第]Z話 『戦いの場へ』
「イルア、起きろ!」
「起きてくださいですの〜っ」
重い瞼を開けると、眩しい日差しと共にラティーとレンの姿が見えた。
目を擦り起き上がると欠伸をしながら体の上半身だけを伸ばした。
先ほど見せられた夢のせいか、ミリアの悲しい顔が脳裏に焼きついたように離れない。
眠気がなくなったので、とりあえず目の前にいる二人にイルアは挨拶をした。
「おはよー……一体どうしたの? また寝坊しちゃった?」
「いや、実はな……街の外に出れなくなっているんだ。どうやら魔物の異常な発生による
ものだと思うんだが、この街に魔物が入れないように街の入り口が完全封鎖されていた」
「じゃあ、隕石の落下地点には向かえない、ってこと?」
「ああ。短くて一日かかる……こんなところで足止めとはな」
レンは壁に寄りかかって深いため息をついた。
「それじゃ、イルアさん! 早く起きる出すの!」
「え? 街からは出れないんじゃないの?」
目の前を飛んでいるラティーはにっこりと笑っている。何か良からぬことを考えている
気がしてならない。
「街を探検するですの! きっといい武器とか情報があるかもしれないですのー」
確かに、この大きな王都を見て回らないでそのまま通り過ぎるというのも悲しいことだ。
イルアも王都スェルダンルに来たときから少し見て回ってみたいと思っていた。
「それもいいかもね〜……――ね?」
と、イルアはレンに見て回りたいと許可を求めるように目を向けた。
ばっちり目が合ったレンはすぐにそっぽを向いてしまった。
「別にいいんじゃないか? 息抜きも必要だろうしな。そのかわり俺もついていく」
「やったー! それじゃ、早く行きましょ」
ベッドからすぐ出ると、ベッドの横に立てかけておいた曲刀の鞘を手に取り、すぐに腰に
下げてその他の荷物を持った。
「イルアさん、元気ですの♪」
「う〜ん、そうかな?」
「はい、とっても」
「そっか。じゃ、早く行こう!」
ただ、少しの間思い出したくなかった。ミリアの言葉を。
闇に染まったゲイザ……どこにいるのかもわからない。それを助けてあげてくれ、だなんて
正直困ってしまう。なので今は明るく元気に振舞っていれば気にならなくなるのでイルアは
元気にしていた。
外に出ると昨日と変わらない人だかり。
相変わらず冬の寒さは変わらないけれど、他の街や村に比べて人の活気がすごい。
「さ、どこからいくつもりだ?」
「う〜ん……レンはどこに行ってみたい?」
「そうだな――ん?」
レンはとても気になるものを見つけてしまった。
あちこちに貼られている張り紙。その内容は――
第39回目 マルディアグ闘技大会
開催日 今日 午後1時から
賞品 優勝者にはトロフィーと称号、そして賞金が送られます。
参加者は誰でもOK
「闘技大会……出てみないか?」
突然何を言うかと思えば、レンがイルアに闘技大会にでないかという誘い。
それを聞いたラティーはいつものごとく怒った。
「ちょっと! イルアさんは女の子なんですの!! なんでそんなものに――」
「――出てみようかな」
思いがけない一言が、イルアの口から出た。
「え?……ちょっとイルアさん、本気なんですの?」
「うん。だって、剣の練習もしないといけないし、まだ精霊の力を使い慣れていないから
いい機会だな〜と思って」
それを聞いたレンは腕を組んで頷いた。
「いい心がけだな……そうと決まれば早速闘技場へ行くぞ。エントリーは早めにやってお
いたほうがいいからな」
「そうだね」
話がまとまったので、イルア達はさっそく闘技場へと向かうことにした。
「イルアさんと、レンさん、ですね……エントリー完了しましたので、控え室でお待ち
ください」
エントリーを終えたイルアとレンはすぐに控え室へと向かった。
実はもう正午12時になっていたりする。イルア達はまだ道に慣れていなかったので
少し迷ってしまった。そのため予想以上の時間を食ってしまったのだ。
控え室にはいったイルアとレンはそれぞれ別の椅子に座って自分の番が来るのをまった。
ラティーは観客席のほうで遠くから見守っていることにした。
「ちょっと緊張するね」
「ああ……今回は人数が少ないらしいな」
「うん。私とレンを合わせても八人だけだもんね」
意外と少なく、八人のエントリーしか行われていなかった。
元々戦いに興味がある人が少ないのか、それとも魔物や隕石のせいなのか……
多分どちらともかもしれない。観客はとても多い。
そうこうしているうちに1回戦目が始まろうとしていた。
「それじゃ、そろそろ始まるから私自分の控え室に行くね」
そういってイルアはレンの方の控え室から出て行き、自分のいるべき控え室へと
戻っていった。
すぐに一回戦目が始まり、イルアの番となった。
「一回戦目! 女にして、剣士のイルア選手! かわって相手は傭兵をしているデッシュ選手!
これは女であるイルア選手の方が不利なのか――」
イルアは門を抜けて戦いの場へと出て行くと眩しい日差しと大勢の歓声の中、緊張しつつ
も歩いて定位置に立った。相手も同じように定位置の立つと審判の人が腕を上げた。
「一回戦目、開始っ!!」
相手はすぐさま斧を抱え上げるとイルアを目掛けて走ってきた。
それに気づいたイルアは曲刀を鞘から抜き、両手で構えると走らず相手が来るのを待っていた。
「ぬぅぅぅんっ!!」
大きな斧の刃が光り、イルアの頭上に振り落とされた――しかし一瞬の隙をついてイルアは
相手の脇へと回りこんで回避していた。
「無邪気な風達よ、我が刃に宿り、敵を切り裂かん――ウインドブレード!」
曲刀に風――というより小さな竜巻――が宿り、すぐ剣を構えた。
「女のくせに……戦いなんて、やってんじゃねぇよっ!!」
「好きで戦ってるんじゃない――大切な人を取り戻すために戦ってるのよっ!」
イルアは剣を相手の急所意外の所へと振った。風を纏った剣が相手の足を掠める。
風のせいか、ちょっと掠めただけなのに相手は闘技場の壁に叩きつけられ気絶してしまった。
「おっと、これは……イルア選手の勝ちだー!」
イルアは意外と剣の腕を上げていた。そのためか次の戦いでも勝ち上がり、最終決戦まで
たどり着いてしまった。
一方レンは今準決勝戦を行おうとしていた。
一回戦目は少し苦戦してしまったけれど、すんなりと勝てた。
「準決勝戦……黒いフードを纏った剣士、レン選手とこの街でトップ10に入る実力を持った
サイグ選手!! 両者位置についた……それでは、準決勝戦、開始っ!!」
レンの戦いの相手はディメガスの四天王だった一人、サイグ。
最終的には利用されていたのをデュッセルが助けた。なので今は敵ではない。
「一瞬で終わらせる……」
「やれるもんならやってみろ!」
両者とも武器を構えたまま睨みあっている。先手はレンのようだ。
レンが剣を構え、そのままサイグの懐に入って斬りつけようとしたけれど、とても早い
反応のためサイグの得意とする武器、薙刀ではじき返されてしまった。
「ダブルソードをなめるなっ!!」
なんとその薙刀は二つに分裂し、剣を二つ両手に持った。
「そう来たか……ならば!」
一旦引いて距離を置いてから再び剣を構えて斬りかかろうとした――しかし、レンは
斬らず、剣を投げた。
「何っ!?」
間一髪のところでサイグが剣で飛んできた剣をはじき返した。
本当は、それだけじゃなかった。
「もらったぁっ! 破光拳!!」
剣を投げ、そっちに気を取らせているうちに後ろに回りこんで素手でサイグを攻撃した。
拳が急所に入ったためか、サイグはその場に倒れこんで気絶した。
これで、決勝戦へと勝ち進んだのはレンとイルアの二人になった――
続く……
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