界を司る者。まあ、言ってしまえば神に近い存在かもしれないね……
それに、精霊なしに、この世界は成り立たないんだ」
「あの〜、なんでそんなに詳しいですの? それはディアーグ博士が独自に研究をしてき
たものだと聞いたんですが……」
ラティーの言うとおりだ。普通の人が知っている研究ではなかったはずなのに、なぜルデ
ィフ博士が精霊のことを知っているのだろうか。
「あぁ、ボクも独自に研究してたんだけどね。ディアーグ博士が失踪してから、その続き
をボクがすることになったから、それくらいは知ってるさ」
「お母さんの、研究……か」
母親のことはよく覚えていないが、優しかったことだけは覚えている。
イルアはいつの間にかいなくなってしまった母親のことを思うと胸が締め付けられる感覚
を覚えた。
「イルアちゃん、どうしたの?」
心配そうな顔をしたエーレが、イルアの顔を覗き込むようにして見ていた。
それに気づいたイルアは、作り笑いに似た苦笑で、誤魔化した。
「大丈夫だよ。心配しないで、エーレ」
「ならいいけど……」
――そんな笑顔で心配するなと言われても……
エーレはそう思ったが、あえて深く追求することはしなかった。
再びレンが話を切り出していった。
「さて、第三大陸にいる精霊は一つ」
「炎の精霊だね」
やはり研究をしているだけあって、ルディフはわかっていた。
「ならば話は早い。ルディフ博士、フォーグライクスでそこまで頼む」
「おっけー♪」
そしてフォーグライクスは炎の精霊がいるグラグタル火山へと向かった。


グラグタル火山が目の前に見えた頃、ルディフは一旦フォーグライクスを地面へと着陸さ
せた。そして着陸と同時にルディフがイルアたちに忠告をした。
「あ、言うの忘れてたけど、グラグタル火山の内部は道が危ないから四人じゃとてもいけ
っこないよ」
「え!? なんで?」
行く気満々なエーレが、その言葉に驚き声をあげた。
「地盤が緩くて危険だからね。いけても二人だろね……あ、妖精型ホムンクルスは連れて
いけないよ。とてもじゃないけど、熱に耐えられない」
「私にはちゃんとした名前があるですのー!!」
名前で呼ばれなかったラティーはルディフに憤怒していたが、レンは気にもとめず、イル
アに向き直っていた。
「……イルア、俺たち三人の中から連れて行く人を選べ」
「イルアちゃん! 私を連れて行ってー!」
何故かエーレが突然イルアの胸に向かって泣きついてきた。
「ど、どうして連れて行って欲しいの?」
「だって……――まだ私戦ったことないんだもん!」
確かに、付いてくるといって杖まで持ってきたのはいいが、まだ一回も戦闘をしていなか
った。少し可哀想な気もするが、逆に危険だ。
「あー……いや、でも……」
「イルア、エーレはこういうと良いって言うまでやめないぞ」
「でも、危険じゃない?」
「腕っ節は男勝りだから大じょ――ぅっ!?」
一瞬でわからなかったが、サイグの腹部に何者かの鉄拳の跡が付いていた。
すぐにサイグはその場に蹲って呻いていた。
「いいでしょー? 足手まといにはならないから!」
「う、うーん……」
困っているイルアは、レンを見たが、一瞬目が合ったがすぐに逸らされてしまった。
「い、いいよ。でも、危険だから気をつけてね」
「うん、大丈夫だよ!」
結局イルアはエーレと共に、グラグタル火山へと向かったのだった。


「もー! 暑いし、危険だし……一歩間違うとマグマの中にドボンだよー!」
先ほどとは違ってとても愚痴をいっているエーレ。
しかし、無理もない。
一人がやっと通れる通路に、その道を踏み外すとマグマの中へと落ちてしまう。
それにとても暑い。
『もうちょっとです。頑張ってくださいね』
小刀から聞こえる声はウィルティーだった。
優しく涼しそうな声が、少しだけ気分を温かさから逃れさせてくれる。
「うん、ありがと、ウィルティー……エーレ、もうちょっとだから頑張ろ?」
地べたにペタリと座り込んだエーレに、イルアは手を差し伸ばした。
「そだね……頑張るよ」
二人は汗を握る手を握り合わせて、再び炎の精霊のいる場所へと向かった。

ついに苦労の末、辺りがマグマに囲まれた部屋へと出てきた。
そこには祭壇があり、入りどまりだったので精霊のいる場所ということははっきりした。
『ここがそうです。イルアさん、この精霊で、マルディアグの精霊は全部です』
「そっか……わかったよ」
イルアとエーレはその祭壇へと向かった。
そして祭壇の上には光が集まり、炎の妖精が現れた。
「お、久しぶりのお客じゃねえか! 俺になんのようだ!!」
男の人の格好をした妖精。なんだか、とても暑苦しそうだ。
『相変わらず暑苦しいわね、フラグダズ』
小刀からはセルグラムの声がした。
「うるさい! 貴様にはワカランだろうな、元気がいいということはいい事だってな!!
 冷徹女!!」
『な、なんだとっ! 暑苦しいだけの筋肉男め!』
傍から見ると、ただの喧嘩だ。しかも仲がいい人のする。
こうしていてもラチが開かないのでイルアは契約のことを切り出して言った。
「炎の精霊フラグダズ。契約させてもらいに来ました」
「おう! んじゃ、契約のためのバトルをするとしますか!!」
そういうとフラグダズは武器を持たずに構えた。
『彼は拳で戦ってくるわ。素早いくせに攻撃力もあるから、気をつけて』
「ありがと、セルグラム!!」
イルアも武器を構える。状況を把握していないエーレも、一応杖を構えた。
まだ、何が出来るかはわからないけれど戦いたいという意思が彼女にはあった。
曲刀を構えたイルアが、エーレに指示を出す。
「エーレ、何が出来るの!?」
「えっと、下級魔法を少しなら……」
「なら、水か氷属性の魔法をバンバン相手にぶつけて!」
「うん、わかった!」
エーレは杖を構えて魔法を唱え始め、イルアはフラグダズと戦闘を開始した。
「アイシクルスプラッシュ!!」
イルアの曲刀から氷柱が現れ、水の竜巻と共に攻撃を仕掛けた。
「甘いわっ! バーニングブレイクゥ!!」
「えっ!!?」
なんと、炎に包まれた拳で、氷柱と水の竜巻を蒸発させ、イルアの曲刀を弾き飛ばしてし
まったのだ。その攻撃を防ぎきれなかったため、腕にその一撃をくらってしまった。
「イルアちゃん!!」
「い、たい……」
腕に火傷を負い、痛みでイルアはその場に倒れたまま、呻くことしか出来なかった。
エーレは何も出来ず、ただ痛みを感じていることしか出来ないイルアの傍に行っただけだ
った。
「私、足手まといにならないっていったのに……」
イルアの手を握っていた手に、悔しさのあまり思わず力が入ってしまった。
そのとき、白い光がその手から放たれ、イルアの火傷が消えたのだった。
「な、なんなの? この光は……」
「痛くない……もしかして、癒しの力?」
「そ、そんなのわからないよ!」
それを助言するかのように、小刀からウィルティーの声が発せられた。
『エーレさんは、元から体内に光の力が備わっています。なので回復魔法が使えるんです
よ。光属性が強い人は、みんなそうです。あとはコツさえ掴めば、補助魔法なんかも使え
ますよ。』
「なるほど……私ってすごいかも!!」
火傷が治ったイルアは、再び立ち上がり曲刀を構えた。
「今度は、負けないんだから!!」
「なんど来ても同じ! 女には負けん!!」
フラグダズも構えをとり、両者は向き合ったまま、睨みあっていた。
するとイルアは、後ろにいるエーレに再び指示を与えた。
「エーレ、我武者羅でいいから補助魔法使ってみて!」
「え、で、でも出来ないかもしれないよ!?」
「やらなきゃ、わかんないよ!」
「……!!」
イルアの言葉の通りだと思ったエーレは、杖を構えて再び魔法を唱え始めた。
呪文がわからないので、今度は適当に心の中で、念じるだけだが……
――イルアちゃんに、力を!――
そんなことをただ心の中で呟いているだけだった。
これで本当に魔法が発動するのだろうか、とエーレは一瞬不安になったがやってみなけれ
ばわからないというイルアの言葉を思い出し、それをやり続けた。
「はぁぁっ!!」
「ぬぉぉぉー!!」
イルアの曲刀が、一瞬赤く光り煌いた。
動きもさっきより軽く感じる。
暑さもそんなに感じなくなった。
「一閃!! 光塵瞬牙閃!!」
光りのごとく、早い剣裁きでフラグダズの腹部を切り裂いた。
精霊なので、血は出なかったが彼の顔は痛みで歪んでいた。
「うっ……なかなかやるな。俺に傷を負わせるなど、人間……それも女のくせによくやる
よ。契約してやろう」
「炎の精霊フラグダズ。契約させてもらいます」
イルアは小刀を取り出し、いつものごとくフラグダズの胸にその小刀を突き刺した。
すると光になって消えてしまった。
小刀を鞘にしまうと、イルアはエーレの元へと戻った。
「えっと……補助魔法、発動できなかったけど、契約できてよかったね」
「ちゃんと出来てたよ。魔法……ありがとうね」
魔法発動の印である魔方陣などは出なかったが、確かにイルアの動きは軽くなり、曲刀の
切れ味もより増していた。確かに発動していたのだ。
「嘘……だって、発動――」
「体も軽くなっていたし、剣もあんなに切れ味よくないもの。きっとエーレのおかげだよ
……」
『魔法とは、人の心で発動するものなんですよ』
再び、ウィルティーの声が小刀から聞こえた。
『心でそうしたいと思うことで……そう願うことで、魔法はそれに応じてくれるのです。
イルアさんも、私達の力を借りているけれど、それはよくわかっているはずです』
優しいウィルティーの言葉が、イルアの今までの戦いを振り返らせた。
魔法。そもそも無属性のホムンクルスだったイルアは、魔法は元から使えなかった。
だから、精霊の力を借りていたが、いつも心でそう思ったように魔法は応えてくれていた。
「うん、魔法は、そういうものなんだよ。エーレ」
「私もさっきのでなんとなくわかった気がするよ」
そしてイルアとエーレは火山を抜けてフォーグライクスへと向かったのだった。
残る精霊は、あと四体……
何故精霊を集めなければいけないのか、わからないままイルアたちは契約を続けるのだった。


続く……

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