第]\話 『積もる不安』
あの騒ぎの後、観客は全員帰り、結局闘技大会の優勝者も決まらずにそのまま終わってし
まった。何事もなかったかのように客は帰り、イルア達は闘技場の医務室で応急手当を受
けていた、第二大陸クォルピアの王ことセリバス王に呼び出されていた。
セリバス王は意外と若く、まだ三十代半ばといったところだ。実際の年齢はわからないが
外見からしてみればまだまだ若々しい。
「なんでしょう、私たちに用って……」
腕に包帯を巻いて椅子に座っているセリバス王は目を閉じて苦々しく、
「君達の力量はわかった。そこで折り入って頼みがある」
「頼み、とは?」
「この世界の人々全員が知っているとは思うが、この第二大陸に隕石が落下した。君達に
それをちゃんと調べてきて欲しいんだ」
とてもいい依頼だ。現在この王都全体が封鎖されているときにそんなことを頼まれるなん
てとても幸運かもしれない、とイルアは心の中で言った。
「はい、わかりました――しかし、なぜ私達に?」
「実はこの闘技大会、その件と関連があるんだ。あの落下地点にはとても強い魔物が沢山
現れている。だから闘技大会で優勝した強いものに頼もうという考えだったんだ……あ、
もちろん金は出す。どうか頼めないか?」
「もちろんいいですよ。実は、私達もその隕石について調べるために第一大陸から来たと
ころなんです」
「そうか。ならば話は早い。王都の門兵には行ってあるので通してくれといえばちゃんと
外に出れるはずだ。しかし最近は魔物の異常発生や凶暴化が進んでいるので気をつけてく
れたまえ。よろしく頼むぞ」
優しい王の笑顔に見送られながら、イルア達はすぐさまその隕石落下地点を目指すために
王都の出口の門へと急いだ。
門兵に「王からの依頼で」と一言行ったらすんなりと門を開けて通してくれた。
隕石落下地点は王都から少し南西にいった所にある。イルア達はそこへ目指した。
数時間あるいたところに隕石落下地点があった。
大きい隕石なので、遠くからもよく見える。隕石の落下しているところにはクレーターが
出来ていて、そのクレーターの中には魔物が沢山いた。
「気持ち悪いですのぉ〜……」
思わずラティーが口に出していってしまったが、レンやイルアも同じ気持ちだった。
魔物の種類はスライム系、植物系、肉食系から様々な種類がいる。さすがにドラゴン系の
魔物は見当たらないが、相当の数だ。もしかしたら千を超える数かもしれない。
「これが、隕石の力なのか……イルア、もう少し近づいてみないか?」
確かにもうちょっと近づかないとよくわからないけれど、危険を伴う。
しかし、レンの発言は正しい気がしたイルアはそれに同意した。
「そうだね……でも危ないから、常に戦える状態にしておかないと」
片手を腰にある武器をいつでも構えれるように柄に置いて慎重にクレーターへと近づいて
行った。
「あ!」
ふと、ラティーが少し大きい声をだして止まった。
「あの〜、今思い出したんですけど……隕石に近づいたら魔物になってしまう恐れがある
んじゃないんでしたっけ?」
そういえば、そんなことが資料に書いてあった気がする。
イルアは持ち物が入っている袋からルアグ博士に貰った資料を見てみると、確かにそう書
かれていた。
「そうか……じゃあ無駄に近づかないほうがいいというわけか。王は様子を調べればいい
と言っていたから、そろそろ戻って報告してきた方がいいんじゃないか?」
「うん。ここに長時間いると魔物に襲われちゃうからね……さ、一旦王都へ戻ろう」
イルア達は隕石落下地点であるクレーターから離れると、来た道を戻り王都へと戻った。
王都に戻ったイルア達はとりあえずもう一晩宿屋に泊まることにした。
部屋を取ったイルアはすぐラティーと共に王の下へ行き、報告をしにいった。
レンは一人、部屋にいた。
「マイ、大丈夫か?」
レンはポケットに手を突っ込んで欠けた黒い宝石を取り出した。
『はい……なんとか』
欠けた黒い宝石が黒く輝いてからというもの、マイは一切言葉を発していなかったので
さすがのレンも少し心配になっていた。
「今日の昼、闘技場で何があったんだ?」
『あ、いえ……よく覚えてないんです』
「覚えてない、だと?」
途切れていたが途中まで確かに喋っていた。しかし記憶がないということはそれを言った
事すら忘れている、ということなのだろうか?
『闇の私に対して、何か白い光が押し寄せて……そこまでは覚えているんです。最後に
レンさんに何か言ったのは覚えているんですけど、それ以降ほ覚えていません』
言ったことは覚えていたのだが、肝心な何を言ったかは忘れている。
あれはとても重要で大切な言葉だったと思ったレンは、少し肩を落とした。
「で――その白い光ってのはなんなんだ?」
『はい。何かが私の中に入り込んでくる感じだったんです』
「ミリア=ビリアムズのせいではないのか?」
『いいえ、ミリアさんとはまた別の光です。ミリアさんの光は黄色ですから』
とてもよくわからないことを言われた気がする。レンはもう一度質問を変えてみた。
「その……光とか闇には色があるのか?」
『はい。私の闇は黒、ミリアさんの光は黄色、というように心にはいろんな色があります。
ちなみにレンさんは黒と青です』
「色にはどういう意味がある?」
『その人の感情や性格を現します。でも、本当のところどういう意味かはよくわからない
んですけどね』
マイの説明が終わったとき、レンはふと話題が変わっていたことに気づいてすぐさま話題
を元に戻した。
「それで……その白い光の持ち主って誰だ?」
『はい……イルアさんか、あの人かもしれません』
「あの人?」
少しの沈黙。意を決したのかマイは再び喋り始めた。
『あの……ゲイザさんです』
「ゲイザ、か……何者なんだ、ゲイザって」
マイは知っているけれど、レンは会ったことも見たことも話したこともない。
なのでどういう人物かは全くわからない。
『光と闇を持つ少年――そしてマルディアグとは違う、もう一つの世界、グラディームを
救った英雄です』
「光と闇を持つ者……俺と同じなのか」
レンは今日、あの仮面剣士に言われたことを思い出していた。
(「ほぅ……貴様、光と闇を持つ者か」)
「もしかすると、あの仮面剣士、ゲイザとかいうやつかもな」
レンはぼそりと小声で呟いたためマイには聞こえなかった。
一方イルアは王に報告をして宿屋に戻ってきたところだった。
ラティーと共に部屋にはいるとすぐさまベッドにねっころがった。疲れが体に染み渡って
来る感じがする。
「今日は大変だったですの〜……」
「ホント、そうだね」
少し瞼が重い。目を閉じてしまうとこのまま深い眠りに陥りそうだ。
イルアは目を擦ってほんのちょっとだけ眠気を覚ました。
「イルアさん……今日の仮面男の剣――」
「剣?」
いきなり何を言うと思えば、剣についてだった。
ラティーって剣フェチだっけ? とかイルアは思っていたがどうやら違うようだ。
「あの、違ったらごめんなさいですの……仮面男の片方の手に持っていた白い剣、もしか
したらゲイザさんの使っていた、ラスガルティーとかいう剣だと思うですの」
「……………あ」
イルアは今思い出した。あの剣は見覚えがあったが、どうやらゲイザが使っていた剣だっ
たらしい。もしもそれが同じものだったとしたら……
「あれって、ゲイザかな?」
ちょっとだけ、最初見たときからイルアはそんな気がしていた。
「でも、ゲイザさんはそんなことしませんですの!」
ラティーもまたあの仮面剣士をゲイザだと思っていたけれど、信じたくはなかった。
いや、信じられなかったのかもしれない。イルアも同じ気持ちだ。
「う、うん……そうだね」
そういえばラティーは知らなかったんだ、とイルアは心の中で呟いた。
ゲイザの光の心が失われてしまったことを知っているのは、多分数少ない。
そして確実にラティーは知らない。知っていてもルアグ博士ぐらいだろう。
「ゲイザは優しいもんね……ホント、胸が痛くなるほど――悲しくなっちゃうくらいに」
「はいですの」
イルアとラティーは笑い合うと、すぐに眠りについた。
続く……
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