第U][話 『フォーグライクス』


「港、封鎖されちゃってるですの〜」
イルア達は南港町ルージェルに来ていた。
「こんなときに限って、港が封鎖されてるなんて……」
イルアはため息をついて辺りを見回してみた。すると、港には船が一隻もないのだ。
目を瞑り腕を組みながらレンは推測をしてみた。
街は結構荒れている。それも、無残に木材などがバラバラになって使い物にならなくなっ
ている。もしかしたら、とレンは思った。
「やつらがここに攻め込んできていたんだろう。ダッシェルやスェルダンルの時と同じよう
に、魔物を使って港を荒らしたんだろう。その証拠に船が一隻もないだろう? 第二大陸
の軍や俺達の足止めには持って来いの戦法だ。何せやつらは上級魔法、テレポートを平気
な顔をして使用しているからな……」
まさに、つけどころのない推測だ。
イルアやサイグ、ラティにエーレも納得のいく内容だった。
「じゃ、これからどうするの?」
エーレの一言で、みんな考え始めた。
海路を取られた今、もう第三大陸に行く手段はなくなっている。
陸路にしろ空路にしろ、無理なものは無理だ。
「あ、もしかしたらここから北西にある科学の街、ランジェラに空船を作っている研究者
がいるって噂を聞いたことがあるぞ」
サイグは街で耳にした噂をいってみると、レンが意外にも反応していた。
「それだ! 行ってみるしかないだろう」
「う、うん、そだね」
そしてイルア達は北西にある科学の街ランジェラを目指した。


科学の街ランジェラ。
そこにはとても普通の街じゃ見かけない魔法機械などが置いてあった。
映像が映る機械、音楽が流れる機械と普段見かける魔法機械とは進化している物ばかり。
「すごいですの〜……」
「ここが、ランジェラ……」
その光景に見とれていたのはレン意外の全員だった。
そしてレンが咳払いをすると、全員我に返った。
「さっさとその空船を作っている人の所に行くぞ……サイグ、誰かわかるか?」
「えっと、確か……ルディフ=ファオって名前だった気がする。この街で一番広い土地を
持っていて、その土地で行っているから歩いていればすぐにわかると思うよ」
「そうか。それじゃ、行くぞ」
何故かレンが先頭に、イルア達は歩き出した。


とてもわかりやすいところに、ルディフ=ファオの家があった。
家は大して大きくないのだが、その横にある研究室がとても大きい。ルアグ博士の研究室
よりも三倍以上の大きさがある。
「研究室って、こんなに大きいんだね」
イルアはそれを見てそう呟いた。するとラティーは何故か怒って、イルアに言い返した。
「ルアグ博士は科学専門じゃなくて、魔法や精霊とか、そっちの方面だからしょうがない
ですの!」
「う、うん……そ、そうだね」
ルアグ博士の研究室のことなんて一言も言っていないのに、そんなことを言われたイルア
はどう対応して見ればいいかわからなかった。
「あら、お客さんかなー?」
イルア達の後ろから、突然声がした。
「こんにちは〜」
とても穏やかそうな白くて少し汚れている白衣を着た男の人が立っていた。


「ささ、中に入りなよ」
男の人が丁寧に研究室の中に入れてくれた。
イルア達は成すがままに、とりあえずその男の人に従っていた。
「あの、あなたは?」
恐る恐るイルアはその男の人に聞いてみた。多分、そうだとは思うけれど名前も聞いてい
ないのに突然歓迎されて研究室に入れられても困る。
「あ、ボクはルディフ=ファオ。君達、なんでボクの研究室も前に立っていたんだい?」
それは入れてから聞くことじゃないだろう、と全員つっこみたくなったけれど、それを堪
えてルディフの質問に答えることにした。
「ルディフさんが今研究している空船を貸してもらいたいんです」
「ああ、フォーグライクスのことか」
そういってルディフはイルアの言葉を理解したのか手のひらに握りこぶしをポンッと叩い
て笑った。やはり意味不明な人だ。
「ふぉーぐらいくす、ってなんですの?」
ラティーがルディフに質問したとたん、彼はラティーを手にとって見た。
「これはホムンクルスかい!? 実物を見るのは初めてだ!!」
「ちょ、ちょっと! 離してくださいですのー!!」
「とても可愛く作ってある……しかも神話などに出てくる妖精の形……すごい!」
「やめるですの!! セクハラですのー!!!」
止めないとヤバイ。
それを見ていた全員がそう思ったとき、ルディフの手からラティーがするりと抜け出して
宙に飛び上がったと思うと、小さい足が彼の頭を直撃した。
ラティーの蹴りだ。
「久しぶりの蹴り、ですの」
過去を振り返ってみると、タクスに一回、それ以降は蹴りを行っていなかった。
「いてて……ごめんごめん、ちょっと興奮しすぎたよ」
((興奮しすぎだろ!!))
心のツッコミが、再び全員の心の中で行われた。
とりあえずルディフと話していると切が無いことだけはわかる。
「フォーグライクスってのは、ボクの開発している飛行船のことさ。あ、それに君達、空
船っていうほど大きくないからね。見せてあげるよ、ついて来て」
イルア達はルディフの言うとおりについていってみた。
研究所を入って、次の部屋にその飛行船はあった。
「どうだ、これがフォーグライクスだ!」
鳥のようなフォルム、そして黒と黄色のカラーリングで仕上がっている。
今にも飛べそうな感じだ。
「これは完成しているのか?」
疑問に思ったレンは、フォーグライシスを撫でているルディフに聞いてみた。
「うん、まあ、一応完成して飛べることには飛べるんだけど」
「「だけど?」」
全員の言葉が返ってきて、ルディフは少し驚いていたが、咳払いをしてフォーグライクス
を見上げてみた。
「エンジンが不完全なんだ。エネルギーとなる鉱石で、適当なものがないんだよ」
「それがあればこいつは飛べるのか?」
「うん、まあね……君達、ちょっと取ってきてくれないかな? 雷轟石って石なんだけど、
ここから東にある雷の遺跡にあるんだ。もちろん、完成したら君達にこのフォーグライク
スをあげるよ。欲しいのは研究のデータだけだからね」
レンはそれを聞くと少し考えてみた。
雷の遺跡にいき、雷轟石を取ってくれば乗せてくれるというのだ。
「わかった。取ってこよう……」
「あ、それと……お二人借りていいかな? フォーグライクスの最終点検、一人でや
ったら三日かかるから、助手が欲しいんだよ」
「なら、俺とイルアが雷の遺跡にいく。サイグとエーレはここに残って一緒に助手をやっ
ててくれ」
それを聞いたサイグとエーレは頷いた。
「それじゃ、さっそく手伝ってもらいましょうかね。そちらにある白衣を着てください」
一方イルア、レン、ラティーは研究室を出て雷轟石を取りに向かっていた。


続く……

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