第V]V話 『希望の望み』


「ここの最上階に、親玉がいるですの!!」
誰もいない城に、そんな元気のいいラティーの声が響き渡った。
あの後、レンのおかげで敵は一点に集中し、なんとか魔物のいない道を見つけて城へ侵入
していた。
「大丈夫かな……レン」
イルアはそう、小さい声で呟いた。
「大丈夫だって、心配するなよ! あいつなら、なんとかやってるさ」
「う、うん。そうだよね……レン、強いからね」
そんなサイグの心遣いに気づいたイルアは、微笑んで見せた。
しかし、心配なのは変わらない。
だが、自分にはやらなきゃいけないことがあることを思い出した。
「イルアちゃん……この城には敵がいないみたいだけど、すぐ上にいってさっさと倒しち
ゃう? それとも辺りを歩いて様子を見てから行くか、どうしよっか?」
エーレは辺りを見渡しながら、イルアに言った
急いだ方がいいのは確かだけれど、なにか不自然な点がある。
兵がいない、という点だ。
「少しあたりを探ってみよ。何かあるかもしれないしね」
そしてイルアたちはすぐ上の階には行かず、辺りを探ってみることにした。


「アラグダズガ様、やつらが侵入してきた模様です」
一人の女剣士、ルディアが王の座に座っているアラグダズガに頭を下げて膝を付いて、何
かを報告していた。
「そうか……ここが落ちるのも時間の問題というわけか」
「そんな!!」
アラグダズガの言葉に、ルディアは声を荒くして否定をした。
すぐに失礼なことをしたと思ったルディアは咳払いをして頭を下げた。
「やつらは私が食い止めて、必ず撃破します」
「……まあよい。まだ私が直接叩く日ではないので、本星に一旦下がらせてもらう。あと
は好きにやっていいからな。すでに他の策は打ってある」
アラグダズガは立ち上がると、そのまま光に包まれて消えていってしまった。
「グライア」
「何だ」
ルディアはアラグダズガが消えた後も同じ格好のまま、グライアを呼んだ。
「あなたは、今日戦ってはダメよ」
「っ!?」
「なんでですか〜?」
驚いているグライアの横から小さい妖精型ホムンクルス、ルミィーがその理由を聞いた。
いつものごとく、とてもマイペースな正確なルミィー。
「精神が崩れるからよ……あの女と戦っては、あなたの心が飲み込まれてしまうから」
「俺の心が……? あのイルアとかいう女にか?」
グライアの声は少し憎しみが溢れていた。
しかしわかるのは声だけで、どんな表情をしているのかは仮面のせいで全くわからなかっ
た。
「そうよ。だから戦ってはダメ。その代わり、おチビちゃんに戦ってもらうわ」
王の座の影から出てきたのは、背丈が小さい、まだ十歳ぐらいの少年だった。
「チビっていうなよっ!! こう見えても僕は、アラグダズガ様直属の部下だぞ」
「私もだけど」
少しからかった様子でルディアは笑って見せた。
しかし、少年の方は怒った様子だった。
「うるさいな!! ショーンル様にチビとかいうなよ!」
「ま、元ディメガスの四天王だったから少しは強いんでしょ?」
「僕は主に上級魔法を中心に戦うからね。まともにくらってくれれば一撃さ」
今度は自慢げな笑いをルディアに見せて、両腕を腰に当てて笑った。
そんなシューンルを他所に、ルディアはグライアの方へと向き直った。
「ということで、あなたは下がってなさい。どっちかというと、見ていてくれてる方が嬉
しいけどね」
「ああ、わかった……しかし」
ため息で言葉を詰まらせ、グライアはルディアの方へ向き直った。
「なぜ見ていなければいけない?」
そんなグライアの疑問に彼女は笑いを堪えつつ、再び意地悪っぽく微笑んだ。
「うふふっ……それは、乙女心ってやつよ。ね、ルミィー」
「乙女です〜♪」
敵がすぐそこまで来ているって言うのに、そんな緊張感のなさにグライアは再びため息を
ついて、頭をおさえた。
「そ、そうか……」


「ねえねえ、イルアちゃん、ここ!!」
「ん?」
イルアたちは城の一階を歩いて探っていた。
「どうしたの、エーレ?」
「うん、ここから地下にいけるみたい」
指を刺したその先には地下へと続く階段があった。
「城の地下っていったら、牢屋だろ?」
腕を組みながら、イルアとエーレのやり取りを見ていたサイグが階段の先を見ながらいっ
た。そのままイルアたちは地下へと降りていくと、やはりサイグの言ったとおり牢屋にな
っていて、そこには沢山の人の気配がした。
「誰かいますかー?」
イルアは試しに地下で誰かいないか声を出してみた。
すると、微かに声が聞こえる。弱弱しい声だ。
「あなた達、どうしたの?」
牢屋に入っていた一人の女性がイルアたちに気づき、声をかけた。
来ている服は泥や煤がついている。
「えっと……どうしたんですか?」
恐る恐るイルアはその女性に何があったか聞いてみた。
「街の人、全員この牢屋に閉じ込められたのよ……」
その女性の言葉を聞いたサイグは頷きながら腕を組んでいた。
「なるほどな……鍵は地下牢の奥にあるようだし、ここはエーレとラティーに頼む」
「ちょ、ちょっと兄さん!? なんで私たちなんですかー?」
「仕方がないだろ。このまま放っておくわけにも行かないし、非戦闘員のエーレとラティ
ーに任せて、俺とイルアが上の階に行けば、丁度いいじゃないか」
「そ、そうだけど」
「んじゃ、あとはまかせた」
サイグはイルアの手を取ると、そのまま地下から階段を登って出て行った。
「しょうがない……じゃ、ラティー手伝ってね」
「はいですのー!」
残されたエーレは地下牢の奥から鍵を取り、全ての牢屋を開けて街の住民を全員助けた。




続く……

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