第V話 『聞こえる光の声』


「破壊、させてもらう。力ずくでもだ」
「――せない」
顔を俯き、イルアは拳に力を込める。
表情は長い髪によって遮られ、よくは見えなかった。
「そんなこと、絶対にさせないっ!!」
「イルアさん……」
俯いたまま、大きな声でその男の警告を無視をする宣言。
それを聞いた男は剣を構えた。
「ならば……覚悟しろ」
「…………っ!」
イルアは両手で曲刀の柄を握り締める。力いっぱいに。
「イルアさん、がんばってくださいですの!」
「うん、ありがと、ラティー」
微笑んでラティーを見て、再び男のほうを見た。
しかし先手必勝とも言うが、両者とも動こうという気配はまったく感じ取れない。
(何……この圧迫感。何か強いプレッシャー……)
「どうした、来ないのか?」
剣を構えた男が言う。
その構えには隙がなく、とても不意に向かっていったって切り刻まれる。
そんな想像までさせるような気を放っていた。
「……………」
「ほう、じゃあ俺から行かせてもらう」
男は構えを保ったまま、早い走りでイルアに向かってくる。
イルアも剣を構え、斬りつけるのか、それとも防ぐのか考えていた。
(このまま防がなきゃ、死んじゃう!)
剣を握る力はまた一段と強くなった。
手のひらには汗が。緊張のためだろうか。
「はぁぁっ!」
「うぐぅっ!」
男の剣の攻撃をイルアは剣で何とか弾いたが慣れていないためかこっちが弾かれた。
やはり力量が違っていた。
よろけたイルアは一旦距離を取ろうと男から離れようとしたとき――
「剛臥撃っ!!」
男の拳が飛んできた。
イルアは拳には当たらなかったが衝撃波に吹き飛ばされてしまった。
「うぅっ……」
少々体が痛んだが、寝てもいられないので剣を地面に突き刺し、ゆっくりとそれを支えに
して起き上がった。
「わ、私はまだ――」
「……………」
立ち上がる姿を、男はただじっと見ていた。
本当ならば、隙だらけなのですぐにでもイルアを殺し、ペンダントも破壊できた。
「なんで、ペンダントを預けたのか、聞いてない、から……それに」
今にも倒れそうだ。しかし、立ち上がると地面から剣を抜き、再び構えた。
「ゲイザの大切なもの、だから……壊したくないし、壊させたくもない」
その言葉をイルアは放ち、それを受け止めた男は剣を鞘に収めた。
なぜかはわからないけれど、もう戦う意思はないようだ。
「そのペンダントには、強い意志を感じる……誰だ、お前は」
イルアに近づき、男はそのペンダントに語り始めた。
当然、なんのことだかイルアやラティーにはわからない。
「そう、か……俺の名前はレン。レン=ディグファズだ」
いきなり男は名乗り始めた。
レンと名乗った男は、少し経ってからイルアとラティーを睨み付けるように
―というか睨んでいるように見える―して聞いた。
「お前たちの名は?」
「……私はイルア」
「ラティー、ですの」
二人の名前を聞き終えると目を閉じて背を向けた。
そして、イルアに向かって何かを投げた。
「ぅあ、っとっと」
落としそうになったが、よくわからないそれをイルアは受け取った。
手のひらにあったのは、つい最近まで自分が戦いで使っていた、大切な人の大切なものだった。
「あ……レン――さん。なんで、あなたがこれを?」
「……拾ったんだ。まあ、いずれにせよお前たちにとって必要不可欠になってくるだろう。
その『小刀』はな」
よくわからない。というか、イルアもラティーも状況を把握出来ていない。
さっきまでペンダントを破壊するといって戦いをしかけてきたのに、いきなり戦いをやめて、終いには
名前を名乗りゲイザの持っていた小刀をイルアに渡したのだ。
何がしたいのかわからない、というのも半分あるだろう。
「じゃあ、またな」
レンは背を向けたままそういうと、ゆっくり重い足取りで歩き始めた。
「またな――っていうことは、また会う、ってことですの?」
「わからないけど、うん……そうだと思う」
手の平にある、小刀を見た。確かにゲイザの持っていた小刀に違いない。
あのとき、戦う術がなかった自分に貸してくれたゲイザの小刀。
なぜレンと名乗った男が持っていたかは、わからない。
(また会えたら、聞こう――)
見えなくなったレンの後姿を見送るように遠くを見て、イルアは思った。


(ミリア=ビリアムズ――彼女は確かにそういっていた)
イルアとラティーから離れてから先ほどのことを思い出していた。
(ペンダントから聞こえた、あの声……なぜペンダントから、声が)
レンはさっきの戦闘を思い出していた。

「剛臥撃っ!!」
レンは後ろへ退こうとしている女に向かって拳を突き出した。
そして女は拳には当たらなかったが衝撃波に吹き飛ばされてしまった。
「うぅっ……」
少々本気になりすぎたかと思うが、ペンダントを破壊するためには仕方がない。
元々レンには女を攻撃する趣味はない。どちらかというとしたくない方だ。
「わ、私はまだ――」
『――を――つけな――で』
どこからか、目の前にいる女とは別の人の声が聞こえる。
それがすぐどこから来ている声なのかわかった。
ペンダント――そう。ペンダントから声がする。
「なんで、ペンダントを預けたのか、聞いてない、から……それに」
『お――彼女を傷――いで』
「ゲイザの大切なもの、だから……壊したくないし、壊させたくもない」
『お願い。彼女を傷付けないで』
聞こえた。ペンダントから、確かに。
真意を確かめるため、レンは片手に持っている剣を腰の鞘に収めて、
「そのペンダントには、強い意志を感じる……誰だ、お前は」
そのペンダントに近づき、レンはその声の主の名を聞いた。
『ミリア。ミリア・ビリアムズ……』
どこか悲しそうな少女の声だった。
そしてレンも自分の名を名乗った……
「そう、か……俺の名前はレン。レン・ディグファズだ」
『その小刀を、その子にあげて。イルアちゃんにあげてください……』
小刀。腰にある小刀のことだろう。
少し前にとある人と戦ったとき落として逃げていった。そしてこの小刀を拾った。
そしてレンはイルアに名を聞き、その小刀を渡して別れを言った。
だけれど、レン本人はわかっていた。またどこかで会うだろう、と。

「ミリア=ビリアムズ……なんなんだ、あんたは」


続く……

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