第U]W話 『罪のない者』


「こ、これはどういうことだ!?」
レンは目の前にある光景を見てそう言った。
イルアとラティーも口には出さないが、その光景に絶句している。
王都スェルダンル。イルア達は凍結洞窟から出てこの場所に来たが、前回来たときとは
全く違う街と思えるくらいの有様だった。
目の前で繰り広げられていたのはクォルピア兵とルスツェンブルガ兵の争いだった。
それに魔物までもが街に侵入して人々を襲っている。
そのため家や壁などが破壊され、前まであった活気でさえなくなっていたのだ。
「ど、どうするですの?」
周りの光景を見て焦っているラティーはイルアに聞いた。
そのままイルアは曲刀を抜き取り、そして曲刀を構えた。
「見て見ぬふりなんて、できないもの――やっぱり戦うしかないでしょ」
続いてレンも剣を構えた。
どうやらイルアの意見に同意したようだ。
「そうだな……街に侵入している魔物や兵を倒すんだ。それに前回同様、王の命も危うい
……街の敵をある程度殲滅したら城へ向かうぞ!」
数十匹の魔物と兵達。これはやはり何者かによって行われていることだった。
また必ず、ゲイザ――グライアが関係しているはずだ。そう思ったイルアはそのことを確
かめるため、戦うことにしたのだ。
イルア達はクォルピア兵がいない民家街へと急いだ。


民家街の中心で戦っている戦士が一人、数匹の魔物と数人の兵士に囲まれていた。
ガーゴイルがその戦士を目掛けて体当たりを仕掛ける。
「でぇぇぇいっ!!」
連結型双剣を振り回し、ガーゴイルを切り裂くとそのまま消滅して消えていった。
先ほどからこのように戦っているが、一向に敵は減らず、とてもじゃないが一人では相手
にしていられない数だった。
「なんだよ、なんなんだよ、あんた等はっ!!?」
そのどうにもならない叫びを聞いたイルア、ラティー、レンはその場所へと駆けつけた。
「な、何、この数! しかも一人で戦って――って、あなたは」
「げ、あんたら、なんでここに!?」
その姿は元ディメガスの四天王だった一人、サイグ=グラディムだった。
彼は一人で民家街の敵と戦っていたのだ。
「お前、これほどの数の敵を一人で倒せると思うのか?」
確かにレンの言うことは正しい。この数を一人で倒すのは余程の強い者でなければ勝てっ
こない。しかし、戦わなければもっと被害が増える。
「武器構えたまま来たんならさっさとあんた等も手伝えよっ!!」
「そのつもりだ――イルア、やるぞ」
「う、うんっ!」
レンはそうイルアに言うと二人とも武器を構え直し、目の前にいる敵にいつでも攻撃を仕
掛けられる準備をした。
そんな会話をしているうちに、魔物と兵はもっともっと集まってきた。
「一気に片付けるぜ!!」
サイグとレンは一斉に敵に斬りかかった。
そのとき、敵兵に攻撃をしかけたレンはある異変に気づいた。
「この兵、人の正気を保っていない……まるで魔物だ!」
よく見てみると目が人の目をしていない。殺気に満ちている魔物のような目だった。
その殺気から邪気を感じ取とったのでレンはその異変に気づけた。
やはり、普通じゃありえないことになっている。
「これじゃ、とても人手が足りない! やっぱりここは力を借りるしかない……」
イルアは小刀を取り出すと、目を閉じて小刀を前に突き出した。
「――我が契約の元、具現せよ……シルフィーラ、セルグラム!!」
イルアの下に黄緑と青の魔方陣が表れ、その上に光が二つ集まると、そこには黄緑色の短
髪で弓を持った少女と青色の髪をした槍をもった女性が現れた。
『呼んだー? イルアお姉ちゃん!』
『どうやら力を貸して欲しいようだな……助太刀する。命令をしてくれ』
「家や人に攻撃をしないで魔物と敵兵をピンポイントで狙っていって! お願いね!」
それを聞いた精霊二人は
『御意!』
『りょーかーい!』
と返事を返し、シルフィーラは宙に飛び、セルグラムはレンやサイグと同じように敵に突
っ込んで行った。
精霊を二体も具現召還してしまったせいか、イルアは少し体にダルさを感じたが、そうも
言っていられない。何だか嫌な胸騒ぎしかしないからだ。
イルアは曲刀を再び構えると敵の大群の中へと身を投げた。

「豪衝破滅斬!!」
「ディメイション・クロス!!」
レンとサイグの技の掛け声と共に敵へと攻撃が繰り出される。
敵は努力のためか、残りは指で数えられる程度になっていた。
『風よ! 疾風ー!!』
シルフィーラの声だ。上空から疾風のように風を纏った矢が魔物を貫いた。
『いいかげんにっ! 氷牙、裂牙閃ッ!!」
セルグラムの槍の一閃により、一気に三匹の敵兵を貫いた。
「これで、終わりぃっ!」
イルアの曲刀による一撃が魔物に当たると見事に真っ二つになり、消滅して消えてしまっ
た。
さっきのイルアの攻撃で民家街の敵は全滅した。
シルフィーラやセルグラムのおかげでとても早く敵を殲滅することが出来たかもしれない。
「ありがとう……シルフィーラ、セルグラム。もういいよ」
『それじゃーねー』
『また呼んでくれ』
再び二人は光に包まれて消えていった。その光景を見たサイグはとても不思議に思った。
「なぜ人が宙を浮かんだり光に包まれて現れたり消えたりするんだ?」
「彼らは精霊だからな」
イルアの代わりにレンが鞘に剣を収めながらそう答えた。
「精霊? なんだそりゃ」
「精霊は世界の理を支えるためにいるんですの」
戦闘の邪魔にならないようにと影に隠れていたラティーがいきなり現れて精霊について話
始めた。
正直みんな戦いに夢中になっていたためか、ラティーの存在など気づいていなかった。
「レン。敵も倒し終わったことだし、早く城へ行きましょ。嫌な予感がするの――」
「そうだな。俺も嫌な予感しかしない……行くか」
イルア達が城のほうへと向かおうとしたとき、
「待ってくれ」
とサイグの飛びとめる声が聞こえた。
「オレも連れて行ってくれ」
「なぜだ?」
レンはサイグの方を振り返った。
「何が起こっているか確かめたい。なんでこんなに魔物が沢山現れているのか、大勢の敵
が攻めてきているのか知りたい。それに、戦力は多い方が戦うとき有利だろ?」
「――ということだが……イルア、ラティー。どうする? 俺は構わないんだが」
再びイルアとラティーの方を振り返ってレンは言った。
返答は思ったよりすぐに帰ってきた。
「OKですの! 問題ないですのー!」
「そうだね、断る理由も特に無いし、私も構わないよ」
サイグはその返事を聞くとレンやイルア達の元へと走っていった。
「早く行くんだろう? さ、行こう」
イルア達は嫌な予感を抱きながら、サイグを引き連れて城へと向かった……


続く……

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