エピローグ


イルアが眠りについてから、1日がたった。
ルアグ博士の依頼をしたデュッセルとキシュガルは自由の身になり、
タクス、ルベリィもグラディームへ帰る用意をしていた。
「それでは、お主たちだけでいいんじゃな、戻るのは」
ルアグ博士が用意しておいた転送機械。
転送先は破滅の塔に設定されている。
そして、その転送機の中にいる人の中には
タクス、ルベリィ、デュッセル、ファリスの姿があった。
「ファリス、元気でやるんじゃぞ」
「はい、博士。私、デュッセルさんと一緒にがんばりますわ」
ファリスは微笑んで、少し心配そうな博士にそう言った。
「キシュガル、お前は戻らなくていいのか?」
「いいのいいの。どーせ戻っても当てあるわけじゃないし、
デュッセルはまた人助けの旅するんだろ?オレもさ、マルディアグで人助けの
旅しようとおもってるし……オレには、ちゃんと見てくれる人ついてるしさ」
「キシュガルのことはアタシがちゃーんと見るから、デュッセルさんは心配しないでね」
マルディアグに残るといったキシュガルとリュアにそう言われたデュッセルは
少し笑って答えた。
「うむ……わかった」
そして、ゲイザもマルディアグに残ることにした。
「ゲイザ、村は俺達でなんとかするからさ、心配するな」
「ああ、頼むよ――タクス、ルベリィ」
「元気でね、ゲイザ君」
そして、別れの時が来た。
「よし、転送開始するぞい」
ルアグ博士が転送機の横についているレバーを上から下へ倒すと、
一瞬のうちに光に包まれて、その中にいた人達は消えてしまった。
結局、マルディアグに残っているのはゲイザ、ラティー、キシュガル、
リュアの4人だった。ラティーはともかく、他の3人にはそれぞれやりたい
ことがあったから、残るという選択をした。
「ゲイザよ、こっちに来るのじゃ」
「ん、はい?」
ゲイザはルアグ博士に呼ばれ、キシュガルやリュア、ラティーのいる
転送機のある部屋から出て行った。
「お主、あのお譲ちゃんを助けてあげたいのかい?」
「……………はい」
少し黙り込んでから、ゲイザはその質問に答えた。
「一つだけ、助ける方法があるのじゃ」
「ホントですか!?」
「しかし、お主が……まあこれを見るがよい」
ルアグ博士から渡された紙を受け取った。
そして次に、青色に輝く石を投げて渡された。
「その紙をよーくみて、決心するのじゃ」
そういうと、転送機のある部屋へルアグ博士は戻って行った。
いなくなったことを確認すると、ゲイザはその紙に書かれてあることを
読み始めた。

禁断の魔法、レイズデッド
ホムンクルスを人間に変えれる。
その代わり、使用者とホムンクルスの
『光の心』が失われ、使用者の記憶がなくなる。
必要材料:青竜石
言葉:光を捨て、闇を捨て、我が記憶を捨てん
   理を全て尽くし、人と変えん

と書かれてあった。
(やるしかない……)
そう心で呟いたゲイザは医務室で眠りについているイルアを背負い、
博士やラティーに迷惑をかけないように、置手紙をして研究所を去っていった。
そして、イルアが全てを思い出した場所、セントグラームの
ボロボロの空き家に向かった。

「イルア、光の心をお前にあげるから……頼む」
少しほこりのかぶった机の上にイルアを寝かせて、その首にいつも肌身離さず
持っていた『ミリアのペンダント』をゲイザはイルアの首に下げてあげた。
多分、ゲイザはこれで彼女の闇の心は失われずに済むと思ったのだ。
実際、前に起こった闇の心に心が呑まれて暴走したことがあったが、その
ペンダントをつけているおかげで、光の心が安定していたものだと思う。
「青竜石を、イルアの額に乗せる……」
その言葉の通り、額の石を載せてあげた。
(助かってくれよ)
言葉に出さないで、心の中で呟いた。
そして、禁断の魔法レイズデッドを使う準備が整った。
「光を捨て、闇を捨て……我が記憶を捨てん――理を全て尽くし、人と変えん」
その言葉を全て言い終わった後、イルアの額にある青竜石から白い光が放たれる。
やがて青竜石は砕かれ、ゲイザは瞳をつぶった。
記憶が薄れていくのがわかる。
白くなっていく。
全てが、わからなくなってきた。
やがて光が収まると、ゲイザはひとりでにイルアの事も見ずに空き家を出て行ってしまった。

イルアは目を覚ました。
二度と、目を開ける事のないとおもった自分が、なぜここにいるのかもわからなかった。
胸にある、ゲイザがかけていたペンダントにも、なぜ自分がかけているかがわからなかった。
そして、当てのないイルアはルアグ博士の研究室へ行き、すべてを知った。
ゲイザが、ゲイザ自身の記憶と引き換えに、自分をホムンクルスから『人』に変え、眠りから
覚まさせてくれた事。
イルアは、とても悲しい気持ちになったが、泣かないで心でこう決心した。
(ゲイザを、探そう)


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