第U]話「ミリア」


ゲイザとマイは刹那の洞窟から出ると、ミリアとスレイドがいた。
「許しを得たか」
スレイドはゲイザの腰に下げていた2本の剣を見ていった。
聖剣ラスガルティーと邪剣ザオグガーズ。
二つの剣は光の精霊と闇の精霊に貰ったものだ。
「なんで、スレイドさんがここに?」
「うむ、話があってきた。立ち話もなんだ、イファムに行って話そう。
闇のドールもお疲れのようだしな」
ゲイザはマイを見てみると、フラフラしてやっと立っている状態だった。
「そんなこと、ありません……」
「無理するな、いいからとりあえずイファムに戻るぞ」
ゲイザ達はスレイドに連れられ、イファムへと戻った。

イファムに戻ったゲイザ達は宿屋に泊まった。
そして、宿屋の部屋でスレイドはゲイザ達に大切な話があるといい、
みんなを集めた。
「お前たちに頼みたいことがあるんだ。
ファムレイグ……この国の王は世界を破壊しようとしている」
「破壊? なんでだ?」
「野望というやつだろう……その計画にはドールの力が必要らしい。
だからミリアを襲っていた。元々、ミリアを眠りから覚まさせたのは他ならぬ
アイツらだからな」
「えぇ!?」
ミリアは驚いた。確かに、自分が何もので、何故追われていたのか。
そして昔の記憶もなかった。
「マイは、ガラドという男がお前の眠りを覚まさせた」
「……やはり、そうだったのですか」
マイも無表情だが、心の中では驚いていた。
「そして、ドールの力を必要としている今、お前らが狙われているということ
となる。そこでだ。ファムレイグの城へ攻め込み、ヤツを潰す」
「なぜ、わざわざ倒しにいかなきゃならない?しかも俺達が」
ゲイザは不信に思った。狙われている自分達が、わざわざ敵の中へ乗り込むなんて。
「あいつらは、お前たちの力じゃないと勝てない……頼む」
スレイドは頭をゲイザ達に下げた。
「し、しかし……」
「私は、協力してあげたいな」
ミリアがいった。
「ワタシも、ミリアさんと同じ意見です」
マイも、続いてそういった。
「なぜ、協力したいと思った?」
ゲイザは協力に賛成したミリアとマイに質問した。
スレイドに頼まれた事は、狙われている敵の中へ向かう。
自らの身を危険にさらすこととなるのだ。
「なぜって――悪いことをしようとしてるから、かな」
「そうですね。野望は闇の心が生み出すものですから……この仕事は、
ワタシ達にしかできないものだと思います」
ゲイザはため息をついた。精霊に会って、次は敵の城に乗り込むというのだ。
しかし、自分だけの気持ちだけでいまさら彼女達の気持ちを動かせるものでもないだろう
とおもったゲイザは、協力することにした。
「わかった、協力する」
「そうか、助かる……それと、後一つ。ゲイザ、この世界にはまだ会ってない
精霊がいるだろう? その精霊に会って来い」
「理の精霊、だったか?」
「ああ、そうだ。そうすれば、お前の想いを力にできるある物がもらえる」
そういうと、スレイドは部屋から出ようとした。
「俺は先に敵の城へ向かう。頼むぞ」
そういうと部屋から出て行き、グランシルへ向かった。

夜。
村には人の影はまったくなくなっていた。
ゲイザは涼しい風が微かに吹く外を歩いていた。
そして池の近くにあるベンチに腰を下ろした。
「ふぅ……精霊と会って、次は敵大将を倒せ、ってか」
「ゲイザ。どうしたの? こんなところで」
後ろを振り向くとミリアが立っていた。
「ねぇ、隣、座ってもいい?」
「あぁ」
ゲイザがそう言うとミリアはゲイザの隣に座った。
「前も、一緒に座ってお話したね……」
「そうだな」
それは水の都市、ミネアにいたときのことだった。
あのときはとっても大変だった。
ミリアが捕らわれて、ラムダと戦った、あのとき。
「ねえ、ゲイザ。なんでスレイドさんが頼んできた件、断ろうとしたの?」
「当たり前だろう。敵の中へ突っ込んで敵大将を討てって……それでなくても狙われてるかも
しれないんだぞ?ミリアは不安じゃないのか?」
するとなぜかミリアはくすくすと笑ってゲイザの方を見た。
「そんなの、不安じゃない方がおかしいよ。でもね、マイちゃんも私も……
ゲイザがちゃんと守ってくれるって、信じてたから」
「しかし、俺は――現に守りきれてない」
ゲイザはため息をついて俯いた。しかしミリアは
「いや、それは違うよ。ちゃんと守ってくれてる……光の精霊さんと戦ったときも、
ちゃんと守ってくれたし……それにね」
そう言いかけて、ミリアは暗い空に広がる無数の星をみた。
「どんな形であっても、ゲイザとの思い出、作っておきたいの。
それが戦いでも、悲しいことだったとしてもできるだけ多く、ゲイザと一緒にいる思い出を」
「ミリア……」
「なんだか、変なこといっちゃったね。大丈夫――私は、ずっとゲイザのそばにいたいだけだから」
ゲイザはミリアを抱きしめた。
何も言わないで、そのまま力強く……
「守る。何があっても――俺も、ミリアとずっと傍にいたいから……」
「ありがとう、ゲイザ……」

ミリアは泣いていた。そして、ゲイザを力いっぱい抱きしめていた。
「何もない私に、守ってくれるっていって……それに、人じゃない私に」
「関係ない。人とか、ドールとか……俺はミリアが好きだから」
「ゲイザ――私、私っ……!!」
「もういい。今まで溜めていた分まで、泣け……泣きたいときに泣かないと、
笑いたいときに笑えないから――そのかわり、俺が泣き終わるまで傍にいてやるから……」
真実を知ったとき、自分が人じゃないと知ったときの恐怖……
そのときの涙。
ゲイザと離れ離れになったときの悲しみ……
そのときの涙。
そして、ゲイザと一緒に――ずっと一緒にいたい望み……
その悲しみをミリアは溜め込んでいた。
暗い夜、無数の光る星の下、
ミリアはずっと泣いていた。


続く

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