第T話 『決意、そして仲間』
あれから、数日。
ゲイザがみんなの目の前から姿を消して、もう1週間は経とうとしていた。
彼らがグラティームからマルディアグへ来た時は、山の緑は赤や黄色に
色づいていたが、今では一面銀世界となっている。
雪が降り始めたのは、イルアが永遠の眠りについたときだった。
そして、再び目を開けたときには体に染みる寒さが、体全体に広がる。
「私……なんで、ここ、に?」
自分の両腕を抱えるようにして体を温めながら、
今自分のいる場所を確かめるために辺りを見渡した。
今にも崩れそうな、家。
ホコリのかぶった机の上には、笑っている女の人と無邪気に笑っている女の子が
写っている写真が、飾られている。
「ここは、私の家……」
ホムンクルスとして産まれて、母親のようにしてくれた人と一緒に住んだ
家。ということはセントグラームの町外れ。
最後に来たのは確か、一時的に記憶がなくなっていたとき――そう、
ゲイザ達と一緒にセントグラームへ来たときだ。
……と、そとのきイルアはふととある事を思い出す。
「ゲイザ……?」
最後に目と閉じたのは、ディメガスを倒した、あの要塞の中だったはず。
しかし、今はこの家にいる。そして、ふと自分の胸に目を移した。
「これは、ゲイザがかけていたペンダント?」
いつの間にか、首に黄色い宝石に羽が生えたペンダントがかけられていた。
これは、ゲイザがいつもかけていたペンダントだった。
「ゲイザ、なんで……私、永遠に目を覚ませないはずなのに」
これ以上ここで考えていても、時間の無駄だと思ったイルアは、
寒さを堪えながら家の外へ出てみた。
扉を開けて見ると、辺りは太陽の光が反射して眩しい。
その反射しているのは、真っ白な雪だ。
家の前には一人分の足跡がある。きっとゲイザの足跡……
確信は出来ないけれど、イルアはそう思った。
セントグラームだとわかった今、その事実を突き止めるために行くべき場所は
もうわかっていた。
イルアは寒さに身を震わさず、少し重い足取りで冷たい風のなか、街とは反対方向の
森の方へ歩いていった。
「博士ぇ……ゲイザさんは一体どこにいっちゃんたんですの?」
今にも泣きそうな顔で、ラティーはルアグ博士の白衣にしがみ付いていた。
ゲイザがいなくなってから、この研究所にはラティーとルアグ博士しかいない。
マルディアグに残ったキシュガルとリュアは再び旅に出て、タクスやデュッセル達は
転送機でグラディームへと帰っていってしまった。それに眠りについていたイルアの
姿も見当たらない。しかし、ラティーはこれからもゲイザについていこうとしていたらしく、
置いていかれてしまったと思い、悲しい想いをしていた。
「あの若造は……もうここへ戻ってはこんじゃろう」
ラティーと視線を合わせるのが辛いためか、ルアグ博士はひげを撫でながら窓ガラスの外に移る
銀色の雪景色をただ眺めていた。
と、そのとき、その雪景色のなかに一人、見覚えのある一人の少女を見つけた。
「あの娘っ子は……」
「えっ……?」
ルアグ博士の言葉を聞いたラティーは、しがみ付いていた白衣を手放しその窓ガラスの奥に
写る景色を見た。そして、ラティーはゆっくりその窓ガラスに飛んで近づいていく。
「イルア、さん……ですの」
眠りについて、気づいたときにはゲイザと共に行方を暗ましていたイルア。
一生起きている姿を見れないと思ったラティーはその光景を見て驚く。
「若造、やりおったか」
一方ルアグ博士の方は、イルアのことよりゲイザのほうを心配しているようにため息をついた。
そしてイルアはルアグ博士の研究所へとドアを開けて入ってきた。
「イルアさんっ!!」
ラティーはすぐさまイルアの胸へ飛び込み泣きついた。
小さい手で少し冷たい服にしがみ付く。
「イルアさん、イルアさんっ……! おかえりなさいですのっ」
「……ただいま、ラティー」
イルアは微笑んで自分にしがみ付いているラティーに帰ってきた挨拶をした。
「娘っ子。お主……なんで眠りから覚めれたのか、知っておるかの?」
いきなり言われたルアグ博士の問い。
本当のことをいうと、知っている気がするけれど、イルアはあえて
「いいえ……知りません」
と、ルアグ博士の問いを返した。
真実が知りたかったから。知っているといえば、それで終わってしまうと思ったからだ。
その答えを聞いたルアグ博士は、ひげを撫でながら、話し始めた。
「わしは、お主を助けられなくて悔やんでいた若造を見て、お主を助ける、唯一の
方法を教えてやったんじゃ」
「ゲイザさんが、イルアさんを助けたんですの……そのペンダント」
イルアの胸にある、ゲイザがかけていたペンダント。
ルアグ博士とイルアにはわからなかったけれど、ラティーにはなんのペンダントかわかっていた。
ラティーの意味深な発言をあえて無視して、ルアグ博士は話の続きをした。
「しかし、使用者は自分の記憶を忘れる代わりに、ホムンクルスを人間に帰る禁断の魔法、
『レイズデッド』を使用したのじゃろう……それほどまでに、お主を助けたかった、というわけじゃな」
「じゃあ、じゃあゲイザは……どこにいるんですかっ!」
その事実を知ったイルアは、ルアグ博士に大きな声で問う。
しかし、そんな事ぐらいイルアにはわかっていた。認めたくなかった。
「マルディアグのどこかにいるか……多分じゃぞ」
マルディアグのどこかにいる……この世界のどこかに必ずいる。
イルアは泣きたい気持ちを抑え、胸にあるペンダントを両手でそっと押さえた。
「私……っ」
自分の思いを言葉にしようと思ったけれど、途中でやめた。
これは自分の問題だ。
自分のせいで、ゲイザは消えてしまった。
だから、人には迷惑かけたくない。
「イルアさん」
ラティーが、真剣な声で話しかけてきた。
「探すんですね、ゲイザさんを」
「……………ええ。私のせいだもの」
「なら、私もお供しますですの」
「……………」
イルアは黙り込む。ついさっき、心の中で決意したばかりだ。
他人に迷惑はかけない、と。
そのラティーの言葉を受け入れ受けなうように、俯いて返事を返した。
「ダメよ……これは私のこと。だから、私でなんとかしたいの」
「イルアさん――それは、間違ってるですの」
「えっ?」
ラティーの申し出を否定したイルアの意見は、違っていると言われた。
イルアは顔を上げてラティーを見てみた。
今にも泣きそうな顔をしている。
「私、もう他人じゃないはずですの……他人じゃなくて、仲間……ですの」
「ラティー……ありがとう」
ラティーの言葉が、嬉しかった。
本当は一人じゃどうしようもないと思っていた。
それに、仲間という頼れる人がいたことを、イルアは忘れていた。
「そうね……探そう、一緒に。ゲイザを」
「はいですのっ!!」
二人の決意を遠くから見守っていたルアグ博士はタイミングを見計らっていたように
話に割ってはいってきた。
「お主、旅をするのはいいが……身を守る武器がないぞい」
「あっ」
つい最近、ゲイザ達と一緒に旅をしていたときはゲイザが形見と行っていた小刀で
戦っていたけれど、今じゃもうその小刀はなく、戦う武器はなかった。
「わしが倉庫から使えそうな道具をだしてきてやる、ちょっと待っとれ」
そう言ってルアグ博士は奥の部屋の中へと入って行った。
多分、イルアに使えそうな武器を持ってくると思っていた。
しかし――
「持ってぞい」
持ってきたのは剣だ。しかも、細身の曲刀。
倉庫にしまっていたとは言いがたい、とても綺麗な輝きをおびていた。
「この剣はわしのお気に入りじゃ。使わないのも勿体無いのでな。使ってくれ」
その曲刀を鞘にしまってイルアに渡す。
多少重みはあるけれど、思っていたよりは重くない。
「ありがとうございます」
イルアは丁寧にお礼を言い頭を下げてその鞘を受け取った。
「これで旅ができるの……だが、疲れているじゃろう?今日は泊まっていくといい。
それからでも遅くはなかろう」
「はい、お言葉に甘えます」
「甘えるですのっ!」
そして、一人の少女が一人の少年を助ける旅――
また、光の少女に導かれていく旅がはじまる……
続く……
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