第]T話 『新たな危機と旅』
イルアとラティーはピューウラ村から南へ少し離れたところにある草原の
真ん中にいた。
そして空を見上げていたとき、異変が起きた――
「なんか、違う……いつもの空じゃない」
いつもと同じ、青い空。だけど、いつもとどこか違う感じがした。
空を見上げると、心が晴れるように軽くなるのに、今日はなんだか心が曇る。
晴れているのに。
『邪気が――来る』
「えっ?」
一瞬、胸にあるミリアのペンダントが光り、どこかで聞いたことのある声が聞こえた。
女の子の声が途切れていたけれど確かにイルアには聞こえた。
どうやらラティーには聞こえていなかったようだ。
「イ、イ、イ、イルアさん!! あ、あれ、あれを見てくださいですの!!」
とても慌てた様子で肩の上に乗っているラティーが空を指さして騒ぎ出した。
「な、なんなの?」
「何かが落ちてくるですの!」
空を再び見上げてみた。
すると、赤く燃えたものが、こちらへ落ちてゆくのが見えた。
落下していく隕石にしか見えない。
その隕石はこちらへは落ちてこない様子だったけれど、マルディアグの何処かに落ちよう
としていたのは確実だった。
「こちらには落ちてこないようですけど、なんだか嫌な感じがするですの」
そして、その隕石がどこかに落ちた衝撃で辺りが地震のようにぐらついた。
あまり大きな揺れではなかったので、倒れたりはしなかった。
「ラティー、これってもしかして『世界の危機』に何かしら関係があるかもしれないと
思うんだけど」
少し難しそうな表情をしたイルアが、空を見上げながらラティーに聞いてみた。
「んー、一番いい方法が、一つだけあるですの……ルアグ博士に聞いてみたほうが一番
詳しく教えてくれる気がするですの。なので、一旦ルアグ博士の研究所へ戻ってみましょう
ですの!」
「そのほうが良さそうね……それじゃ、ルアグ博士の研究所へ行きましょ。
ここからそんなに距離もないし、一刻を争う事態だと思う」
「はいですの!」
二人はこの草原からそう遠く離れていないとおもわれる、ルアグ博士のもとへ急いだ。
どこかの山の頂上にある遺跡の入り口。そこにレンはいた。
「マイ……マイッ!」
ポケットから放たれる黒い光。レンはすぐさまポケットから黒く輝く黒い宝石を手に取った。
さっきまで、その黒い宝石に入っていた人格、少し物静かで暗い女の子、マイが話していた。
けれど黒い光が放たれた途端に、その声は消えてただ黒い光を放つだけだった。
「なんだ……何かが来る」
レンにも感じることができた。マイが『邪気』と言っていた、それを。
空を見上げてみると、一つ、赤く輝くものがこちらへ落ちてくる。
「隕石……なのか? いや、あれは隕石じゃない。普通の隕石じゃない!」
その隕石はついに空から姿を消し、マルディアグの何処かへ墜落した。
隕石の墜落音が確かに聞こえのだ。しかしどこに落ちたかはわからない。
すると、隕石が墜落すると同時に突然手の中にある黒い宝石から発せられてた黒い光が
消え去った。
『――……レンさん、あの隕石を壊さなければ大変なことになります』
意識が戻った早々、マイは真剣な声でレンにそう言った。
「大変なことって、なんだ?」
『あれには――あの隕石には魔物を増殖させる力、そしてその隕石に触れた人々を魔物に
変えてしまう力を持った隕石です』
その言葉を聞いたレンは言葉を失った。
なぜ、そんな物騒なものが落ちてきたのか。
そんなものが落ちたら、マルディアグは滅亡してしまう。
魔物達の手によって……
「どうすればいいんだよ!」
『ワタシ達が壊しに行きましょう。それしか方法はありません』
「それしかって……隕石を壊せるのか?」
肉眼で確認できるほどの大きさだったはずだ、とレンは先ほど見た光景を思い出してみる。
といることは、その壊そうとしている隕石はかなりの大きさだ。
『手段はあります。一つだけ……』
「なんだ、その手段というのは」
『今は一刻を争うときです。早くその隕石の元へ向かいましょう』
「あ、あぁ……」
なんだか隕石を壊す手段を聞いたのにマイにはぐらかされたとレンは思った。
「落ちた方角から言うと、第一大陸ではなさそうだな……第二か第三のどちらかだ。
しかし第一大陸から出る船は第二大陸にしか向かえない。そうなると、必然的に第二大陸
を目指さなければいけないか」
『それでは、向かいましょう』
レンは黒い宝石をポケットの中へ再びしまうと、その厄介な隕石をぶっ壊すために第二
大陸を目指した……
「博士ー!!」
元気がいいのか、急いでいるのかはわからないけれどラティーは大きい声で
ルアグ博士のいる研究所へ入っていった。そして少し遅れてイルアも入ってきた。
「これまた帰りが早いのぉ」
「それにはワケが――」
「わかっておる」
イルアの言いたいことをすでにわかっているかのようにルアグ博士は頷いた。
「あの隕石のことじゃな」
「そうですの!」
「ちょっと待っておれ」
ルアグ博士はそういうと、書類が沢山置かれている机まで言って、積み重なっている紙の
一番上を取り、再びイルアとラティーの元へ戻ってきた。
そしてその紙をイルアに渡した。
「それを見てくれ。詳しい説明はワシがする」
イルアは渡され紙を見てみた。とても小さな字がずらーっと並んでいる。
ラティーもイルアの肩の上に乗っかって一緒にその紙を見た。
「そこに載っているのは先ほど落ちた隕石の分析結果じゃ」
確かにそれらしきことが書いている。隕石の大きさ、どこに落ちたかなどもしっかりと
記入されていた。
「娘っ子。お主が言っていた世界の危機が訪れたかもしれん」
「えっ……どういうことですか!?」
「それはその隕石の効果……魔物を増殖させる力と人を魔物に変える力。今、すでに魔物
の増殖は始まっておる」
魔物がこのマルディアグに溢れかえれば人は魔物に殺される。
確かに危機だ。
「じゃあ、どうすればその隕石は壊せるんですか!?」
「壊すことは不可能じゃ。近づけば人は魔物に変わる。ホムンクルスも同様じゃ」
「そんな――そんなことって」
イルアは俯いた。胸にあるペンダントが視界に入った。
もしかしたら、このペンダントが教えてくれるかも、と期待はしてみたけれど
そんなのは絶望的だった。
(ゲイザ……私、どうすればいいの? 教えてよ)
ゲイザがいたら、彼はどうしていたんだろう。
ふいにそんなことを考えた。彼がいたら、何か手段はあったんだろうか。
(ゲイザなら……)
そう考えている間、研究所の中は沈黙に包まれていた。
「無理にお主らがやることでもなかろう。特に娘っ子、壊すなんて事するんじゃ――」
「私、行ってきます」
「ちょ、ちょっとイルアさん!!」
突如にイルアは俯いていた顔を上げて何かを決意した表情をしていた。
「もしかしたら、強い魔物もいるかもしれないんですよ? 壊すにしても魔物になっちゃう
かもしれなんですよ!? なんで行くなんて――」
肩から飛び、イルアの目の前にいたラティー。
イルアはラティーに微笑んで見せた。
「だって、ゲイザだったら――絶対行くって思ったから。絶望的に無理だとしても、彼は
必ず行くって言う。だって、その隕石によって苦しむ人々がいるのに、放っておけない
でしょ? だから、行くの」
微笑んでいるイルアには迷いはなかった。
「うむぅ……わかったわかった。娘っ子の勝ちじゃ、ほっほっほ」
ルアグ博士は笑い出した。多分、イルアの『ゲイザなら』という考えに笑ったんだろう。
「危険な旅になるじゃろうから、一晩ここで泊まって行くんじゃ。よいな?」
「はい」
「はいですのっ!!」
二人は研究所の奥にある客専用寝室へ向かい、すぐ眠った。
そしてイルアは新たな旅へ向かう――
続く……
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