第U]T話 『変わらない危機』
イルア達は船で第二大陸クォルピアから第一大陸セルディーアにつくと港町をすぐに出て
歩きなれてしまった道を再び歩いてルアグ博士のもとへと向かっていた。
山道の中、雪を踏みしめながら歩いていた。
「まったく、お前達も行ったり来たり大変だな」
まるで人事のようにレンはイルアとラティーに歩きながらそう言った。
これで旅に出ると宣言してからルアグ博士の研究所に戻るのは三回目となる。
多分、大分の時間を無駄に消費してしまっているように感じる。
「でも、ルアグ博士なら何か知ってるかもしれないし……私達だけじゃわからないことだ
ってあるんじゃない?」
「そうですの! ルアグ博士は不思議なくらい何でも知ってるから困ったときにはルアグ
博士に聞くのが一番ですの!」
「しかしな……」
ため息をついたレンは立ち止まりイルアとラティーの方へと向いた。
「人に頼りすぎるというのも、どうかと思うけどな……まるで自分の力だけで物事を解決
しようと思っていないように聞こえる。違うか?」
「……………」
ふいに、とても正しい正論を言われたためかイルアは黙り込んでしまった。
とても言い返す言葉が見当たらず、そしてそれを当たり前のようにそうして来た自分が馬
鹿馬鹿しく思えてくる。
「ちょっと、それは言いすぎですの!」
イルアを庇うようにラティーが目の前に出てレンを睨みつけた。
「イルアさんや私だってそんなにわかるわけじゃないですの。それでなくても、この旅は
辛いのに誰かに頼るなって言う方がおかしいですの!」
「いいよ、ラティー……」
それを聞いたレンは詰まらなさそうな顔をして再び歩き始めた。
ラティーはイルアにかける言葉を頭の中で捜していたけれど、結局は見つからなかった。
なんて声をかければいいかわからなくなってしまったのだ。
その場に立ち尽くしたイルアに、ラティーは早く行こうといい、その場は丸く収まった。
レスコォールに到着すると、すぐにイルア達はルアグ博士の研究所へと向かった。
いつもの通り、ルアグ博士は普通に受け入れてくれた。
「お主ら、また戻って来おったのか」
「すみませんですの、ルアグ博士。ちょっと聞きたいことがあって来たですの」
「戦争のことじゃな」
勘で当てているのか、それとも人の心が読めるのかというくらい不気味だった。
多分、ルアグ博士にはわかりきったことだったのだろう。
「ちょっと、あれは一枚噛んでおるのぉ……」
「??? どういうことですの?」
「娘っ子が言いおったあの『世界の危機』じゃの」
「やはりな」
壁に背中をつけて両腕を組んでいたレンがいきなり喋りだした。
そして再びルアグ博士が説明を始める。
「ワシの予想なんじゃが……その世界の危機と今回の戦争は同一人物が引き起こしている
ものと考えてよいと思うのじゃ」
「でも、第三大陸と第二大陸の戦争なのに、それとなんの関係があるんですの?」
「第三大陸が戦いをしかけてきたわけじゃない。多分、その者が今、第三大陸を占拠して
乗っ取っておるのじゃろうな。あの隕石も同じ者の仕業じゃ。何かしらの目的があるんじ
ゃろうがのぉ……」
隕石、戦争――これで謎が解けた。あくまでルアグ博士の予想だが、大体あっているかも
しれない。
「もう一つの世界、グラディームに被害がなければよいのじゃがな……娘っ子、お主に
言いたいことがあるんじゃ」
いきなり呼ばれたので、イルアは少し遅れた反応をしてルアグ博士の方を振り向いた。
さっきまで言われたことを頭の中で整理していたのだろう。
「なんですか?」
「戦争のことまで背負い込もうとしとらんじゃろうな?」
図星をつかれてイルアは少し戸惑いながらも俯いてしまった。
「背負い込んでも構わん。しかしの、そのなかでも世界の危機は迫っておるんじゃ、それ
を忘れるな。それに今回の戦争のことは少し背負い込んだ方が得策だと思うぞい」
「はい」
イルアはそれを言われて、今やるべきことを思い出した。
精霊を集めて、そして戦争と隕石落下の原因を調べる。
ゲイザのことは後回しになるけれど、それは仕方がないことだ。
「そうと決まればあれじゃな、精霊を探すんじゃ。第二大陸の北港町ダッシャルから
西に向かったところにある山に凍結洞窟があるはずじゃ。気をつけて行って来るんじゃぞ」
「はいですの!」
ルアグ博士の研究所をでたイルア達は再び重い空気になる。
先ほどのレンの一言がまだイルアの心の中にあるのだろう。
「さっきはすまなかったな、イルア」
「え?」
「悪いことを言った。頼ることを知らないからな、俺は」
素直な謝罪。レンは真っ直ぐイルアの方を見ないでそっぽを向きながら言った。
「いいよ……私も悪かったし――じゃあさ、レンももっと私達を頼りにしてよ。仲間なん
だから、それくらい当然でしょ?」
「あ、ああ、わかった。困ったときは頼らせてもらう」
そしてイルア達は再び歩いてきた道を戻り、港町デュラズへと戻った。
――第三大陸ルスツェンブルガ、王都ルアシュレルグ、城内王の間――
王の座に座っているアラグダズガ。そして床に片膝をつけて頭を下げているグライア。
「グライアよ、次の任務だ。第二大陸クォルピアの北港町ダッシャルを奇襲しろ。よいな?
連れて行く魔物の数はお前が決めてよい」
「承知しました。では……――行くぞ、ルミィー」
「はいですー」
仮面を付けた剣士、グライアと妖精タイプのホムンクルス、ルミィーは一緒に任務の内容
を聞くと王の間を出て行った。
グライアの気配が消えたと同時に、アラグダズガは体の中から出る笑いを堪えていた。
「くっくっく……大いに利用できるな、光と闇を持つ少年は。まったく、二回も私の計画
を邪魔をして阻止されてしまったからな……沢山利用させてもらうぞ」
にやりと笑って見せたその顔は、とこか奇妙で不気味なものだった。
王の間を出たグライアはそのまま歩いて外へ出ようとしていた。
「ルミィー、初の任務だ。上手くやれよ」
「はいですー。多分、ドジはしませんよぉ〜」
なんだか本当にしそうで怖い。そんな気がしてきた。
「なんでそんなに心配そうな顔をしているんですかー? わわっ、もしかしてもしかして
ルミィーが本当にドジをするとか思っているんですねー……」
「ああ、そうだ」
キッパリと言われたルミィーは少し泣きそうな声を出してみた。
「ひどいですー、セクハラですー、横暴ですー」
「でたらめを言うな!!」
「大丈夫ですって〜、ホントですよー。バッチリ回復しますので、ハイ」
「ならいいんだけどな……」
心配になってきて、グライアはふぅとため息を吐いた。
「そんなに信用できないんですか? ルミィーのこと」
「まだ会ってそんなに経ってないからな。ま、今回の任務の働きによっては見かたを変え
てやるが」
「はい、ルミィー頑張ります〜」
そんなやり取りをしているうちに任務の時間になった。
「よし、行くぞ。ルミィー、しっかり頼むぞ」
「はいですー」
続く……
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