第V]T話 『決意と共に』
雷轟石を持ち帰り、一晩が経った。
ルディフ意外の人たちはゆっくりと休息をし、寝室で眠った。
朝早くに彼らはおきて、すぐにルディフの元へ向かった。
「よし……これでフォーグライクスは操縦可能だ」
黒と黄色でカラーリングされた飛行船の下の動力部分に、ルディフは雷轟石を設置した。
これが最後の作業だ。
「さてと……まず試験運転をしたいんだけど、君達はどこに行きたいんだっけ?」
先ほどの作業を終始みていたイルア達にルディフは問いかけた。
みんなの代表として、イルアが代わりに答える。
「えっと、それなんですけど第三大陸の王都に行きたいんです」
「それくらい可能だろう? 俺たちは急いでいて、船も使えない。だからこの飛行船を頼
りしてルディフ博士のところへ来たんだ」
腕を組んでじっとルディフを睨みつけながらレンはそう言った。
すると、彼は嫌な顔一つしないで笑いながら頷いた。
「もちろん! 早く行きたいんだろう? それなら早く乗った乗った!」
なんだか、早くイルア達を送りたいという気持ちより早くフォーグライクスを操縦したい
という気持ちがあらわになっていることがわかった。
ルディフは飛行船の横についているボタンを押すと、入り口が自動で開き、そしてイルア
達は彼に続いて乗り込んだ。
「へぇ〜、中は結構すごいんだな……」
フォーグライクスの中を見渡しながら、サイグはそう呟いた。
床、壁など全てが金属製のもので作られており、とてもルディフ一人で作ったとは思えな
いほどの出来だった。
「さて、さっそく飛びますか」
ルディフが操縦席に座り、他の人たちはその後ろにある座席に座った。
「あ、みなさん。ベルトがあるのでそれをつけてくださいね。つけないと吹っ飛びますの
で、気をつけてくださいねー」
なんだかとても怖いことをさらりと言いつつ忠告されたので、イルア達は全員座席につい
ているベルトを体を通してつけた。ラティーはイルアの肩の上に乗っかっている。
「どうやって飛ぶんだ?」
ふと、レンがそう言った。
イルアはなんでと行った様子で辺りを見渡してみる。
そしてフォーグライクスから見える風景を見てみると、飛ぶにも飛べない状況下にあるこ
とがわかった。
目の前にあるハッチが開いていない。
けれどルディフは構わず操縦を開始した。
エンジンがかかり飛行船全体が一瞬大きく揺れる。
少し経ち、小さい揺れが続いた。
「ちょっと! ハッチが開いてないんですけど!!」
エーレが大きい声でエンジンの音を遮るように前の操縦席にいるルディフに言った。
しかし彼は何も答えずに目の前に何もないかのように飛行船フォーグライクスを発進させ
た。全員顔が真っ青になっている。
「発進!」
「ひゃ〜! ですのー!!」
「ルディフさん、早まらないでくださいー!!」
「馬鹿かっ!!」
「死ぬのか? オレ……」
「兄さん、怖いよー!!」
ルディフの掛け声、そして彼以外の悲鳴共に動き出す。目の前のハッチを突き破り、とて
もすごい速さで外へと飛び出し上空を駆け上った。
無事、空を飛んでいることよりも飛ぶ前に死なずに済んだことに安心している。
操縦している彼だけは違っていたけれど。
レンはだらりと両腕を落としながら操縦席で鼻歌を歌いながら操縦しているルディフを睨
んだ。
「あんた、ワザとやってるだろ」
そんな言葉に気づき、ルディフはレンの方を振り向いた。
なんだかとても楽しそうな顔をしている。
「うん、なんかハッチ破って発進するの楽しそうだったからさ、やってみたかったんだよ
ね。そしたら案の定楽しかったしー」
「ふざけるな」
そんな殺気がこもったレンの言葉さえも真に受けず、まだ笑っていた。
やはりとても調子が狂う、変な性格だ。
「あはは、ごめんごめん……」
レンはため息をついて、気を取り直し外を見てみた。
雲が間近にある。とても考えられない風景がフォーグライクスから見える外にはあった。
「これが空、ですの……すごいですの〜♪」
イルアの肩に乗りながら、ラティーはにこやかに笑って外を眺めていた。
(ゲイザにも、見せてあげたいな……)
そんな望みを持っていても、出来ないことを知っている。
けれどイルアは、素直にそう思っていた。
(だから、助けなきゃいけない……多分、もう最後が近くまで迫ってきていると思う。そ
う、ミリアちゃんも言っていた――)
つい先ほど見た夢が、頭を過ぎった。
――イルアちゃんとこうして会えるのも、あと、一回……――
――次で、終わりだから。私と、ゲイザとの思い出――
彼女とゲイザの終わりは……彼の口からではないけれど、ラティーから聞いていた。
大切な人だったけど、殺さなければいけなかった。
多分、ゲイザはとても悔しかっただろう。ミリアもまた、悲しかったのだろう。
そんな悲しい、思い出を見せられるんだろうか。
――そして、私の最後……――
次で、終わり。多分……彼女の思い出も、そしてゲイザを助けるチャンスも残り僅か。
今思えば、なんでそんな思い出なんかを見せられ続けられているのかさえも、わからずに
今まで旅を続けていた。
彼女は、今何を思っているのだろう。
そう思いながら、イルアは胸にあるペンダントをそっと両手で包んでみた。
「さ、そろそろ到着だよ」
フォーグライクスの正面に見える大きい城。
少しの時間で海を越えてここまでくるとは、やはり本物だったようだ。
「城で下ろせばいいのかな? それとも入り口?」
「入り口で頼む」
「了解♪」
ルディフの鼻歌交じりで調子のいい返事が、レンに返ってきた。
レンの言葉をちゃんとわかったか不安になった一同だが、ちゃんとわかっているらしい。
いきなりフォーグライクスが下降し、地面にゆっくりと着陸した。
すぐさまハッチを空けてイルア、ラティー、サイグ、エーレは外へと出て行った。
ルディフは操縦席からベルトを外して立ち上がり、イルア達を見送っていたが、一人残っ
ていたレンに気づいた。
フォーグライクスの中に残ったレンは、ルディフに話があったのだ。
今回は少し澄まなさそうな表情でレンは彼に話した。
「すまん、少しここで待っていてくれないか?」
「ん? どうしてだい?」
「それは戻ってから話す……話はそれからだ」
目をつぶり、笑ってルディフは頷いた。
何故か、またどこか何時もと違う感じが彼から感じられた。
「わかりましたよ――まあ、この飛行船には魔物を引き寄せない鉱石も設置されてますか
ら、ボクは安全なのでいくらでも待ってますから……それじゃ、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
レンも微笑んで頷き、フードを翻してフォーグライシスの操縦室ハッチから外へと飛び出
していった。
続く……
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