第U話『謎の暗殺者』
ゲイザとミリアは今、ゲイザの家にいた。
旅立つための準備をしているようだ。
「食料、ガルド(金)。あとは武器……っと。
これをリュックに入れて……」
持ち物をすべてリュックに入れると、剣の入った鞘を背中に巻きつけた。
そしてその鞘の上にリュックを背負った。
「ゲイザさん、あの……外に出ませんか? お見せしたいものがあるんです」
「ああ、いいけど……」
そういうとミリアはゲイザの手を掴み、外に出た。
「これ、見てください」
ミリアが手に持って見せてくれたものはペンダントだった。
黄色の宝石の周りに白い羽がついている綺麗なものだった。
「綺麗なペンダント……ちょっと見せてもらってもいいか?」
「あ、まって!!」
ミリアが止めたときにはもうゲイザが手に持っていた。
その瞬間、白く眩しい光を放った。
なぜだかゲイザには暖かく、何か特別な力と温もりを感じられた。
「そんな――すごい……他の人が触ったら、拒否反応が起きるのに……
もしかして、あなたは」
そういってミリアはペンダントを胸に当てて後ろを向いた。
「なんでこんな光がでるんだ? このペンダントはいったいなんだ?」
ミリアがぶつぶつ何かを言いながら下を向いていたので、ゲイザはミリアの肩に
手を置いた。ふと、我に返ったように顔をあげるとミリアはゲイザの方を向いた。
「あ、すみません……えっと、このペンダントは不思議な力が宿ってるんです。
今、私たちがどこに行けばいいか、その答えを知っている……多分、ですけど」
ペンダントをミリアに返したゲイザは少し大人しく見守ることにした。
ミリアは胸にかかっているペンダントに両手を添えた。
「私たちはどこへ行けばいいのか、教えて……」
すると、どこからか声が聞こえたきた。
「王都……ライ、ラ……ズ」
「王都、ライラズ……?」
ミリアが小さい声で呟いた後、ゲイザも同じことを言った。
「え……き、き、聞こえるんですか、さっきの声が――すごいです!
普通の人だと聞こえないのに……」
ミリアは吃驚しているゲイザに笑いかけた。
笑いかけられたゲイザも、よくわからなかったが苦笑した。
「ゲイザさんにはすごい力を感じます」
「そうなのか……?」
自分の体を見たが、よくわからなかった。
(二刀流もうまく使いこなせないのに、俺なんかが……?)
「とりあえず、目指すは王都ライラズだな。こっから南東に位置する。
この先のラミアズ村を抜けて、南東にある森を抜けるんだったな。
よし、行こうか……ミリア。それに、俺のことは呼び捨てにしていいぞ」
と、ゲイザにそういわれるとミリアは何故かとても嬉しそうな顔になった。
「うん、行きましょ! ゲイザ!」
ゲイザが歩いていくと、ミリアはその後ろを付いていった……
ラミアズ村。
「タクス……」
ゲイザが村の出口でそう呟いた。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない……さあ、行くぞ」
タクスに一言声をかけていこうと思ったが、関係ないことに巻き込みそうだし、
別れるのはつらいので声をかけずにラミアズ村を通っていった。。
そして王都へ向かうために通らなきゃいけない所。
ディーファの森の前についた。
森の中はモンスターが結構いるので心配だが、こうも言ってられない。
「ミリア、いけるか? この森にはモンスターが沢山いる」
するとミリアはゲイザを見て両手を背中に回して笑った。
「大丈夫です! ボディーガードもいるし、一応私も魔法は使えるんですよ?」
得意げに両手を腰に当て威張ったようにミリアはいった。
「なら、多分大丈夫だろう……いくぞ」
そういってゲイザが先頭に立って歩いた。
道に迷わぬように、魔術羅針盤を片手に持ってすいすいと進んだ。
もうそろそろ出口だろうというところにさしかかったとき、
「キキィー!!」
「モンスター!? ミリア、いくぞ!」
「うん!」
ゲイザは鞘から剣と小刀を抜き、ミリアは胸にかけていたペンダントを白い杖に変えた。
(すごいペンダントだ……!そんなこともできるなんて――っと、それより、
モンスター! なんのモンスターだ?)
目の前にいたのはゴブリンだった。人型のモンスターだが、
大きさは1メートル弱といったところか。
「くらえ!!」
ゲイザが剣と小刀の斬撃をゴブリンにあたえた。
「これで止めよ! アクアエッジ!」
さらに、ミリアが水の塊がゴブリンに向かって飛んでいき、水圧でゴブリンは押しつぶされた。
そしてゴブリンはぴくりとも動かなくなった。
「やった……のか?」
と、そのとき――
近くで何者かの大きな足音がするのを聞いた。
「まだいるみたい……それに、次は大きいわ!」
そこに現れたのは岩の巨人、ゴーレムだった。
ゴーレムはゲイザ達を見て、敵と判断したらしい。
「テキ、タオス……」
「逃げるわけにはいかないようだな!」
ゲイザが剣を構えなおしたとき、ゴーレムの大きな腕が振り下ろされた。
避ける暇もなく、一瞬の出来事だった。
「ぐはぁっ!」
「ゲイザ!!」
振り下ろされた腕はゲイザに直撃しものすごい勢いで吹っ飛ばされ、
近くの木に叩きつけられた。
ミリアは吹き飛ばされたゲイザの所まで走っていった。
「癒しよ、集え。ヒール……!」
ミリアはゲイザの手に杖を当て、眩い光を浴びさせた。
すると、体中の痛みが消え、立てるようになった。
「体中の痛みが消えた? すごいな……」
「えへへ。癒しの魔法! ってやつだよ!」
ゲイザはミリアの癒しの魔法、ヒールのおかげで再び戦うことが可能になった。
地面に落としてしまった剣をゲイザは拾い上げると片手で柄を握り締めた。
「それよりやつの攻撃は一撃一撃が重い。一気にケリをつけるぞ!」
「でも、どうやって?」
「複合技だ! ミリアの術と、俺の剣術を合体させるんだ。
相手は岩。ならば水の術が効く!」
「わ、わかった!」
ミリアはそういうと、気を沈め、精神を集中させた。
そしてゲイザは小刀を構え、いつでもゴーレムに攻撃できる態勢をとった。
「そのままゴーレムに放て!」
「水よ、敵を滅せよ! アクアスパイラル!」
水が竜巻をつくりながら、ゴーレムを目がけてむかった。
「今だ――ウェンテ(風よ)!!」
ゲイザの一言で、疾風が起きた。
「とうっ!!」
地面を蹴ると、その疾風に乗ったかのように宙を飛んだ。
ゲイザは水の竜巻の中に飛び込んだ。
「水神、疾風撃!!」
水撃とゲイザの突きが同時にゴーレムの腹の割れ目に突き刺さった。
ゴーレムはその一撃でバラバラに崩れて岩になった。
「や、やった……寒いけど」
ゲイザは水浸しになって立っていた。
「風邪ひきますよ?タオルは……ないや」
「じゃあ早くここを出よう。もうちょっとのハズだからな。
さあ、早くいこう」
二人は森の出口へ向かった。
ゲイザとミリアは森の出口にいた。
「やっと森を抜けたな、このまま一気に王都へ……」
「ゲ、ゲイザ……私、疲れちゃいました……えへへ」
ミリアはその場に座り込んで苦笑いをしてゲイザに言った。
さっきの戦いで精神を使いすぎたんだろうな、とゲイザは思った。
「この先に村があったはずだ。そこまでの我慢だ、いいな」
ミリアは頷くと、地べたに座ったままゲイザに話しかけた。
「ねえ――私、誰なんなんでしょう? 記憶はないのにこのペンダントのことや、
術のこと……何で覚えてるんでしょうか?」
ゲイザは少しの間目を瞑って考えた。
そして座っているミリアと同じ目線になるようにしゃがんで顔を覗き込んだ。
「俺は君のことはよく知らない……でも、覚えていてもいいじゃないか。
それが手がかりとなると思う」
と、ゲイザは言って立ち上がった。
「何があろうと、俺は君を守る。ボディーガードだからな」
ミリアの方を向いて笑いかけた。
「ゲイザ、初めて笑いましたね」
なぜかミリアもこっちを向いて笑いかけていた。
「さ、早く行こうよ。今日は疲れちゃったからね……」
そういうとミリアは村に向かって歩き出した。
ゲイザもその後をついていった。
スライグ村。
一見ラミアズと変わらない村だ。
とりあえずゲイザとミリアは宿屋に入って休むことにした。
「ミリア、ゆっくり休めよ」
「わかりました」
そういうと二人は別々の部屋で寝ることにした……
部屋に入ったとたん、ゲイザはベッドに倒れこんだ。
「タクス、大丈夫かな?――ふぅ」
村に置いてきたタクス、そして村自体の心配。
そして、何故自分は家から離れてここまできたのか、彼は考えていた。
「俺は誰なんだ?何故――それに、ミリアのペンダント……」
自分の存在。ミリアの事。
自分が自分でなくなってしまうことが怖いが、自分が何者なのか……
そして光を放つペンダントを持つ不思議な少女、ミリアは一体何者なのか……
それを知るための旅だとゲイザは思っている。
と、そのとき、下の方から爆発音が聞こえた。
「どうした!?」
ゲイザはベッドから飛び起きるとドアを開けて一階へ向かった。
そして、そこにいたのは――
「見つけたぞ、ネズミめ……今度こそ殺してくれるっ!!」
「貴様は、あのときの!!」
そう、そこにいたのはラミアズ村をメチャクチャにし、ミリアの命を狙う
黒いコートを身に纏った暗殺者だった……
続く
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