第V話 『強い心』


日も落ちて辺りもすっかり暗くなった。
「ふぅ……」
ゲイザは自分の家の2階の部屋にあるベランダのベンチに座って
空を見ていた。今日は晴れているので星がよく見える。
星から月に目を移そうとしたとき、目の前にラティーが見えた。
「ため息なんてついて、どうしたですの?」
ラティーはゲイザの座るベンチの真ん前にあるテーブルの上に立った。
「いや、色々と、考えごとをね……」
星空を見て、歯切れの悪い言葉でラティーにそう答えた。
「ふぅ〜ん……じゃあ、その考え事を、ラティーに話してみてくださいですの!」
そういうと、羽で飛んでふわふわと宙を浮いてゲイザの肩の上に座った。
そしてラティーも星空を見上げた。
「俺なんかに、その世界、救えるのかな……って。
それでなくても……大切な人、守れなかったのに」
その「大切な人」という言葉にラティーは反応し、隣のゲイザの顔を覗き込む。
「大切な、人……どんな人ですの?」
ゲイザは微笑み俯いた。
「元気で、いつも笑ってて……でも、そんな彼女を俺は殺さなければならなかった。
彼女が彼女でいられるには、そうしなければならなかった」
ミリアのことを思い出しながら、ゲイザはそういって、まだ微笑んでいた。
しかし微笑んでいられることに疑問を持ったラティーはゲイザにまた問いかけた。
「なんで、微笑んでいられるんですの……? 悲しい事なのに……」
そうラティーに質問されるとゲイザは再び星空を見上げた。
「悲しい記憶のままだったら、ミリアが可哀想だから……
せめて、大切な記憶として胸の中にしまっておいたら楽になれるかな、って」
それを聞くとラティーは宙に飛んだ。そしてゲイザの目の前にいって微笑んだ。
「ゲイザさんは強いから、きっとマルディアグを救ってくれると信じてるのですの」
「俺は、そんな強くないと思うが……」
ゲイザはラティーに苦笑して見せた。
すると、自分の胸に手をあてて、ラティーはニコッと笑った。
「心が、強いって意味ですの!剣の腕は私まだわからないけど、心は強いって……
それだけはちゃんとわかるですの」
それを聞くと、ゲイザはラティーから目を逸らした。
ラティーは困った顔をして再びゲイザの肩の上に座った。
「大丈夫ですの。ラティーも頑張ってサポートしますですの」
すると、ゲイザはラティーの乗っている自分の肩を向いた。
「ありがとう……これからも、よろしくな」
「はいですの!!」
それから二人は、星空を見てから旅立ちのときに備えて眠ることにした。

次の日の朝。
窓から日差しが差してまだ寝ているゲイザを照らす。
「ゲイザさーん!そろそろ起きてくださいですよー!!」
ラティーはゲイザの耳元で大きな声で起こそうとしたが、
まったく目を開けない。
「ゲイザくん、まだ寝てるの?」
「またかよ……」
タクスとルベリィがゲイザの起床が遅いことを予想し迎えに来ていた。
「言い出しっぺがこれじゃ――まあ、蹴れば起きるだろ」
と言いタクスはゲイザを蹴った。
すると、ゲイザはベットから上半身だけを起こした。
「タ、タクス……それにルベリィも――なんでここに?」
「ゲイザは朝に弱いから、迎えに来てあげたんだよ」
ルベリィが笑ってゲイザを見た。
「へぇ〜ゲイザさんって朝に弱いんですねぇ〜」
「ああ、そうなんだよ。それが困るんだよなぁ……前なんて
2時間寝坊して約束の場所に来たんだ」
困った顔をしたタクスはラティーに苦労話を話し始めた。
しかし、その話を途中でやめて再び寝そうなゲイザの方を見た。
「ってか、早くしないと置いてくぞ?」
「みんなちょっと先出て待ってて。支度するから」
そういうとタクス、ルベリィ、ラティーは出て行きゲイザは
旅の身支度を始めた。
剣、ラスガルティーを鞘に収めて腰につけ、ミリアのペンダントを首に下げる。
食料などをつめたリュックを背負い、急いでタクス達の待つ外へ急いだ。
「おまたせ、待たせてゴメン」
「よし、じゃあ北の岬付近にある沖にイカダを用意しておいたから、そこへいこう」

破滅の塔が見える丘の近くにある沖にイカダを用意していた。
なんとか3人ぐらい乗れそうなイカダだった。
「沈まないよね……?」
ちょっと不安そうにルベリィはタクスに言った。
「大丈夫だって! 多分」
「多分って……」
「まあ、乗れって!」
タクスの作ったイカダにゲイザ達は乗って
破滅の塔を目指した……


続く

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