第][話 『見覚えのある姿』
闘技大会はついに最終戦を始まろうとしていた。
「女にして、ついにここまで勝ちあがってきたイルア選手!」
名前を呼ばれたイルアはすぐに門をくぐって歓声を浴びながら定位置についた。
少し緊張するけど、前戦ったことのある相手だったのでそれほどでもないが。
「かわって対する選手は、とても素早い剣さばきで勝ち進んできた、レン選手!」
相手はレンだ。戦ったことがあるとはいえ、レンの剣の腕前はかなりの物だ。
あのときよりも腕を増していたら、確実に勝機はない。
「手加減はしないぞ、イルア」
「もちろん、こっちだって……!」
しかし、イルアも剣の腕を上げている。それも三つの精霊と戦ったためか、身体能力も
前に比べると数段増している。
だが、油断をしては負けてしまう。それほどの相手ということだ。
「両者とも、準備は整ったようだ――さて、最終決戦開始っ!!」
審判が腕を空に向かって振り上げると同時にどこからかゴングが鳴る音が聞こえた。
イルアは腰に下げてある鞘から曲刀を抜き取り、両手で構えた。
緊張のあまり、少し体が震えているのが自分でもわかった。
「先手必勝だっ!――瞬光閃塵破!!」
先に攻撃を仕掛けたのはレンだ。剣を両手で持ち横に構えると閃光がほとばしり、
一瞬にしてイルアの近くまで移動していた。
「きゃぁっ!?」
曲刀を縦に構えて渾身の斬撃からは回避することに成功したイルア。
レンはすぐさま地に足を着くと剣を構え直し、再び、今度は横に剣を振る。
「初めて会ったときより腕を上げているな、イルア!」
「危ないっ!」
すぐに後ろにバックステップをすると剣は宙を空振り、ヒュンという音と共に風を斬った。
先ほどの攻撃もそうだが、レンの攻撃一撃一撃に重みがあり、それを一回でもくらうと
怪我を負うことは間違いはないだろう。
「ねぇ! 少しくらい手加減しても! いいんじゃない!?」
次はイルアが曲刀をレンに斬りつけようとし剣を振った。
レンはそれを自分の剣で弾き、イルアを仰け反らせた。
「手加減をしてしまったら負けてしまうだろう!」
「うっく……っ!?」
危うく体が倒れそうになったが、すぐさま体制を建て直してイルアは再び曲刀を構え
直した。
「これで――!!」
「何っ!?」
イルアの曲刀とレンの剣が交じり合い、鍔競り合いに持ち込んだ。
「おっとー! ここで両者の力押しっ!! ここで勝つのはどっちだー!?」
大きな声の実況が入りつつも、イルアとレンはこのまま鍔競り合いを続けていた。
するとレンが小声で話しかけてきた。
「イルア、この会場の何処かに邪気がする」
「えっ……邪気?」
そのとき、イルアの胸にあるペンダントかいきなり輝きだした。白く明るい光を放っている。
そしてレンのポケットからも黒い光が放たれていた。
二人は一旦鍔競り合いを止め、後ろにバックステップで引いた。
「なんだなんだー!? 両者から奇妙な光が放たれているぞ!?」
どうでもいい実況のせいで観客の人々はざわめき出した。
「どうしたんだ、マイっ!!」
レンはポケットから黒い宝石を取り出して、それに向かって話しかけると微かだが、声が
返ってきた。
『レンさん――――が――何処かに―――』
「なんだって? 聞こえん!」
しかし、マイはその一言を喋ったあと、黒い光を放ったまま喋らなくなってしまった。
何が起こっているのか、イルアにもレンにもよくわからなかった。
マイが言いたかったこと……それは誰かが何処かにいる。
と、不意に何処からか声が聞こえた。
「セリバス王!! 大丈夫ですか!?」
観客席の方からの声だ。
実は闘技大会は王が好んで開催した企画であり、その主催者である王ももちろん観客と
して見に来ていた。その王に、今危機が迫っている。
「イルア、お前はここにいろ!」
「ちょ、ちょっとレン!?」
レンは物凄い高さの段までジャンプし、王のいる特別観客席まで飛んでいった。
そこにいたのは、血を腕から出した王と数人の倒れた兵士、そして仮面をつけた二刀流の
剣士。
「お前、やめるんだ!!」
レンは王の前に立ちふさがると仮面剣士に向かって剣を突き出した。
しかし仮面のせいでその剣士は表情が読めなく、どういうことを思っているかはわからない。
「邪魔だ。斬られたくなかったら退け」
「うるさい! 邪気を放っているのはお前だな」
「ほぅ……貴様、光と闇を持つ者か。面白い、相手をしてやろう」
「何!?」
仮面剣士とレンは観客席から戦いの場へと飛び、着地すると剣を構えた。
それを唖然としてみているイルアはどうすればいいのかもわからず、ただ片手に曲刀を
持ってそれを黙ってみているだけだった。
「イルア、手伝え!」
レンの一言でイルアはやっと我を取り戻した。
「あ、う、うん!!」
イルアも曲刀を構える。
「突然の乱入者だ!! 王の命を狙った謎の仮面剣士対レン&イルア選手だー!」
辺りは歓声の渦に飲み込まれ、王が怪我をしていること自体忘れているのではないかと
思ってしまうほどだ。これはあくまで特別ゲストで来ているんじゃなくて、王の命を狙って
きているというのに、観客の人々は楽しんでみているように感じた。
しかし、そんなことを感じてもイルアとレンは戦わなければいけなかった。
「女もか……ならば二人まとめて切り捨てるのみ。掛かって来い」
仮面剣士は片手には白い剣、もう片方の手には黒い剣を握っていた。
独特な構え――それはどこか、イルアにとって見覚えのある構えだった。
「特に女!! お前を見ていると胸騒ぎがする……お前から消させてもらうっ!!」
物凄い速さでイルアに近づいてくるが、それはレンに阻まれてしまった。
「邪魔だぁっ!!」
男は白い剣でレンに斬撃を与えようとしたけれど、それは剣で防がれた。
一方イルアは見覚えのある姿に気をとられ、ただ立っているだけだった。
「誰……? 誰なの?」
「イルアっ!! 危ないっ!」
鍔競り合いに負けたレンは仰け反らされ、その好きに仮面剣士はイルアの元へと向かって
行ってしまったのだ。
「ねぇ、教えて……あなたは、あなたは一体誰なの!?」
「死ねぇぇっ!!」
黒い剣がイルアの頭へと振り下ろされる。
と、そのとき胸にかけてある黄色い宝石のペンダントが光を放ち、その仮面剣士を弾き
返した。
「ぐおっ!?」
「えっ……? なんなの、この光は……やっぱり、ミリアって子の力?」
イルアはただ立っていただけだが、仮面剣士は少し離れたところまで吹き飛ばされている。
ペンダントの力か、それともイルアの力か……
仮面剣士は立ち上がると呪文を唱えた。
「くっ……任務失敗か。テレポート!」
体が光に包まれて、その光と共にどこかへ消えてしまった。
「あの白い剣……ラスガルティー、ですの」
観客席にいたラティーは、仮面剣士の白い剣を知っていた。
――もしかしたら、彼は……――
イルアも、ラティーと同じ気持ちだった。
聞き覚えのある声。しかし、彼はそんな人間ではなかったはず。
ふとそのとき、イルアは夢で見たことを思い出した。
『彼は今、光の心をなくした。だから、闇の心しか残っていない』
『最後の私のように、彼も破壊という心しか持てない』
黄色い髪の少女……ミリアは確かにそう言っていた。
そうならば、さっきの剣士をなんとしても、助けなければいけない。
――でも、どうやって?――
『だから、ゲイザを……お願い。助けてあげて――』
助けなければいけない。今度は自分が……助けてくれた彼を……
続く……
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