第Y話 『夜空を見上げて』


破滅の塔の最上階で光に包まれたデュッセル達は
数秒後、どこか知らない場所に来ていた。
「ここがマルディアグなのか?」
デュッセルは辺りを見渡した。しかし、日が暮れていたため、
よくわからなかった。
「そうみたいですね。こんな森の遺跡付近に飛ばされるとは計算外でしたけど」
ファリスはそういって遺跡らしき建物の石壁を触った。
野生の動物の声がする。どうやら森の中らしい。
「夜のようですね。みなさん、今日はここで野宿にしましょう。
話さなければならないこともいっぱいありますしね」
と、微笑んでそう言うとファリスは木の枝を拾い集めた。
それにつられてデュッセルとキシュガルも一緒に木の枝を拾い集めた。
なんとか一晩焚き火ができるほどの木の枝を集め、
デュッセルが木の枝を組み、火をつけた。
辺りは一瞬にして明るくなり、デュッセル達は焚き火の周りを囲む
ように座った。グラディームとは違って少しマルディアグは寒い
せいか、妙に焚き火が暖かく感じた。
「すまんが、マルディアグについて教えてくれないか?」
「オレも知りたーい」
デュッセルとキシュガルはファリスの顔を見て質問をした。
体育座りをしたファリスは片手でメガネのフレームを上げて、
少し考えてから説明した。
「そうですね。まずマルディアグとグラディームと違う点。
それは魔法を使った『機械』がある、ということですかね」
「機械、だと? なんだそれは」
グラディームには機械というものがない。だから知らなくてもしょうがない。
「機械とは自動で動くものです。洗濯とかも自動でやってくれます」
「へぇ〜、便利じゃん。んで、その機械とかいうやつって、何で動くんだ?」
デュッセルに続いてキシュガルの質問。
「魔法です。空気中には魔法を使うためのマナがあるってこと、知ってますか?」
ファリスがそう言うと、デュッセルはゴホン、と咳払いをした。
「すまん、俺達にはわからない事ばかりだからそのマナというやつから説明してくれ」
「そうですね……マナは魔法を使うために必要なものです。
人はマナを消費して魔法を使います。しかし、空気中にもありますが人の体の中にも
元々あるマナがあります。そのマナと空気中のマナを使用して魔法を発動します。
そういうわけです」
ファリスの説明が終わると、辺りは静まり返っていた。
どうやらデュッセルとキシュガルは頭の中でマナについて整理していたらしい。
「あ、説明の途中でしたね。そのマナを使って機械を動かせるようにできたんです。
まあ……直結にいいますと、グラディームよりマルディアグの方が
科学が発達してる・・・ということですかね。まだマナと言うものに気づいてないみたいですし」
「科学ねぇ〜。マルディアグの方が居心地よさそうだなぁ・・・」
キシュガルがそういうと地べたに空を見上げるようにして寝っ転がった。
「でも、空は変わらない、か」
と、デュッセルはそういうと立ち上がり空を見上げた。
夜空には星が輝いていた。月も出ている。
満月だ。
「あの、デュッセルさん」
ファリスは星空を見上げるデュッセルに話しかけた。
「デュッセルさんは何故、傭兵をしていたのですか?」
そう質問した座ったファリスをデュッセルは立ったまま一瞬見た。
そしてまた、星空を見上げた。
「世界を平和に……そう思って、やってきた。
それに、俺には他にやることがないからな」
そういって、鼻で笑うと地べたに座って、キシュガルと同じように寝っ転がった。
「さ、そろそろ寝るぞ……明日も早いからな」
「そうですね……」
「じゃ、おやすみ〜」
焚き火を消さないで、3人はそのまま地べたに寝た。
幸い、焚き火をしていたおかげで地べたは乾いてて、さらさらだったため寝れた。


夜が明けて、朝になった。
「う、うん……もう、朝ですか……」
ファリスが目を覚ますと辺りは明るくなっていた。
起き上がり、息を吐くと白かった。秋という季節のためか、少々肌寒く感じた。
焚き火はすっかり消えていた。寝ていた二人を起こそうと思ったファリスは
ふと気づく。
「あれ? デュッセルさんがいない……」
キシュガルは朝ということに気づかず、そのままずっと寝ていた。
もしかしたら起こさなかったら昼間で出てるかもしれない勢いで。
ファリスはキシュガルを寝かせておき、とりあえずデュッセルを探すことにした。
「はぁっ! ふんっ!! でりゃぁぁっ!」
どこかで誰かの叫び声が聞こえた。悲鳴ではなく、戦っているような叫び声だった。
ファリスはその声が聞こえた方へ言ってみた。
野宿をしたところから少し離れたところに、声の主がいた。
「む……」
気づかれずに近づいたと思ったが、気配でばれてしまったのだろうか。
デュッセルはファリスと目が合う。
「お、おはようございます……」
「すまん、起こしてしまったか?」
「いいえ、そんなことありません。ぐっすり寝れました」
ファリスはデュッセルを見ると、汗をかいていた。それに片手には大剣。
「何をしていたんですか?」
「稽古だ。野宿の日には毎朝している」
「それはすごいですわね。あ、そろそろキシュガルさんを起こさないと……」
「俺は後から行くから、先に行って待っててくれ」
とデュッセルにそう言われるとファリスは早足でキシュガルの元へ向かい、
起こした。少し遅れてデュッセルも来た。
「それでは、ルアグ博士のところへ向かいましょう。ここから南にいったところにある、
レスコォールという村にルアグ博士の研究所があるはずです」


続く

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