第V]U話 『強い意志と決断』
「なんなんだ、これは……魔物ばかりだと!?」
レンは第三大陸ルスツェンブルガの王都、ルアシュレルグの街の光景を見て驚いていた。
その光景は、まるで地獄を見ているようだった。
人の気配は全くなく、ただ魔物ばかりがうじゃうじゃとたむろしていた。
非戦闘員のラティーは不安になりながらも、辺りを見渡しながらイルアに聞いた。
「王都まで、この魔物たちを相手しなきゃいけないんですの……?」
「なんとか戦わずに城に行きたいけど……」
連結型双剣を構えたサイグは、真剣な表情でみんなの前に立った。
「それは無理だって……絶対何回かは戦わなきゃいけない」
「いいや、その心配は無用だ」
フードを翻し、鞘から剣を取り出したレンは一人、その魔物の中に向かって歩き出した。
それを見たイルアも曲刀の柄を手に取ったが、すぐにそれを感じ取り振り返ったレンに睨
まれてしまった。
「もしかして、レンさんだけて戦うつもり?」
エーレの一言に、レンは頷き目を閉じた。
「俺が敵の注意を引き寄せているすきに、お前らは魔物たちがいない道を走って城へ向か
え。そうすれば、戦わずに澄むだろう? ……なに、俺のことは気にするな。俺にだって
やることがあるからな」
「やること?」
少し離れたレンにイルアは聞き返した。
「この事件の元凶――隕石を撃破しにいく」
その一言を残すと、レンは剣を構えてそのまま魔物がいる所へと走っていった。
イルアは遠のいていくレンに手を伸ばして叫んだ。
「レンッ!!」
そんなイルアの手をエーレは掴み振り向かせて、真剣な眼差しで見つめた。
何かを目で物語るかのように。
「イルアちゃん、ここは城へ向かいましょ」
「だけど――」
「私たちには、私たちのやるべきことがあるの、きっと」
「そう、だね……」
納得したのか、イルアは俯きながらも頷いた。
ただ、レンがいないのが不安だった。それだけだった。
「おい、二人とも!!」
サイグとラティーがどこかに開いている道がないか確認をしていた。
レンの作戦が聞いたのか、先ほどよりは魔物が減っている気がする。
本当は、魔物が一部に集まってきているのだが……
「こっちに魔物がいない道があるですのー!」
ラティーの呼びかけに、イルアとエーレはその方向へと走っていった。
「はぁっ!! でいやぁっ!!」
レンはただ剣を振って、魔物を我武者羅に倒し続けていた。
指では数えられないほどの数を相手にするには、真面目に戦っていられないのだろう。
「くっ、早くイルアたちが城へ行ってくれないと……とうっ!!」
襲い掛かってきたゴブリン系の魔物を剣でなぎ払い、再び剣を構える。
段々体力を消耗しているせいか、息も荒くなってきた。
「体力が持たん――舜光迅!!」
五体もの魔物を閃光で貫き、一気に倒した。
『レンさん、やりましょう』
「マイ、お前の力借りるぞ!」
剣を構えると、ポケットから黒い光が漏れ出した。
『――闇の力を、あなたに……――』
黒い炎が剣を多い尽くし、辺りが黒い光に覆われた。
「奥義、漆黒滅牙斬ッ!!」
周囲の魔物をいっぺんに、黒い炎で焼き尽くした。
この攻撃だけで、二十匹ぐらいの魔物は死んだだろう。
『レンさん……ミリアさんの反応、城に行きました』
「ということは、イルアたちは無事に侵入出来たということか……さて、俺たちはフォー
グライクスへと戻るか」
『そうですね……』
返って来た返事はどこか寂しそうな虚しい少女の声だった。
すぐにレンはルアシュレルグから脱出し、フォーグライクスに乗り込んだ。
ハッチをあけて入り込むと、すぐにシートに腰を下ろした。
「ルディフ、例のクレーターを知っているか?」
操縦のために、前を向きながらルディフは返事を返した。
「ええ、もちろん知ってるよ――それがどうしたんだい?」
「そこの上空まで頼む……あれを破壊したい」
「そんな無茶な!! 」
すぐレンの方をルディフは向いた。それと同時にフォーグライクスのエンジンがかかる。
少しの沈黙。エンジン音だけが、辺りに響いていた。
レンはただじっと真剣な眼差しでルディフを見ていた。
「頼む。これは俺じゃないとできないことだ」
その一言を聞いたルディフは、ため息をつきながら再び前を向いた。
「……ふぅ、わかりましたよ。急ぎますから、ちゃんとシートベルトを締めておいてくだ
さいね!」
そしてフォーグライクスが動き出した。
「おい、マイ」
ポケットから少し欠けた、黒い宝石を手に取った。
ルディフに聞かれないかと思ったけれど、多分エンジン音が結構大きいのでさほど大声を
出さなかったら聞こえないだろう。
『なんですか……?』
「どうやって破壊するんだ? 前に言っていただろう。破壊する方法がある、と」
少し前の話になるが、確かにそんな会話をしていた。
それは隕石が落下してすぐのことだった。
『はい……私の心と引き換えにすれば、確かに破壊は出来ます』
「マイの、心……だと?」
『私の闇の心を開放すれば、一瞬ですがとてつもなく恐ろしいほどの破壊力が生まれます。
それを利用すれば、レンさんは近づいても魔物にはならずに隕石を破壊することができる
んです』
「だが、マイは――」
『そうですね……体を失っても大丈夫ですが、心を失ったら、今度こそ私は消えてしまい
ます』
グラディームで、肉体を失った彼女。
ドールとして、生きてきた彼女。
そんな彼女が今、少しずつ決意を固めていた。
「だったら、そんなことするな」
『いいえ。しないと、いけないんです』
少し何かを躊躇いつつ、マイは話している。
『本当は存在してはいけない。ドールは、人に不幸をもたらす存在だから……せめて、私
の心が人のためになるのなら、私はそんな終わりかたでも、いいって思っているんです』
今度は、しっかりとした声で話した。
そんな彼女の本心を聞いたレンは少しの間黙りこくってしまった。
続く……
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