第U]U話 『剣を握る理由』
「デュッセル=ウィルガイア、覚悟っ!」
サイグは薙刀を構え、デュッセルを目掛けて走り出した。
デュッセルもまた、大剣を構えた。
「ファリス、援護を頼むぞ」
「わかりましたわ!」
そしてサイグが第一撃目の攻撃を仕掛けてきた。
「くらえぇっ!ディメイション・クロスっ!」
薙刀の片方の刃で斬り、再び構えをすぐさま直すと、今度はもう片方の
刃で切り裂いた。
「やらせんっ!」
その攻撃を大剣の刃がない面で防ぎ、二回目を弾き返してサイグを怯ませた。
片手に持っている大剣を両手で構えなおすと、サイグを睨んだ。
「あのとき言ったはずだ……『怒り、迷いを抱えているお前に、俺は倒せん』と。
また言われたいのか!」
「うるさいっ!! こうするしかないんだよ、オレにはぁぁー!!」
我武者羅に薙刀をデュッセルに向かって斬りつけるように振り回す。
数回、デュッセルの左腕、右足を掠ったが、殆ど当っていなかった。
「サイグ、さっさと倒さないと、お前の妹がどうなってもいいのかい?」
ショーンルが上からサイグに呼びかけてきた言葉は『脅し』だった。
そしてショーンルの隣にいたのはサイグの妹と思われる少女がいた。
両手を縄で縛られている。
「兄さんっ! 助けてぇーっ!」
妹のサイグに向けられた助けの叫びを聞いたデュッセルはサイグの抱え込んでいる
迷いを予測できた。
「ファリス、俺の援護をするな。あとはお前に任せる!」
「ぇ……ぁ、は、はいっ!」
デュッセルの言葉の意味を数秒たってから理解したファリスは、
詠唱を始めた。
「我が名は聖白銀の戦神、デュッセル=ウィルガイア!!
平和を守る、剣なり!! サイグ、行くぞ!」
「いわれなくても、やってやるっ!!」
二人はそれぞれの武器を振りかざし、弾きあう。
互角とはいえないがほぼその状態だった。
「でぇぇい! 死ねぇぇっ!!」
薙刀を振りかざす。
「させんっ!!」
大剣でその攻撃を防ぐ。
「はぁぁっ!」
さっきよりも思いっきり叩きつけるように斬りつける。
「甘いっ!ふんっ!」
再び大剣で防いで、今度は薙刀を弾き返し、すぐ大剣の柄を両手で握りなおして
サイグに斬りつける。
「そんなもので、オレはっ!」
しかし、サイグは素早い動きでその攻撃をかわし、背中に死角が出来たデュッセルに対し
後ろに回りこんで薙刀で攻撃しようとしたが、腹部にデュッセルの蹴りが入って吹っ飛ばされた。
「くっ…っそ……負けられるか…」
「お前の守りたいものはなんだ。お前は誰かを守るために剣を、武器を持っているのではないのか?」
「オ、オレは……」
と、そのとき後ろで何かが光を放った。
「我が声に答えよ――風よ、炎よ…陽炎よ。形を描き、世界の掟を突き破らん。
刹那に姿は消えるども、汝の心に迷いなし――インビジブル・エクステンション!!」
ファリスの長い詠唱の言葉と共に放たれた光は一瞬にして消え、
そして光の源であるファリスを見たら、姿がなくなっていた。
「消えただと!?」
ショーンルが消えたファリスに驚き、サイグの妹を掴んでいた手を離してしまった。
「ファリス、チャンスだ!」
「はいっ!」
デュッセルの呼びかけにファリスがどこからか答える。
どこからか声がしたのかわからないサイグとショーンルは辺りを見渡していた。
「えっ……」
サイグの妹が少し声を漏らした。
それもそのはず、腕に縛られていた縄が勝手に解けたのだ。
「こっちへ来て下さい」
小声でファリスは妹にいったが、その声はショーンルに聞こえていた。
「貴様、そこだなっ!!」
ファリスに気づいたショーンルは見えないけれど、小さいナイフを投げつけた。
「っぅ!!」
その適当に投げたナイフはファリスの腕を少し掠め、インビジブル・エクステンションの
効果が消えてしまい姿が見えてしまった。
そして腕からは少量の血が流れていた。
「いい度胸だ、覚悟しろよ……僕の術は君がさっきつかった上級魔法よりも強いんだぞ?」
「やらせんっ!!」
下にいたデュッセルは軽い跳躍で観客席のサイグとファリスのいる場所まで飛んだ。
「サイグ、貴様、早くコイツを倒せ!!」
「ヤダね。オレは弱みを握られてここまでやってきたが、もうオレの弱みをアンタは握ってない。
だから助ける理由はなくなった!」
「ちぃっ、ならば……嘆く炎、全てを飲み込み、塵も残さん!!」
サイグに見捨てられたショーンルはついに最終手段として自分以外喰らわない
最上級魔法を唱え始めた。
「サイグ、こっちへ飛び移れ!」
助けられたサイグは素直にデュッセルの指示に従い、デュッセルのいる場所へ飛んでいった。
「エクスプロージョン・デモンズ!!」
炎が竜巻となり、地面もろ共飲み込んでいき、デュッセル達の下へ少しずつ向かっていった。
「やらせないっ、バリアーっ!!」
「うらぁぁぁっ、サイクロン・クラッシャァァーッ!!」
ショーンル以外の全員に光の半円形の見えない壁に包まれ、
そして炎の竜巻とは対照的に風の大きな竜巻が、その竜巻を飲み込んで消滅した。
「またもや邪魔を……クソッ、アラグダズガ様に報告せねばっ……」
そういうと、ショーンルは光に包まれて消えてしまった。
というか逃げたといった方が正しいだろう。
「へへっ、間一髪ってところか?」
「だいじょーぶ? デュッセルさん、ファリスさん」
さっきの竜巻はキシュガル、そしてバリアーでみんなを守ってくれたのが
リュアだった。キシュガルたちはサーフォルを倒してから少し歩いたらここについて
ちょうど危ないところだったので助けたという話だ。
「キシュガル」
「あん?」
「助かった、ありがとう」
「へへっ、どういたしまして」
久しぶりというか、初めて聞いたかもしれないデュッセルのお礼はキシュガルにしたら
とても嬉しかった。反面、心の中では驚いていた。
「兄さんっ、やっと会えた」
「エーレ、無事でよかった」
あっちはあっちで兄とサイグにエーレといわれた妹の再会をしていた。
と、そのとき、ファリスが腕を押さえてその場に座り込んでしまった。
「うっ……」
「ファリス、さっきの傷か!」
「すみません、デュッセルさん……ちょっと、毒が入ってたみたい、なんです」
先ほどショーンルが投げたナイフの先には毒が塗ってあったのだ。
毒のせいで、ファリスの顔色はとても悪かった。
「大丈夫です……ルアグ博士に言えば、すぐ治りますから――私、ホムンクルスですから」
「ホムンクルス、だと……」
デュッセルは思い出した。あのホムンクルスの妖精、ラティーに姉と言われていたことを。
しかし、ホムンクルスだからといって、殆ど人間と同じなのだから毒を体内に流したままだと危険
ということも同じだ。
「とりあえず、毒が回ると危険だ。一旦船に戻ろう。そこで安静にしていろ……」
「はい……ありがとう、ござい――」
疲れたのか、それとも気絶したのかわからないがファリスは目を閉じて眠ってしまった。
「キシュガル、すまんがお前らは先に行っててくれないか?」
「いや、オレたちも一旦船に戻るよ。疲れちまったしな……それに、タクス達なら
上手くやってくれるだろ」
「…………ああ、そうだな。サイグたちも俺達の使った船で一緒に戻ろう」
「ありがとう、デュッセル=ウィルガイア」
そしてデュッセル、ファリス、キシュガル、リュア、サイグ、エーレは要塞を抜け出して
船に戻った……
続く
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