第]U話 『悲しい記憶の夢』
イルアは真っ暗の中、一人立っていた。
多分先ほど眠りについたので夢の中だろう。
「あの人は……」
目の前にいたのはこの間夢に出てきた黄色い髪の少女。
確か、ゲイザと話していたときミリアと名乗っていた子だ。
あの時と同じように、イルアから少しはなれたところだけ空間が違うかのように
風景が見えた。しかし自分のいる場所は真っ暗のままだった。
目の前にある風景は風が涼しそうな街。すぐ下には川が流れている。
「涼しくて気持ちいいね!」
黄色い髪をなびかせてミリアはゲイザの顔を覗き込み微笑んで見せた。
「そうだな」
ミリアとゲイザは川沿いに歩いていた。
すると、突然ミリアは少し悲しそうな顔をしてうつむいて呟いた。
「このまま、この時が、この平和が続けばいいのに……」
「どうした?」
ゲイザはミリアの横顔を見たが、いつもより元気がないみたいだった。
「あ、いや、別に……そうだ、ちょっと座れる場所で休憩しましょう」
ミリアは走って橋のかかってる道に造られたベンチに座った。
遅れてゲイザもミリアの隣に座った。
すると突然、ミリアがこんなことを聞いてきた。
「ゲイザ、もうちょっと親しくなってもいい?」
「親しく?」
ミリアがゲイザの顔を覗き込んで笑っていた。
先ほどの暗い表情が嘘のようなくらい明るかった。
「普通に喋ってもいい?」
「構わない。元からな」
相変わらずゲイザはぶっきら棒にミリアの顔を見ずに呟くように言った。
「やった!」
ミリアは嬉しそうに笑った。
つられてゲイザも少し笑ってしまった。
「私ね、色々考えてたの、ゲイザと出会う前――これからどうすればいいのかって。
私は命を狙われて、それで知ってる人も誰もいない。守ってくれる人も誰もいない」
そういったミリアはさっきより明るくはなく、少し悲しい顔をしていた。
それは、不安や寂しさを物語っているようだった。
「そこでね、ゲイザに会ったの。嬉しかった……見捨てないで、私を守ってくれると言ってくれたとき。
あのときね、ちょっと泣きそうになったの。嬉しかったから――」
ゲイザはミリアの顔を見ると目に涙が溜まっていた。
今にも零れ落ちそうだ。だけどミリアは涙を拭わないで話を続けた。
「一人で寂しかった。誰かに助けて欲しかった。だから、私は私を守ってくれるゲイザが好き。
これからも、ボディーガード、やってくれるよね?」
ミリアが泣きながらゲイザを見つめる。
そしてゲイザは笑ってこう言い返した。
「何言ってるんだ、当たり前だろう? 約束したからな……何があっても守り通す。
それがボディーガードだ」
泣いているミリアにゲイザはハンカチをあげた。
「また、ミリアっていう女の子とゲイザの思い出……なんなの?」
イルアは少し不満そうに言った。
あの女の子の方がゲイザと一緒にいた時間が長いに決まっている。
少しだけ、イルアの心の中には嫉妬心があった。
「でも……ゲイザ、ちょっと違うな」
さっき見せられた夢でのゲイザは、どこかいつもより暗い感じだ。
なんというか、人との会話が不慣れ。
「いつから変わって行ったんだろう……」
そんなことを暗闇の中一人で呟いていると、どこからか音が聞こえてきた。
『光は――』
暗闇の中から、少女の声がする。どこかで聞いたことのある声。
「誰……?」
『信じる心、優しさの心』
目の前に、黄色い髪の少女が立っている。
暗闇の中でもはっきりとわかる黄色い髪。白い服。しかし、胸にペンダントがかけられていない。
自分の胸を見てみると、しっかりペンダントがあった。
『あなたは、光の心が強いわ』
ミリアはゆっくりとイルアの方へ歩み寄ってきた。
間近で見ると、とても綺麗な女の子だ。少しイルアより背が小さい。
するとそっとイルアの胸に手を置き、触れた部分から少し弱い光が放たれた。
「光の、心……?」
『闇の心は憎しみの心。破壊の心……』
ミリアは何を物語っているのかは全くイルアにとってはわからないことだった。
でも、少しだけ、なんとなくわかる。
光の心と闇の心。
『ゲイザには、もう光の心はない』
「え……どういうこと?」
ミリアは近くで囁いた。しっかりと、その言葉はイルアの耳に届いた。
『闇の心しか、ないの』
先ほどの少女の言う通りだと、闇の心しかないゲイザは人を憎しみ、破壊する人間。
ゲイザはそんな人になってしまったということなのだろうか。
『ゲイザに――マインドオブライト(光の心)を――』
そういうと、黄色い髪の少女は消えてしまった。
「何、何なの……闇の心って何? マインドオブライトって……ゲイザは――」
イルアの言葉はかき消され、辺りは白い光に包まれてしまった。
「イルアさん、起きるですの!!」
「ん、ん……?」
目を開けて見ると、そこにはラティーが目の前で飛んでいた。
「やっと起きたですの……ルアグ博士が呼んでるですの、早く起きるですの!」
「う、うん……ちょっと寝すぎたかな?」
イルアは目を擦るとすぐにベッドから立ち上がり、壁に立てかけておいた曲刀の入った鞘を
腰に下げた。
「それじゃ行こう、ラティー」
「はいですの♪」
少しさっきの夢での出来事が気になるけれど、そんなのいつだって考えられるから。
イルアはそう心の中で呟いてから、ルアグ博士の待つ部屋へ向かった。
研究室に行ってみると、椅子に座って資料を見ていたルアグ博士がイルアとラティーに気づいて
椅子から立ち上がった。
「やっと起きよったか、娘っ子」
「おかげさまでグッスリ眠れました」
「ほれ、まあ椅子に座れ」
イルアはルアグ博士の近くにある椅子に座った。博士も再び座っていた椅子に座った。
そして机の上から先ほど見ていた一枚の紙をイルアに渡した。
「昨日の隕石落下地点がその紙に書いておる。第二大陸クォルピアに落下したようじゃの……」
第二大陸クォルピアは元々イルアとラティーが目指していた大陸だ。
もしかしたら――そんな想いがイルアの胸を過ぎった。
「ということは、一石二鳥ということじゃの」
「じゃあ――」
「若造がいないということは否定できん。しかしのぉ……」
ルアグ博士は何か言いかけたけれど、イルアを一瞬見て言うのを躊躇った。
もしかしたら、傷付くかもしれない、そんな言葉だったからだ。
「まあ、実際に会ってみないとわからんがの。ほれ、そうと決まったらさっさと行くんじゃ」
そういうとルアグ博士は机に向かって資料を読み始めた。
「それじゃ、ルアグ博士。行ってくるですの♪」
「いってきます」
イルアとラティーはそのまま研究所から出るドアに向かい、そのまま外へ出た。
姿が消えたことを確認すると、ルアグ博士はため息をついた。
「科学でも、魔法でも……人の心を変える事は出来んのじゃよ……特に、闇に染まった心を、
再び光にするというのはもっと無理な話じゃ。娘っ子は、あの若造を見たら――」
言葉を切ったルアグ博士は再びため息をついた。
続く……
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