第\話 『記憶のない少女』
喫茶店からでたゲイザとラティーはもうそろそろ
日が暮れそうなので集合地点としている宿屋の前に行った。
「おーい、遅いぞー!」
すでにタクスとルベリィは宿屋の前でゲイザとラティーが
来るのを待っていた。
「すまん、ちょっと喫茶店で休憩してたらこんな時間に……」
ゲイザがそういったとき、辺りが急に騒がしくなった。
周りの人々は「火事だ!」とか「あいつがついに……」など話していた。
そのとき、ゲイザはふと思い出した。
「ラティー、まさか」
「見てください! あっちから煙が!」
ラティーはその煙の出ているほうを指差した。
とても普通の火事とは思えないほどの煙が空に上がっていた。
「ルゥーディムって村が、ディメガスとかいうやつらにやられたってことか」
喫茶店で聞いた話をゲイザは思い出していた。
周りの人々はまだただ何もしないで騒いでいるだけだった。
(なぜか――胸騒ぎがする)
ゲイザは何かを感じていた。何か、とてもあってはならないことが
起きるような、そんな感じを。
「タクス、ルベリィ、ラティー! 俺はちょっと行って来る。
お前らはここで――」
「もちろん俺達もついて行くよ!」
ゲイザは一人でルゥーディムに走り出そうとしたとき、タクスがゲイザの腕を
引っ張り、それを引き止めた。
「こんなの、黙ってみてられないわ……わたしだって、ね」
そう言ってルベリィはゲイザに笑ってみせた。
ゲイザはラティーの方をみると、無言で頷いて笑っていた。
そうしてみんなでルゥーディムへ向かうことにした。
スィアリィから程遠くも離れていない場所にルゥーディムという村があった。
ルゥーディムの村はすべての家が燃えていた。
「ひどい――こんなのって……」
タクスは腰に下げていた鞘から剣を抜いて片手で持っていた。
ルゥーディムが炎の海のように燃えている風景はラミアズ村が襲撃された
ときより酷かった。
そして、血を出して倒れる人々。小さい音だが耳に聞こえてくる断末魔。
何者かが炎に呑まれたこの村で人々を殺して回っているようだ。
「タクス、ルベリィ――お前らは外にいる敵を! 俺は誰か家の中にいないか
探してくる!」
そういうとゲイザはラティーを連れて走って村の奥へと行った。
(こっちだ……誰かが、いる)
ゲイザは確かに、何かを感じ取っていた。ミリアが死んだときの
光の暖かさを……
「誰かいないかぁーっ!」
タクスは村の中央と思われる場所で思いっきり叫んだ。
周りには血まみれで倒れている人ばかり。返事をする者はだれもいなかった。
しかしタクスはそれでも誰かいないかと叫び続けていた。
「タ、タクス――こっちに誰か来る」
ルベリィは愛用のレイピアを右手でもって構えた。
炎の中に人の形の黒い影か薄っすらと見えた。
その黒い影の両手には2本の剣を1本ずつ持っていた。
「うるさいなぁ――しかし、まだ生き残りがいたとはね」
口を吊り上げてニヤニヤしながら炎の中から出てきた男はどこか悪魔のような雰囲気を
漂わせていた。そしてその男は2本の剣を交差させてタクスとルベリィを睨みつけた。
「お前、何故ここの村の人たちを――」
タクスは両手で剣を構えていつでも戦えるようにしていた。
「ディメガス様の命令さ。ディメガス様の命令に従わないものは……」
そういって男はすぐ近くに転がっていた死体を1本の剣で刺した。
「こうなるのさ」
死んでいる人を、まだ刺して喜んでいる。
その様子を見てタクスの怒りは頂点に達していた。
「死んでいる人を……」
「死んでいる人に何をしても別に死んでるんだから変わらないでしょ。
ここの人たちはホント、僕に殺されて嬉しかったんだろうねぇ……」
タクスとルベリィの方を見てにこやかに笑う。
とても正気な人とは思えない人格をした男だった。
「タクス、この人には何を言っても意味ないみたいね」
ルベリィがレイピアを構えて今にも攻撃していきそうな構えをしていた。
タクスもその言葉に頷き、剣を両手で構えた。
「僕の名前はザクォーウェル=ジュフォム。
さぁ、二人まとめて相手をしてあげる……かかってきな」
ゲイザはまだ他の家より被害が少ない一軒に入ってみた。
しかし被害が少ないからと言っても家の中は炎の海のように火が燃えている。
その火の奥に見える人――少女が頭を抱えてうずくまっている。
「そこの君! 危ないぞ!」
「私――なんでこんなところに? ここ……どこ?」
ゲイザが話しかけてもその声も耳に入らずに何かぶつぶつと呟いていた。
と、そのとき少女の上から燃えている一本の柱が落ちようとしていた。
「くっ、危ないッ!!」
ゲイザは剣を鞘から抜き、少女の上に落ちる寸前のところを薙ぎ払った。
その柱は燃えていたため脆くなっており一振りで粉々に砕けてしまった。
「危ないっていってるのに――おい!」
「あなたは……私の、何――誰? 助けて……」
ゲイザの顔を少女は見た。
少女の目は輝きを失っており、怖がっているように自分の体を自分の手で抱いていた。
何故かゲイザの胸にかけられている所々壊れているミリアのペンダントが眩しく光っていた。
「ゲイザさん、早くしないと私達、炎の中で焼け死んでしまうことになるですの!」
「ああ、そうだな――君、早くこっちへ!」
ゲイザは少女を背負って家が炎に飲まれないうちに脱出した。
その家から出たとき、目の前には髪の長い一人の男が立っていた。
「よくやく見つかりましたねぇ……探しましたよ」
ゲイザを見てそういったが、ゲイザは自分に言われた感じはしなかった。
となれば背負っている少女のことだろうか。
ゲイザは少女を背中から下ろすと無言で腰に掛けてある鞘から剣を抜いた。
「やはり、戦うのですね。無謀な――」
「黙れっ!貴様がこの村を襲ったんだろう!?」
ゲイザが男に吠えるように言うと男はふぅ、とため息を漏らした。
すると右手を突き出してどこからか鎌を出した。
「この村を襲った、としたらどうするんです?」
男は鎌を構えて笑って言った。
「もちろん、俺はお前を倒す」
ゲイザは男を睨んだ。二人は今にも戦いそうな雰囲気を出していた。
少女はゲイザの後ろで隠れながらしゃがんで自分の肩を抱いて、
ディメガスとゲイザのやり取りを聞いていた。
「そうですか……自己紹介をしておきましょうか。
私の名前はディメガス=ガラムグラ。あなたは?」
「俺の名はゲイザ=ライネック……」
ゲイザが名乗るとディメガスは鎌を片手で軽がると振った。
「フフフッ――それじゃ、自己紹介も終わったところで……
消えてもらいましょうかね」
ディメガスは鎌の先端をゲイザに向けると、悪魔のような笑いを見せた。
続く
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