第]X話 『精霊の力』


温かい服装になったイルアとラティーはレンを新たな仲間と認め、三人は北港町
ダッシャルの町の出口にいた。
「これで旅の準備は整ったな」
レンはイルアとラティーを交互に見て頷いた。
「ジロジロ見るのはセクハラですのっ」
「あいにく、俺はお前達には興味がないんで」
「うぅ〜……」
そんな二人のやりとりを見てイルアは笑った。
なんだか、レンが仲間になってからというものイルアの笑顔の数も増えたような気が
ラティーはしていた。
「レンさん、ありがとうね」
「ん?」
そういうとイルアは両腕を伸ばして微笑んだ。
「服、買ってもらっちゃって……なんだか悪い気がするんだけど」
「気にするなよ、そのくらい。凍え死なれても困るからな――それと」
といいながら顔をそっぽへ向け、恥ずかしそうに頬を人差し指で掻きながら、
「俺のことはさん付けしなくていい。レン、と普通に呼んでくれ」
「うん、わかったよ」
「私は名前で呼びませんからねーだ」
横からラティーが割り込んで話に入り込んできた。
レンに向かって舌を出してべーっ、と言った。
「そうか。じゃあこっちもそれなりの対応をさせてもらうからな」
「どうぞお好きに、ですの!!」
「ちょ、ちょっとラティー……レンはそんなに悪い人じゃないよ?」
イルアにそう言われた為か、いきなりそっぽを向いた。
なんだか居心地の悪そうな感じだったので、イルアはラティーにかける言葉を捜していた
が、ふとラティーは小声でぼそりと言った。
「ゲイザさんのほうが……優しいですの」
そんな言葉を聞いた気がするが、正確に聞こえなかったし深く追求するとまた大変な事に
なってしまいそうなので、イルアは聞かなかったことにした。
気を取り直してイルアはラティーに話しかけてみた。
「ラティー」
「……………」
「お礼ぐらい言おうよ、ね? ラティーのために服屋のおじさんに頼み込んで小さい服
作ってもらったんだから……嫌いでも、お礼は言わなきゃダメだよ」
「うぅ〜……」
イルアの言葉が効いたようだ。ラティーはレンに向き直って俯きながらお礼を言った。
「あ、ありがとー……ですの」
「……どういたしまして」
恥ずかしがりながらも、ラティーはレンに頭を下げてお礼を言えた。
そしてレンも気をつかってそれなりの対応をしてくれた。
するとすぐにラティーはそっぽを向いて腕を組んだ。
「で、でも、私はレンさんを認めたワケじゃありませんですの!」
「ああ、そうか」
なぜかレンは笑って、何事もなかったかのようにラティーに返事をした。
気を取り直してレンはイルアに向かった。
「隕石の落下地点へ行くんだろう? この町を南に行ったら山脈があるからそこを抜ければ
この大陸の王都に行けるはずだ……それとも宿屋に泊まっていくか?」
とはいっても、今はまだ昼だし一刻を争う事態だ。さすがに宿屋に泊まっている暇はない。
「いや、このままいきましょ。何事も早い方がいいでしょう?」
「そうだな……それじゃ、いくぞ」
イルアとレンは雪が降り止んだ道を踏みしめて、町を出て南に進んだ。
ラティーは後を付いて行く様に距離を置いて飛んでいった。


距離はそんなにない為、すぐに山脈についたがそこを通るために関所があった。
そしてイルア達はその関所で足止めをくらっていた。
「通行所がないとダメだ」
そう言われたイルアは頭をすぐ下げた。
「そこをなんとか――ダメですかね?」
と、顔だけ上げてみる。
「駄目なものは駄目だ」
頑なに動じない兵は、ただイルアを見下ろしていただけだった。
「わ、わかりました……」
通行所は港町まで戻らないと手に入らない。
ダッシャルまで戻っている時間はもったいないし、通行所を発行するまでに三日かかる
と言われている。
関所の見張り兵に追い返されたイルアは関所から離れたところにいるラティーとレンの元へ
と戻っていった。
「どうだったんですの?」
「うぅ……やっぱ通行所がないとダメだって」
イルアはガクリと肩を落として見せた。
「そりゃそうだろう」
腕を組んで目をつぶったレンがため息をはきながら言った。
それを見たラティーは起こった様子で同じように腕を組んだ。
「もー!! あなたが早く気づかないからこんなことになったんですの!」
「とは言ってもな、通行所は発行までに三日かかる。そんな時間などないだろう?」
「まぁ……そう、ですの……」
ラティーもまた、ガクリと肩を落としてため息を吐いた。
「落ち込むな、二人とも。俺にはいい考えがある」
「いい考え、ですの?」
人差し指を顎に当てて、ラティーは頭を傾げた。
「ここの近くにあっち側へ行ける洞窟がある。多少危険を伴うが、そこはしょうがない。
それでもいいのなら、俺が案内してやれるぞ」
「それ、ホント!?」
すぐ反応したのはイルアだった。
「ああ、だが『危険』がある。それでもいいのか、イルア」
「危険は慣れてるから、大丈夫だよ」
「そうか……じゃあついて来い」
レンを先頭にイルア達はその王都側へと抜ける洞窟へと向かった。


「暗いですの〜……」
「今明るくしてやる――聖なる光よ、ホーリーライト」
レンは剣を片手に持ち、呪文と唱えると剣の先に眩しい光が灯った。
そのおかげで、暗い洞窟の中はある程度明るくなった――とは言っても、目が届く距離
だけで危険はどこにあるかはわからない。
「気をつけろよ、危ないからな」
「ねぇ、ちょっといい?」
「ん?」
レンの後ろにいるイルアはとても不安そうな顔をしながら質問を出した。
「さっきから『危険』だとか『危ない』とか言ってるけど……何が危険で何が危ないの?」
確かに、さっきからレンは何が危険とは一言も言っていない。
「すまん、言い忘れていたな……この洞窟にはドラゴン系のモンスターが住み着いている。
そしていつ崩れるかわからない洞窟だ」
「ちょ、ちょっと……え?」
それを聞いたイルアは少し混乱していた。
打って変ってラティーは少し青ざめた表情で冷静に説明し始めた。
「ドラゴン系のモンスターと言ったら、最上級の魔物……そしてそんなものに出くわしたら
命があぶない――でも万が一倒せたとしてもドラゴンは大きいから洞窟自体に響くから
この洞窟が崩れることは間違いなしですの……」
とても正確な説明にレンは驚き、感心したようにほぅと一言いって頷いた。
それを聞いたイルアは少し起こった様子でレンに歩み寄った。
「レン!! なんでそれを先にいわないの!?」
「お前が言ったんだろう? 『危険は慣れているから、大丈夫だよ』って」
「で、でも……それとこれとはワケが違うでしょ?」
「いいから、大きい声で喋ると見つかるぞ」
そういわれたイルアはすぐに黙り、せめて見つからないように声ぐらい出さないように
しようとした。
そしてイルア達は再び歩き出した。
すると、少し進んだところに、やつがいた。
「出たな……お目にかかるのは初めてだ」
「でっかいですのぉ〜」
感心した様子の二人に変わって、イルアはとても驚いていた、というか怯えていた。
足がガクガクと震えて今にもその場に座り込みそうなぐらいだ。
「ちょ、ちょっと〜、早く行こうよっ」
「ん……今、ドラゴンがピクッっと動いた」
と、レンの一言にイルアは
「きゃぁぁぁっ!!!」
大きな悲鳴を発してしまった。
「お、おいっ!! 馬鹿か、冗談だよ!」
「だだだ、だって!」
そんな二人のやりとりを見ず、ラティーは一人ドラゴンを見たまま青ざめていた。
「あ、あの……本当に動いてるですの」
「何?」
レンとイルアはドラゴンの方を振り返ってみてみると、確かに目を開けてこちらを睨んで
いるのがわかった。多分、さっきの悲鳴で起きてしまったんだろう。
「イルア、戦うぞ」
「強いんでしょ!?」
「お前は俺と対等に渡り合えたんだ。倒せるだろう? ドラゴンくらい」
「ド、ドラゴンくらい、ってねぇー……ふぅ、やるしかないのね」
イルアは曲刀を鞘から取り出し構え、レンは片手に持っていた剣を両手で持ち構えた。
そして非戦闘員のラティーはすぐさまどこかへ非難した。
「ちょっと、暗いですの〜……」
「くっ、ならばっ!!」
レンは剣をその場へ突き刺して、呪文と唱えるとその剣全体から光が発せられた。
辺りは先ほどより明るくなり、洞窟全体を照らした。
その代わり、レンには武器がなくなってしまった。
「レン、ちょっと、光はいいけど武器は!?」
「素手で十分だ……来るぞ」
レンは走り出すと動き出したドラゴンへと殴りかかった。
しかしビクともせずドラゴンは尻尾でレンを叩いたが、それはあっさりと回避されてしまった。
「くそっ、こいつは物理じゃ無理だ!」
「じゃあ魔法で――いや、こういうときこそあれね!」
イルアは小刀を腰にある鞘から取り出すと目の前に突き出して構えた。
そして、呪文を唱え始めた。
「我が契約の元、具現せよ……ウィルティー!!」
小刀が青に光りだすと、イルアの周りに魔方陣が表れそこの魔方陣の中だけ突風が吹き荒れる。
イルアの頭上には水が、そしてそれはやがて人の形になり水の精霊ウィルティーが
具現化されて現れた。
『イルアさん、あのドラゴンを倒せばよいのですね?』
「うん、適当にお願い!」
『了解しました』
契約者であるイルアの命令を聞くとウィルティーは剣を構えてドラゴンへと向かっていった。
少し大きな両手剣を両手に持ち、地を滑るようにドラゴンへ。
「招破撃っ!」
レンはまだ素手で攻撃を加えているが、まったく効き目がないようだ。
逆にいつ殺されてもおかしくない状況にある。
『水破斬!!』
ついにウィルティーの斬撃がドラゴンを襲った。水を纏った剣を片手で縦に振り下ろす。
水が音速の速さでドラゴンを切り裂いた。ドラゴンの背中についている羽が、一つポロリと落ちた。
「ウィルティー、思いっきりやっちゃって!! レンはもう下がっていいから!」
『わかりました!』
「御意っ!」
レンが下がったことを確認すると、ウィルティーは再び剣を構え、ドラゴンへ剣を向ける。
と、そのときドラゴンの口から赤い炎が吐き出された。
『ウォータースプレッド!』
地の中から水が噴出し、その炎から身を守るために水の柱と相打ちにさせた。
さすが精霊。反応がいい。
『これで終わりですっ! ――水よ、癒しと共に、我が敵を打ち払わん――』
剣を地面に突き刺し、呪文を唱え始める。
『ウェーブシーウォーターエッジ!!』
どこからか、水が流れ出し、その水はドラゴンを飲み込んだ。そして竜巻が起こり、何がなんだかわからない
状態。まさに最上級魔法。
水が消えると、ドラゴンは消えていた。魔物はたいてい死ぬと消滅する。
「ありがとう、ウィルティー。もういいわ」
『はい、また何か会ったら呼んでくださいね』
そういうと、ウィルティーは何処かへ消えてしまった。
レンは光り輝く剣を地面から抜き片手に持つととても焦った表情をしていた。
「おい、さっきのウィルティーの攻撃のおかげで洞窟が崩れそうだぞ」
「え、ちょ、ちょっと……早く脱出しましょ! ラティーも早く!!」
「はいですのっ!!」
三人は全速力で洞窟の出口へと向かった。途中からだんだんと揺れが激しくなり、所々崩れていたが、そんなものに
かまっている暇もなく、ただ出せる速さで洞窟がつぶされる前に出口へと出た。


続く……

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