第]話 『諦めない心』


翌朝イルア達が起きてみると、街は大騒ぎになっていた。
街のあちこちには兵が借り出されており、とても普通じゃないような感じだ。
宿屋の人に聞いてみたところ、どうやら『戦争』が始まろうとしているらしい。
そんな深刻な話を聞いたイルア達は宿屋のカウンター付近にあるロビーのソファーに座り
話し合っていた。
「戦争……これは大変なことになったぞ」
とても真剣な顔でレンは考えていた。
「そもそもなんで戦争が始まろうとしているんですの?」
「さっぱりわからない……戦争っていっても、私は昔の話しか聞いたことないよ」
戦争についてさっぱり理解が出来ていないラティーとイルアに、しかたなくレンは
説明をすることにした。
「戦争は国と国同士が戦うことだ。昔に行われた戦争は随分と昔のこと……大体千年前
ぐらい昔の出来事だ。戦争と言われても実感がわかないだろうな。今回の事件は第三大陸
が第二大陸に宣戦布告し行われたものだとすると、何か裏があるかもしれない」
「裏って、なんですの?」
「知っていたら苦労はしない!」
と、一々突っかかってくるラティーに対してレンは怒鳴り散らした。
しかし、そうなってしまったら隕石のことや精霊、そしてゲイザのことも後回しになって
しまう危険性がある。
「どうしよう……精霊集めも途中だし、隕石のことだって――」
「そうそう、こんなときに頼れる人といえばあの人ですの!」
ラティーはいきなり大きい声を張り上げてなぜか胸を張って宙に飛んだ。
「ルアグ博士の元へ、レッツゴー! ですの♪」
とりあえずイルア達はルアグ博士の元へと向かうため、パスポートを発行してもらい王都
スェルダンルを出て北港町ダッシャルへと向かった。


――第三大陸ルアシュレルグの城内、王の間――
王の座に、一人の白髪でひげを生やした中年の男が座っている。
そしてその前に仮面を付けた剣士が膝を床に着け頭を下げている。
「アラグダズガ様、任務失敗しました――」
「よい。宣戦布告で戦争をしかけた……ふふふ、やつらに勝ち目はない。何せこっちには
何万もの魔物を産み出す技術がある」
「しかし――光と闇を持つ者と不思議な力を持った女にやられました」
その言葉を聞いたとき、アラグダズガは少し眉を歪ませた。
後ろの方から足音が聞こえてきた。階段を登り王の間へ入ってきたのは女剣士もといレン
の姉のルディアだった。
「グライア……あなた、気分が悪くならなかったかしら?」
グライアと言われた黒髪の仮面剣士は立ち上がるとルディアの方へ向き直った。
「そうだな。特にあの女を見たとき、とても憎しみと怒りが沸いてきて……優しい光が
俺の心に入り込もうとしていた」
「やっぱりね――アラグダズガ様」
ルディアはすぐ膝を床に着け、頭を下げた。
「グライアに監視役をつけていいですか?」
「ほう、なぜだ?」
「心が崩壊してしまう危険性があります。そのとき止めるために必要な監視役です……
ルティー、来なさい」
立ち上がりアラグダズガを見ながらその名を呼ぶと小さく黒い光を放ったものが王の間へ
と入り込んできた。外見は十五センチ、背中には小さい羽が四つ、髪は薄紫色をした少女
がルディアの横へと来た。
「この子を監視役につけたいと思います。もちろん、ちょっとした回復術を使えるように
作ったホムンクルスなのでサポートにも適しています」
「そうか……うむ、監視役に認めよう。今日はもう遅いので二人とも下がってよい」
「ありがとうございます――グライア、ルティーをよろしくね」
少し微笑んだルディアはアラグダズガに礼をしたあとすぐ王の間を抜けていった。
それに続いてグライアも同じように礼をし王の間を出て行った。

王の間を出たグライアとルティーは割り振られた部屋へと向かい、部屋へ入いるとそのま
ま椅子へと腰をかけた。
「あ、あのぉ〜……」
テーブルの上に立っているルティーはどこかもじもじと優柔不断な雰囲気を出しているた。
「なんだ?」
「その仮面、外してくれませんか……?」
「何故だ?」
と、問い返してみたらなぜか黙り込んでしまった。ちょっと気まずいので仕方ない、と
いうふうにグライアはため息をついた。
「わかった、外せばいいのか?」
「はいですー」
少年は仮面に手をかけると、そのまま仮面を外すと黒い髪がサラリと煌き、瞳は紫色だった。
「わぁー、綺麗な黒髪ですね〜」
「……………」
グライアはじっとルティーを見た。どうも調子が狂うテンションと雰囲気の持ち主だ。
どこか合わせずらい感じがする。
「あ、申し送れましたー。わたし、ルミィーと申しますー。よろしくですー」
そういうと礼儀正しくお辞儀をした。
「今後の任務は同行してもらう……いいな?」
「はいですー。バッチリ、回復などのサポートさせてもらいますですー」
ニンマリとルミィーは笑った。またグライアはため息をつくと、
「それじゃ……もう眠いんで寝させてもらうぞ」
そういってグライアはテーブルの上に置いてあった仮面を置いたままそのままベットへと
向かった。なぜかルミィーが横でパタパタと羽を使って飛んでピッタリと横について来て
いた。
「俺は休みたいんだが……」
起こった様子を見せたグライアにルミィーは少し焦った様子を見せたけれど、困った顔を
してグライアの目の前へ飛んでいった。
「そんなこといっても……ルミィーはちゃんとした監視役なんですー。なのでグライアさん
の傍にいるのは当たり前じゃないんですか〜?」
そういわれたグライアも少し困った様子を見せた。
「まあ、それはそうなんだが――ふぅ、もういい」
そのままルミィーを無視してベットへと倒れた。腕で目を隠すようにしていたが、頭が
妙に重い。何故だろうと思って腕をどかして上を見てみると、おでこの上にルミィーが
立っていた。
「お前、何してるんだ?」
「監視してるんですよー」
「面白いか?」
「はい、とっても♪」
「俺はとても迷惑だ」
「なんでですかー? とっても、とってーも楽しいですよー?」
「俺は眠いんだ、疲れているんだ! 寝かせてくれないか?」
「うぅー……わかりましたですー……」
ルミィーは名残惜しそうに宙へと飛ぶと、グライアは再び目を閉じて眠りにつこうとした
が、何か変な気配を感じた。枕のよこに……見てみるとそこにはルミィーがいた。
「だから、お前は何をしているんだ?」
「え? 監視するために一緒に寝るんですー。ダメなんですかぁ〜?」
「駄目に決まっているだろう」
といわれたルティーはとても詰まらなそうにして「うぅ〜」と声を漏らして枕に座っていた。
「……………」
「ダメなんですか? ホントにホントにダメなんですかぁ〜?」
泣きそうな表情をしてグライアを見つめてくる。
「ふぅ、もう勝手にしろ……!!」
「ありがとうですー、とっても嬉しいですー」
グライアはルミィーのいない方を向いて再び目を閉じて眠りについた。


イルア達は船に乗って第一大陸セルディーアを目指していた。
潮風が吹く甲板にイルアは一人、海を眺めていた。
青い海はいつ見ていても飽きない、そんなことを思いながらもふと今やるべきことを
思い出す。
「何処にいるかと思えば、こんなところにいたのか」
黒いフードを羽織った男――レンが海を眺めていたイルアの傍にやって来た。
「レン、いきなりどうしたの?」
「ちょっと話がしたくてな……」
「話って、何?」
風のせいで髪がなびく。イルアは髪を押さえつつレンを見た。
「お前は、何を目的に旅をしているんだ?」
「え……? 目的?」
今思い返せば、最初の旅の目的は――そう、ゲイザを探して連れ戻す。たとえ記憶を失っ
ていようが、なんとしても。
しかし、今はもうそれ所ではなくなっていた。
精霊探し、謎の隕石、そして戦争……手がかりのないゲイザのことは全て後回しにされて
いた。
「お前、大切な人を探す旅をしているんだってな。あの小さいのに聞いた」
「ラティーに……うん、確かにそうだよ。でも、その人は何処にいるかはわからない。
手がかりもないの」
「そうか……」
レンはそういって海の底を甲板の柵に寄りかかって眺め、そして空を見上げた。
どこか清々しい笑顔だった。
「俺も、ある人を探すたびをしていた……だが、もうその人は戻ってこない。だからせめ
て、間違っていることをしているのを気づかせてあげたい――そう思って旅をしていた」
「……大変だね」
「ああ、大変だ。諦めるのは簡単だが、諦めないとなったらとても難しい……だがな、
これだけは言っておく。諦めたら、駄目だ――絶対駄目だ。希望を捨てたら、そこで終わり
だからな」
「うん、そだね」
イルアも自然と笑顔になった。
希望を捨てないで、ゲイザを探して助け出す。たとえ遠回りの道を進んだとしても、
諦めないでいつか必ず……

難しいかもしれないけれど、今は目の前のことを片付けなければならない。
新たな危機が訪れている今、再び世界を破滅へと導こうとするものがいる。
それは次期に『消滅戦争』と言われるようになる……


U章『新たな危機』
――終わり――

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