第]W話 『優しい笑顔』


イルア達が乗っていた船はついに第二大陸クォルピアの北港町ダッシャルに到着した。
「さ、寒いですのー……」
「そうだね……でも、第一大陸の方よりはまだちょっとだけ暖かいかも」
「私にはあんまり大差ないですのー!!」
小さい妖精の格好をしたホムンクルスとイルアはそんな雑談をしつつ、船から下りてきた。
そして、第二大陸の地を両足で踏む。
「到着、っと」
イルアは船から第二大陸クォルピアへと続く鉄の階段の一番したの壇から飛び、
両腕を横に広げて着地した。
「遅いぞ」
船から降り、目の前にはレンが少し怒り気味の感じに両腕を組んで横目でそんな暢気なイルアと
ラティーを睨んでいた。黒いフードを羽織っているせいか、寒そうな表情はしていない。
「たかが第二大陸に来ただけだぞ。そんなにはしゃいでどうする」
「う……いいでしょ、人の勝手なの!」
「小さいのは相変わらず寒い寒い言っているしな」
「小さい言うなですの!!」
相変わらずの皮肉っぷり。なんだかイルアやラティーは慣れてしまって来ている。
と、突然空から白い粒が一粒、イルアの頬に当たり、それは冷たい液体になった。
空を見上げてみると雪がチラチラと舞い降りてきている。それと白い雪とは対照的な黒い空。
「ね、どこか暖かい場所で話さない?」
「そのつもりだが……お前達、冬なのによくもまあそんな格好で旅が出来るな」
レンはイルアとラティーを交互に見て、小さいため息をついた。
まだ冬の旅を過ごせそうな服を着ているのは、レンくらいだ。
イルアはへそだしルックまでとはいかないけれど、春や秋ぐらいに着そうな少し薄い服、
ラティーは袖がない服に短パンのようなズボン。とても寒そうな服を着ている二人に再び
レンは呆れた。
「話が終わったら服でも買ってやる……」
「本当!? ありがとう!」
喜ぶイルアを見て、少しレンは微笑んで見せたけれど、すぐいつもの表情に戻りイルアの横を
飛んでいる小さい妖精のようなホムンクルスに目をやって見て、不意にとあることに気がついた。
「小さい服があればいいな」
「むぅー、あなたは一言多いですの!!」
「あるのかどうか怪しいくらいだ。というか、ないだろう」
「でも寒いの嫌だですのー!!」
レンの周りを飛び回り騒ぐラティーに、再びため息。
これでもう何回目だろうか、と本人も心の中で思ってしまった。
「お前達といると、ため息しかでない」
「それって、いい意味? 悪い意味?」
イルアが腰を曲げてレンの顔を笑いながら覗き込んでみた。
「どっちもだ」
「何それー!」
すぐ腰に手を当て、頬を膨らませて怒って見せたけれどレンはそれを無視して街の方へと
歩き出した。
「さっさと話が出来る場所にいくぞ」
その言葉を聞いたイルアとラティーはすぐ急いでレンに追いついた。


「いらっしゃいませー」
冬の寒さから一時的に逃れるために来た場所は喫茶店だった。
少し人がいるけれど、ゆっくり話をするのにも丁度よい場所とも言える。
「適当な場所に座ってくれ」
「うん、そうだね」
イルア達は誰も座っていない椅子が4つあるテーブルの場所を選び、すぐその場所へ
座った。するとすぐに店の店員がやってきた。
「ご注文は、なんでしょうか?」
「コーヒーを二つ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
注文はレンが答え、店員はメモ用紙に注文の品を記入すると、スタスタと再びカウンターの
奥へと戻っていった。
「コーヒーでよかったか?」
「うん、私はなんでもよかったから」
「そうか……」
すると、テーブルの上に座っているラティーがいきなり騒ぎ出した。
「私の分はないんですの?」
「……お前は角砂糖を舐めっていれば十分だろ。小さいし」
「お客様、ご注文の品です」
先ほどの店員がトレイに二つ、カップに入ったコーヒーを載せてきた。
丁寧にカップの下には皿がついて、ミルク、砂糖、スプーンまで綺麗に置いた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
お辞儀をすると、再び店員は歩いて何処かへ行ってしまった。
レンはすぐにコーヒーの入ったカップを手に取り、口に含む。
ほのかにコーヒーの苦い匂いが漂っていた。
「……お前ら、これからどうするんだ?」
カップを皿に載せ、レンはイルアを見て言った。
「ど、どうするって……隕石を破壊しに――」
「隕石の特性を知らないわけではないんだろう? 普通の方法では破壊できない」
そう、隕石には近づいた人間をモンスターに変えるという恐ろしい特性を持っていた。
確かイルアが貰った資料にも、詳しくではないけれど書いていた。
「じゃあ、どうすればいいの?」
イルアもミルクと砂糖を入れたコーヒーをスプーンでかき混ぜ、それからカップを手に取り
コーヒーを飲んだ。
「破壊できる方法はある。だが、俺にしか知らない」
本当は知らない。けど、マイが知っているのだが。
「そこでだ……手を組まないか? 俺は前のようにお前に危害を加えるつもりはない。
むしろ、力になりたいと思っている。お前達の他の用事にも付き合ってやる。悪い条件
ではないと思うんだが……」
いきなりそんなこと言われても、イルアは協力する気にはなれなかった。
あのとき、戦いを仕掛けてきたのはあっちだ。とても安心して一緒に旅を出来る人ではない。
「で、でも……」
「あのときは悪いと思っている」
「本当ですのぉ〜?」
疑わしそうにラティーはレンの目の前へ飛んで睨みつけた。
するとレンは柄にもなく頭を下げた。
「ああ、本当だ」
「……むー、怪しいですの」
「わかった、いいよ。そこまで言うなら」
レンは下げていた頭を上げてイルアのほうを見てみると、彼女は微笑んでこちらを見ていた。
仕方がない、といった様子もなくとても作った笑いではないということは見ていればわかる。
「ありがとう」
そのイルアの笑顔につられて、レンも笑った。
自然に、普通に笑うつもりがないのに、笑った。
(なんだ……これが、光の心、なのか?)
光の心の本当の意味を知らないレンは、イルアを見て初めて知った。
それがどんなに温かい心、優しい心なのか。
「さてと……」
レンはコーヒーを一気に飲み干すと、すぐに立ち上がった。
「服を買ってやるから、さっさと行くぞ」
「うん!」
「はいですのー!」
コーヒー二杯分のガルドを払うと、イルア達は服屋へと向かい、冬の季節でも普通に
旅が出来る温かくて軽い服装へと変えた。


続く……

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