第]Y話 『光の少女と闇の少年』
「なんとか脱出できたな」
先ほどまで雪が降っていた空も晴れ渡り、洞窟をでるとすっかり日が差していた。
そして後ろの方では岩が崩れ落ちる音と振動が物凄くしている。
「はぁっー……死ぬかと思った……っ」
息切れをしているイルアはその場に座り込み深いため息を吐くと同時に呼吸を整えた。
「この上ない危険ですの〜……ディメガスと戦ったゲイザさんほどじゃないですけど」
「ディメガスだと? やつは死んだのか?」
即座のレンの反応。ディメガスと倒しに行った人にしか、死んだことは伝えられていない
らしい。
「ちょっと前に、ゲイザさんが倒したんですの。これで第一大陸がディメガスの恐怖に
怯えなくてよくなりましたけど、今度は第二大陸が危機ですの〜」
「倒したのか……? お前らが」
「うん、そういうことに、なるかな」
ラティーの代わりに立ち上がったイルアが答えた。
ディメガスの件はイルアが一番関わりが深い。
「色々、あったんだよね。辛いことが」
いかにも辛そうな声で言った割には、裏腹に表情は微笑んでいた。
悲しみを隠したい気持ちでいっぱいなのだろうか。
(今、ゲイザのことを思い出したら泣いちゃいそうだもん……)
涙腺が痛くなるのを堪えつつ、イルアはそのまま歩き出した。
「さ、早いところ王都へ向かおうよ」
「はいですの〜」
「そうだな」
もう使い物にはならなくなった崩れた洞窟を背に、イルア達は第二大陸クォルピアの王都
スェルダンルへと向かった……
「でっかーいですの〜……」
と、ラティーは思わず目の前の光景に声を出した。
それもそのはず。他の街とは比べ物にならないほどの大きさがある。
人も、建物も。五倍以上はあるんじゃないかと思うくらいだ。
「さすが王都スェルダンル……ここまで人がいるとは思わなかったな」
今いる場所は街の外門の中。なので人はいないけれど遠くを見たら人が沢山いるのが
わかる。特に商店街と記されている場所が特に。
「じゃ、どうしよっか? どっか行きたい場所でもある?」
「もう日も落ちてきたから、そろそろ宿屋に行った方がいいな。見物ならいつでも出来るが、
体を休めるのは限られた時間だけだ。早かれ遅かれ、宿を取っておいて損はないからな」
「じゃ、宿屋へレッツゴーですの♪」
入り組んだ道を進みながら、レンのおかげで迷うこともなく無事イルア達は宿屋に
つくことが出来た。
宿屋にはいるとレンが宿主がいるカウンターまで向かって手続きを行うとすぐに鍵を二つ
持って戻ってきた。
「ほら、鍵だ。ゆっくり休めよ――っと、あとでディメガスの話、ゆっくり聞かせてもらうからな」
レンはイルアに投げて鍵を渡すと、すぐにその場を立ち去って行った。
やはり気になるのだろうか。ディメガスが。
「イルアさん、早く行こうですのー」
「う、うん」
イルアとラティーも鍵に書かれてある部屋へと向かった。
鍵を開けて部屋に入るとすぐにイルアはベッドへ寝転がりあくびをした。
「ふぁ〜っ……ちょっと眠くなっちゃった……」
イルアの顔を覗き込むようにラティーは飛びながらイルアの顔の上にいた。
「眠いんですの? じゃ、ゆっくり寝た方がいいですの」
「で、でも……」
「あの人には私が話しをしておきますですの。心配しないで寝てくださいですの」
少し心配だけれど、今は急激に来た眠りを優先したい気分だった。とてもまぶたが重い。
体も段々ダルくなってきた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおっかな」
「はいですの♪」
イルアは靴を脱ぎ曲刀の入った鞘をベッドの横へ立てかけると、すぐにベッドの中へ入り
一瞬のうちに眠りについてしまった。
それと同時に誰かのノックの音が聞こえた。多分レンだろう。
仕方なさそうにイルアはドアの近くまで行って自分の力じゃドアを開けられないから
入っていいとドア越しに声をかけ、静かに入らせた。
「イルアさん寝てるから静かにしてくださいですのー」
と、とても小さな声でラティーはレンに注意を言った。
レンは部屋に用意された椅子に腰を掛けると、テーブルの上に座ったラティーを見た。
「お前が話してくれるのか?」
「はいですの。今のイルアさんにとっては、この話は酷なので、私が話すですの」
「そうか……わかった」
ラティーもラティーなりにイルアのことをよく考えているんだな、とレンは感心した。
するとさっそくラティーはレンに話始めた。
「どっから話すんですの?」
「どっからって……どうして倒したか」
「それは、ディメガスは人々に恐怖を与える人! それを私たちが悪いディメガスを倒し
たんですの」
なんだか威張ったようにラティーは言った。
「そ、そうか……じゃあ、イルアとゲイザとかいうやつには何があった」
「……………」
急に俯いて黙り込んでしまったラティー。さすがにそれに不安になったレンは声を
掛けてみた。
「どうした?」
「あ、いや、なんでもないですの……ちょっと一言では片付けられないので困っていたん
ですの」
「そうか……」
「イルアさん、今は人間だったんですけどつい最近までホムンクルスだったんですの。
それで、ディメガスにはホムンクルスの生命力の鉱石である魔晶石をとられて結局奪え
返せないまま眠りについてしまったんですの。それでゲイザさんが魔法を使ってイルアさん
を助けたんですが……」
「ゲイザという男は、どこに行ったんだ?」
「行方不明ですの……元々はイルアさん、ゲイザさんを探す旅に出たんですけど、
世界滅亡の危機を救うために今は頑張ろうとしているですの」
その話を聞くとレンは深刻そうな顔をして何かを考えていた。
「そうか……聞きたいことはそれだけだ。話につき合わせてしまって悪かった。それじゃあな」
レンはすぐ立ち上がって部屋を出て行った。ラティーには何かわからなかった。
自分の部屋に戻ったレンは、ポケットから黒い宝石を取り出した。
「聞いていたか?」
『はい……まさか、ゲイザさんが……』
「ホムンクルスを人間に変える術――あることにはあるんだが、それは使用者の記憶、光
の心と対象者の光の心がなくなってしまうと聞いた。しかしイルアはそれらしき様子がない」
『それは、胸にあるペンダントのおかげだと思います』
「ミリア=ビリアムズか? あれが何なんだ?」
『あのペンダントを掛けておいたおかげで、光の心は失われずにすんだんです。変わりに
そのペンダントの光の力を消費すればいいんですから』
それを聞いたレンは頷き、話題をすぐにすり替えた。
「そうとなると、ゲイザとかいう男の方だ」
『ゲイザさんは光と闇を持つ者。なので光の心を失ったゲイザさんは闇の人です。それも、
あの人の闇は計り知れないほどの大きさ……光を失った彼は、破壊の心をもつ人間そのもの
なんです』
マイはあのときのゲイザを思い出していた。
ミリアが攫われたとき、城まで助けに行き最終的に闇の力を発動させてしまったゲイザの
姿を。黒一をただ剣でズタズタに切り裂いていた。破壊をいう心を抱いた人は、なんの感情
をも持たずにただ人を殺したいという衝動が起きる。あの時、すでにミリアに斬りかかりそうに
なっていた。
『あの人の力は……世界を覆すほどの力があります。もしかしたら、レンさんの姉の――』
「可能性は否定できない。その闇の心と記憶がないということを利用すれば、とてもいい
兵器となるな……お前が言っていたな、ドールという存在を」
『まさに、そうです。ドールは元々心がなく、ただ破壊を目的とした兵器でした。ミリア
さんも……昔の私の記憶は薄れて消えてしまったけれど、ドールだったミリアさんは最終的
に暴走してしまいましたけど……』
また、暗い。
暗い所に、一人イルアが立っていた。
また、ミリアの夢だ。
「今度の夢は……何?」
目の前には切り取られた次元があった。
「ミリア!」
そこにいたのは疲れきったミリアと、黒い衣装を身に纏った女の人。
そして灰色の髪の少女、ゲイザが剣を片手に持ち立っていた。
「よく来たわね。坊や……」
「お、お前は――あのときの女!」
剣を片手に、そしてイルアが今腰につけている小刀がもう片方の手に握られていた。
「ゲ、ゲイザ……助けに来てくれたの?」
ミリアはベッドの上で力尽きていた。何やら色々と術を使わされたのだろうか。
そんなことを思ったゲイザは頭に血が上ったように怒りを露にした。
「お前、ミリアに何をした!」
「大したことないわよ。色々と術を使ってもらったりしただけよ」
「貴様……許さない!!」
ゲイザは力いっぱい剣を握った。女もクナイを構え、いつでも戦えるようにしていた。
「大丈夫、ちゃんと相手してあげるから」
「俺にはそんな余裕はない!」
「あらそう。じゃあ、苦しむ暇も与えないように一瞬で殺してあげるわ」
そういうと女は一瞬にして見えなくなった。
そして気づいた時には体中が痛いことにゲイザは気づいた。
「ぐぅっ!」
血が腕から吹き出た。切り落とされたわけではないが深く斬られた。
しかし痛みを堪えて剣を持ち続けている。
「まだ、だ。俺はミリアを助ける……」
「ゲイザ……」
両腕から血が出ているが、剣を握りなおした。
「俺は――俺はーっ!!」
ゲイザの小刀から黒い光が放たれた。そしてゲイザの持つ剣から白い光が放たれた。
その光を放つ小刀と剣を片手ずつに持って黒一を斬りつけた。
「うあ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
何か狂ったように黒一を斬りつける。
「お前が、お前らがあぁぁぁ!!!」
ゲイザの目には輝きがなく、ミリアとマイのペンダントが黒や白の光が放たれていた。
どこか怖い雰囲気を漂わせているゲイザはただ剣を振るって敵を闇雲に斬りつけているだけ。
「ゲイザさん、落ち着いてください! これじゃあなたは闇の力に溺れてしまいます!」
ゲイザは灰色の少女の言うことも聞かず、ボロボロになった女を吹き飛ばしミリアに攻撃目標を変えた。
「ゲイザ……私を、斬るの?」
「ミリアさん、逃げてください!」
「ゲイザ? 私を助けてくれるんでしょ……斬らない、よね」
ミリアが涙を流したそのとき、ゲイザの剣と小刀から出ていた光が消えて、その場に倒れてしまった。
「ゲイザ……っ」
その一場面が終わると、辺りは暗くなり黄色い髪の少女が現れた。
とても悲しそうな顔をしている。
『今のゲイザは闇の心を持ったゲイザ……』
「今のが……?」
『彼は今、光の心をなくした。だから、闇の心しか残っていない』
「ゲイザは、さっきのようになっている、ってこと?」
イルアの言葉を聞くと、ミリアは頷いた。
『最後の私のように、彼も破壊という心しか持てない』
「あなたもそうだったの?」
『私は、ドールだから……生きていちゃいけなかったの』
「それって、悲しくない……?」
『悲しい。けど――抗っても抗えない運命』
暗い中でも、一粒光る何かがミリアの頬から流れ落ちた。
泣いているのだろうか? しかし長い髪のせいで表情がちゃんと見えなかった。
『好きだった。けど、どうしようもなかった。消えるしなかった。一緒にいることは
出来なかった。ずっと……ずっと一緒にいることすら、許されなかったの』
「そんなっ……!」
悲しそうなミリアの言葉を聞いていると、イルアも人事ではないように聞こえた。
前までの自分がそうであったように、イルアも同じ考えだったからだ。
しかし、イルアはゲイザに助けられて、今ここにいることが出来ていた。
『あなたは……イルアちゃんは――』
初めて名前を呼ばれた。教えていないけれど、何処か親しげに……
『ゲイザの、大切な人だから……二度目は、嫌だったんだろうね。大切な人を失うのは。
いや……三度目、かな』
一度目は家族を。二度目はミリアを……そして三度目はイルア。
家族を失い、大切な人を失ったゲイザははっきり言って途方に暮れていたに違いない。
そして違う世界に来て、大切な人をまた見つけて、ゲイザはイルアを助けようと頑張っていた。
『だから、ゲイザを……お願い。助けてあげて――』
その言葉と共に辺りは明るくなり、白い光に視界が包まれていった……
続く……
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