最終話 『優しさと、光』
デュッセル達はキシュガルと合流し、タクスは
サーフォルを倒し終わったとき、ゲイザとイルア、そしてラティーは
長い通路を抜け、魔法の力をつかったエレベーターに乗り込んでいた。
「敵が全くいなかったな……」
「とても不審ですの、不明ですの、注意するですのー」
相変わらず元気のいいラティー。
そして、不安を抱いているゲイザに、少し黙り気味のイルア。
「この先に、ディメガスがいるのかな」
イルアが何気なく、ゲイザに聞いてみた。
しかしゲイザはその質問にはわからないとばかりにため息をついて
俯いた。沈黙の中、上に動いていたエレベーターはようやく止まった。
そしてそのエレベーターからゲイザが降りようとしたとき、イルアが
ゲイザの腕を掴んだ。
「……ねえ、ゲイザ」
「なんだ?」
ゲイザに返事を返され、少し黙り込んでからイルアは笑って
見せた。
「なんでもない。頑張ろうね」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
重い口調でゲイザが答えると、3人はエレベーターを降りて
通路を歩いていくととても怪しい大広間へ出た。
とても暗くて、あまり前が見えない。
ゲイザ達が当たりを見回しているとき、突然明かりがついた。
「ふふっ……やはり私の元へ来る運命だったのですね。あなた達が」
その明かりに照らされて姿を現したのは、イルアの胸を貫き、魔晶石を
奪い取った男、ディメガスだった。
「ディメガス……俺は魔晶石を返してもらいに来た」
「それは無理な相談ですね」
ゲイザの申し出に、対するディメガスはキッパリと断った。
確かに取り上げられたものを相手が簡単に返してくれるわけもない。
「あの石は『アラグダズガ』様にお渡ししたばかりだ。私が返してくれと頼んでも、
もう無理だ……」
「『アラグダズガ』……だと?」
「あの方は今は力を取り戻してはいない……だから私達が力を取り戻すために必要な
魔力を集めているのだ。」
彼がいう言葉を聞くと、『アラグダズガ』という人物はとても恐ろしい人物で、
ディメガスたちを部下につけていることが予測できた。
「じゃあ、イルアはどうなるっ!」
「そうですね――あなたと一緒に儚い夢となって消えてもらうのが一番いいですね」
「『儚い夢』、ですって……!?」
イルアがその言葉に驚き、震え始める。
「そう――人に死んでしまったことも忘れられるように、夢のように消してしまうことが
出来るんですよ、私には。まあ、正確に言うと、この鎌が、ですけどね」
「ゲイザさん、あの鎌は」
何かを思い出したかのようにラティーがゲイザの目の前に飛び、騒ぎ出した。
「あの鎌によって魂を葬られたものは、周りの人たちに忘れられてしまうというものなのですよ。
確か……ナ、ナイト…」
「ナイトメア、ソウルデスサイズよ」
「そう、それです!」
イルアの助言に助けられたラティーは、そうゲイザに説明した。
それにしても、イルアがそれを覚えているのに不審に思った。
「なぜ、その鎌のことをイルアは知っているんだ?」
「事件があったのよ……ある村の人たちが、その鎌によって殺されたけれど、その村諸共
忘れられたという、ディメガスによって行われた事件がね」
イルアはディメガスを睨みつける。しかし、その言葉を聞いたディメガスは逆に微笑んでいた。
そこからは、とても喜びが感じられる。
「ほう……知っていたのですか。さすがあの博士が作った最高のホムンクルス……」
「そんなの、関係ないだろう!」
ゲイザはイルアをディメガスの言葉から庇うように叫ぶ。
「ごめんな、イルア……お前を、助けられそうもない」
「いいよ、そんなの」
「いいわけ、ないだろ」
ゲイザは、腰に下げてある鞘からグラディームで光の精霊シャウナから授かった剣、
聖剣ラスガルティーを片手に持ち、その手におもいっきり力を入れる。
「イルアは、戦うな……いいな」
「でも――」
「いいな」
ゲイザが力強くその言葉をいうと、イルアは頷いて戦いの邪魔にならないように
その場から離れた。
「やるのですね……では、あなたから夢のように消してあげましょうか」
「俺は、夢のように消えはしない……消えるのはお前だ、ディメガス!」
「そうですか――なら」
ディメガスの姿が目の前から消えた。
それは魔法などの力で消えたのではなく、本来の力の速さだった。
人並みではない速さにゲイザの目はついていけなかった。
「はぁっ! 刹那に消えろ、ブラッドスラッシュ!!」
「ぐはぁっ!」
背中から、鎌の刃が深く突き刺さる。
その痛みが顔に出る。
刃によって傷をつけられた背中から血がでる。
「ゲイザッ!!!」
「ゲイザさん!!」
イルアとラティーが遠くで叫ぶ。
「ふふ……やはり威勢だけですか。くだらない」
「くぅっ、まだ、だ。俺はまだ、倒れちゃ、いない!」
ゲイザは痛みを堪えて震えながらも、やっと立ち上がった。
もしかしたら、立っているだけでも痛みで辛いかもしれない。
「ここで、負けたら……俺は」
ラスガルティーを両手に持ち変える。すると、ゲイザの胸から光が放たれた。
「イルアのためにも、お前には……勝たなきゃいけない」
「なぜそこまでして彼女のために戦う?」
いきなりのディメガスの質問に、一瞬ゲイザは戸惑ったが、
「俺のせいで、彼女の命が……なくなってしまうなら、せめて、お前を」
「くだらない!」
「な、に?」
「くだらない。人は、やはりくだらない存在だ……
人のために、自分の血をなぜ流す?私はそれがわからん」
「アンタにはわからないだろう……っ」
ゲイザが膝を床に落とす。体力の限界がそこまで来ている。
「ゲイザ!!」
「来るな、イルア!」
助けに行こうとしたイルアをすぐゲイザは止めた。
そして、再びゲイザはディメガスを睨みつける。
「人のために、大切な人のために、俺は戦うって、あの子と……約束、したんだ。
だから、俺はイルアのために、戦う。俺が死んでも構わない。本当に、本当に大切な人のためだったら、
人はみんな、俺と同じように戦えるはずだ……」
「それが、貴様の答え、か?」
「そう、だ」
「はぁっ!!」
ディメガスに再び鎌で斬りつけられる。今度は胴を思いっきり斬られた。そして、
イルアのいる場所まで吹っ飛ばされた。
「ゲイザ、ゲイザ!!」
「ゲイザさん、もう危ないですの!」
「うぅ……っ、くぅ……すまない、イルア、俺はもう――」
もう、ゲイザは死ぬ寸前まで追い詰められていた。
このまま死ねば、イルアも、ラティーも、タクスも、みんな、ゲイザのことを忘れることになってしまう。
「もう、やめて、ゲイザ……私のために、そこまで、戦わないで……」
「イル、ア?」
イルアは泣いていた。傷ついたゲイザを見つめながら。
「やっぱり、優しすぎるよ……嬉しいけど、嬉しすぎるから、だんだん辛くなる……」
ゲイザを自分で起き上がらせ、イルアはそのまま、抱きついた。
そして、泣きついた。
「私のために、傷つかないで――お願い、ゲイザ……これで、お別れになるけど、最初で最後の、あなたに
出来ることだから、許してね。私が望むことだから」
「……………」
ゲイザはただ黙っていた。イルアの言葉は聞き取れていたが、すでにもう喋れる体力はなかったのだ。
タイミングよく、タクスとルベリィがその場に現れ、傷だらけで死にそうなゲイザに
抱きついているイルア、そしてただ飛んでいるラティー、鎌を構えているディメガスがいたのを確認した。
「やはり、人は……人はいらない存在なのだよ――せめてもの償いだ。そのまま一緒に、消してあげます……」
ディメガスが、鎌を構えて一歩、ゲイザに抱きつくイルアに近づいた瞬間、眩しい光が放たれた。
「何!?」
「眩しいですのっ……」
「ちょ、なにこの光っ!?」
「ゲイザ、イルアー!」
イルアとゲイザは光につつまれ、ディメガス、ラティー、タクス、ルベリィもその光で辺りが自由に
見れなくなった。その光の中、ゲイザはただ目の前にある光景だけを見た。
「これが、私が、あなたにできる、こと。あなたにもらった優しさを、これで返せたなら、嬉しいな」
「イルア……? えっ」
ゲイザの体力は回復し、自分の体を見ても、傷も全て消えていた。
目の前には、泣いているイルア。そして背中にはとても白い、美しい天使のような翼が生えていた。
「これで、私の力は全て、使っちゃった……あはは」
「イルア……何馬鹿なことをっ!」
「だって、見てるのだけは、辛かったんだもの……ゲイザが目の前で死んで、私がゲイザを忘れて、
そんなの、嫌だ、から」
光はだんだん消えていって、全員やっと辺りが見渡せるようになったとき、ゲイザは
ラスガルティーを持ち、立っていた。さっきまで傷だらけだったのに、光が消えた今では
すでに傷が跡形もなく消えている。
そして、翼を背中につけている、イルアが見えた。
「それが、真のホムンクルスの本当の姿といったほうがいいのですかね……」
イルアの姿を見たディガメスは、興味深そうに見ていった。
「うぅっ」
イルアはその場に倒れこんだ。すでに鉱石の持たないホムンクルスがもつ力は術の1回分くらいだ。
ルベリィがすぐにイルアのいる場所に駆けつけてあげた。
「タクス、俺に力を貸してくれないか?」
「もちろんだ、ゲイザ」
タクスも、腰に下げている鞘から剣と取り出して、片手で持ち構えた。
ゲイザがディメガスに向かって叫ぶ。
「ディメガス、お前だけは、許さないっ!!」
「かかって来なさい。何人来ようが、結果は同じですがね」
「それはどうかな?」
そのディメガスの言う結果を否定するかのように、タクスが言った。
「言っておくけど、俺とゲイザのコンビは強いよ?」
「そういうことだ……行くぞ、タクス!!」
「オッケー!!」
二人は剣を構えて一斉にディメガスを標的にし走り出した。
「タクス、動きを合わせてくれ!」
「わかってるって!」
ゲイザがディメガスに斬りかかる。
その斬撃を鎌の刃で防ぐ。
「無駄だ!」
「それはどうかな、っと!」
すぐさま背後が死角になったところを、タクスが銃で撃ちつける。
「ぐおっ!?」
「はぁぁっ!」
聖剣ラスガルティーに渾身の力を込めて、ディメガスの腹を目掛けて思いっきり
振りかざす。
「ぐぅぅ、まだだ、まだですよ……」
「ゲイザ、トドメをさせーっ!」
タクスがディメガスの目の前にいるゲイザに叫ぶ。
すると、その叫びに頷いたゲイザは空高く、ラスガルティーを構えて飛び上がった。
「光よ、闇よ。この剣に、力を与えたまえっ!!」
「ひ、ひぃぃっ!!」
ディメガスがらしくもない叫びの声を上げる。
ゲイザの持つラスガルティーに、光と闇にオーラが立ち上がる。
「秘奥義! ホーリィ、ダークネスッ、ブレイカァァーッ!!」
渾身の力を込めて、光と闇によってとてつもない破壊力を得た剣をディメガスに斬りつけた。
そして、ディメガスは光に包まれて消えてしまった。
鎌、ナイトメアソウルデスサイズを残して。
イルアは起き上がって、ゲイザの秘奥義によって壊された天井の下の所まで歩いていった。
「歩いても平気なのか?」
「う、ん……」
そう返事したはずのイルアはすぐ倒れそうになって、ゲイザに助けてもらった。
「バカっ……イルア、お前はどうなるんだ?」
「私は、死ぬわけじゃないの……眠りにつくだけ。でも、一生起き上がることはないの」
ゲイザに腰と肩を支えられて、横になるようにしているイルアは、さっきより弱弱しい声で答えた。
もう、その眠りのときは寸前まで迫っていた。
「ありがとう、ゲイザ……ホントに、優しくしてくれて」
「もういい、喋るな! 一秒でも長く、いてほしい!」
「短かったけど、楽しかった。ゲイザと過ごした日々……これからもずっと一緒に、
いたいけど、無理、だから……私には、一緒にいることはでき、ないから」
「っ………」
涙を堪えて、ゲイザはそのまま話を聞いていた。
「これ、返すね……」
小刀を震えた手でゲイザに渡した。
ゲイザはそれを受け取ると、そのままイルアの手を握り締めた。
「イルア……っ」
ゲイザはただ目の前にいる大切な人の名前を呼んであげる以外、出来ることがなかった。
話しかける言葉も、出てこなかった。
そのとき、壊れた天井から雪がゆらゆらと、ゆっくり入ってきた。
「なんだ、これは……」
「ラティーちゃん、これなに?」
「えっと、これは雪ですの。ラティーも見るのは初めてですのー」
ゲイザとイルアから少しはなれたところから、タクス、ルベリィ、ラティーの話し声が聞こえた。
すると、イルアはその雪の粒を自分の手に乗せるように手のひらを開いて、落ちてきた雪の一粒を
手のひらに乗せてゲイザに見せてあげた。
「これ、雪っていうんだよ……冷たいんだよ……」
「ああ、冷たいな」
イルアがそっと、その雪の粒をのせた手のひらを、ゲイザのほっぺたに当てた。
その手から伝わる冷たさ、そして暖かさが同時に感じられた。
「ゲイザ……もっと、一緒にいたか、った……」
そう一言言うと、イルアはそのまま瞳を閉じてしまった。
「イルア? イルア……ごめん、イルア」
ゲイザはそのままイルアを抱きかかえ、泣いていた。
雪がふる場所で、暖かいけれど二度と目を覚まさない。
ホムンクルスだけど、そんなの関係なかった。
本当は、一緒にいたかった二人。
「ゲイザ……」
「ゲイザ君……辛いでしょうね。これで、二回目だもの」
ミリアの時も、そうだった。悲しくて、ずっとないていたゲイザを思い出した。
タクスには泣いたゲイザをみるのはこれで二回目となる。
ミリアを殺してしまったときと、今、ここで。
「ゲイザさん、イルアさんを連れて帰えろうよ……みんな、待ってるとおもうのですの」
そのラティーの言葉を聞いて、ゲイザは涙を拭い、イルアの足と背中を持ち、お姫様抱っこのような
形で持ち上げた。
「そうだな……帰ろう。終わったんだから」
END
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