第U]Y話 『微かな光の記憶』
イルア達はルディアとゲイザ、そしてルミィーを退けたあと、サイグがいきなり飛び出し
て行った為に、イルアやレンもそれについて行くことにした。
サイグを見失わないように追いかけた結果、民家街に入ってすぐに追いつけた。
すぐにラティーがサイグの横へと飛び、行き先を聞いた。
「あの〜、どこに行くんですの」
「エーレのところに行くんだ! なんだか、ヤバイ気がする」
「エーレって、妹さんでしたっけ?」
「ああ、そうだ!」
そんな話をしているうちに、目の前にサイグの家が現れた。
「この中だ!」
サイグは思いっきりドアに体当たりをし中に入ってみると、案の定そこには数人の兵が入
り込んでしゃがみ込んでいる少女へと襲い掛かろうとしていた。
「エーレ!」
その兄の声に気づいたエーレはサイグ達の方を振り返った。
「兄さん、助けて!!」
それを聞いたサイグは武器を構えてすぐにエーレに襲い掛かろうとしていた兵へと攻撃を
しかけた。
イルアやレンもそれに加勢し、家の中にいる兵全員を倒した。
エーレは立ち上がると服に付いた汚れを払いながら立ち上がった。
そして頬を膨らませながらサイグを睨んだ。それに気づいたサイグはとてもすまなそうに
声をかけてみた。
「大丈夫か、エーレ」
その一言にエーレはわざとっぽくサイグとは目を合わせないようにそっぽを向き、腕を組
んで見せた。
「兄さんったら、鍵を持っていくんですもの……本当に困ったものね」
「ご、ごめん……」
頭を下げてサイグは素直に謝った。
するとエーレは悪戯っぽい笑顔で笑った。
「ふふっ、いいわよ。ちゃんと助けに来てくれたしね……――ところで、兄さん。後ろに
いる人たちは?」
「ああ、あの人達は――」
サイグが紹介しようとした矢先、いきなりイルアが床に倒れた。
「イルアさん!? 一体、どうしたんですの!?」
ラティーがイルアの近くまで飛んで近づいてみたけど、反応は得られなかった。
「騒ぐな。眠っただけだ……サイグ、どこか寝かせる場所はないか?」
「あぁ、奥の部屋にベッドがある。オレも運ぶの手伝うよ」
眠りについたイルアは、再び夢を見ていた。
また、ミリアという少女の意思で見せれられている夢だ。
彼女の思い出が、最初に見せられる……
辺りは真っ暗な夜。
その場所には人の影はまったくなく、ベンチに腰を下ろしているゲイザしかいなかった。
涼しそうな風が、ゲイザの髪をなびかせる。
すると突然ベンチの後ろから黄色い髪の少女が現れた。
「ゲイザ、どうしたの? こんなところで」
ゲイザは後ろを振り向くとミリアが立っていたことに気づいた。
そして再び何事も無かったかのように前を向いて俯いた。
「ねぇ、隣、座ってもいい?」
「あぁ」
ゲイザがそう言うとミリアはゲイザの隣に座った。
「前も、一緒に座ってお話したね……」
「そうだな」
多分、前回夢で見せられたときの光景にもあった気がする。
川の流れる街のベンチで、ゲイザとミリアが話している記憶。
「ねえ、ゲイザ。なんでスレイドさんが頼んできた件、断ろうとしたの?」
「当たり前だろう。敵の中へ突っ込んで敵大将を討てって……それでなくても狙われてる
かもしれないんだぞ? ミリアは不安じゃないのか?」
するとなぜかミリアはくすくすと笑ってゲイザの方を見た。
「そんなの、不安じゃない方がおかしいよ。でもね、マイちゃんも私も……ゲイザがちゃ
んと守ってくれるって、信じてたから」
そういってゲイザに向けられたミリアの笑顔は、とても優しくて温かいものだった。
一方ゲイザは暗い顔をして俯いたままだ。
「しかし、俺は――現に守りきれてない」
ゲイザはため息をついた。しかしミリアは首を横に振った。
「いや、それは違うよ。ちゃんと守ってくれてるよ……光の精霊さんと戦ったときも、ち
ゃんと守ってくれたし……それにね」
そう言いかけて、ミリアは暗い空に広がる無数の星をみた。
綺麗な星が、暗い夜空のあちこちにばら撒かれている。
「どんな形であっても、ゲイザとの思い出、作っておきたいの。それが戦いでも、悲しい
ことだったとしてもできるだけ多く、ゲイザと一緒にいる思い出を」
イルアはそれを見て、痛感した。
前の自分と同じように、死ぬ運命を背負った少女。
だから、一分一秒でも、大切な人の傍にいたい気持ち。痛いほどわかる。
「ミリア……」
「なんだか、変なこといっちゃったね。大丈夫――私は、ずっとゲイザのそばにいたいだ
けだから……ね」
ゲイザはミリアを抱きしめた。
何も言わないで、そのまま力強く……
「守る。何があっても――俺も、ミリアとずっと傍にいたいから……」
「ありがとう、ゲイザ……何もない私に、守ってくれるっていって……それに、人じゃな
い私に」
「関係ない。人とか、ドールとか……俺はミリアが好きだから」
「ゲイザ――私、私っ……!!」
ゲイザに抱きついているミリアの瞳から涙が溢れ出しそうになっていた。
今にも泣き出しそうな、そんな感じだ。
「もういい。今まで溜めていた分まで、泣け……泣きたいときに泣かないと、笑いたいと
きに笑えないから――そのかわり、俺が泣き終わるまで傍にいてやるから……」
多分、イルアにはわかっていた。
ミリアという少女が、どれだけ辛い運命に踊らされて来たか。
その悲しみをミリアは溜め込んでいたろう、とイルアは思った。
暗い夜、無数の光る星の下、黄色い髪の少女は泣いていた。
ミリアのゲイザとの思い出が消え、そして目の前にはミリアが現れた。
目を閉じたまま、少しだけ微笑んでいる。
『優しい星空の下で、泣いたあの日……私はわかっていたの』
「……死ぬことを?」
イルアの言葉にミリアは頷いて、今度は微笑んだ。
『うん。きっと、私は、そろそろ死ぬ運命にあるんだろうなって思ってた。案の定、そう
だったんだけどね……それでも、よかった。ゲイザという人に会えただけで、よかった』
「わかるよ……私もそうだったから」
イルアも微笑み返してみせた。作った微笑みじゃなくて、自然な微笑みでなぜか返すこと
が出来た。しかしイルアはそれを不思議には思わなかった。
「でも、あなたはなんでここにいるの? ゲイザに、殺されたんじゃないの?」
『うん、自分でも、なんでここにいるんだろう、ってつくづく思う。あれで最後だったと
思ったけど……私にはまだやらなきゃいけないことがあるみたいだね』
「やるべきこと?」
『それは、さすがの私でもわからないよ……でも、ゲイザを助けることかもしれない』
その言葉を口にしたとき、ミリアはもう微笑んではいなかった。
真剣な顔で、イルアを見つめていた。
『イルアちゃん、あと二回……最後の一回までに、覚悟しておかないと駄目だよ』
「でも――」
はっきり言って、正直どうすればいいかわからない。そんな気持ちだった。
助けるにせよ、力ずくで助けるのか、それとも他の方法で助けるのか……
『大丈夫、イルアちゃん。あなたは、誰よりもゲイザのことを想ってる……それは必ず闇
のゲイザの心に伝わるはずだよ――』
その言葉と共に、辺りは白い光に飲み込まれた……
続く……
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