第U]T話 『気づく大切さ』


一本道の通路、キシュガルとリュアは四天王の一人
サーフォルと出会っていた。
「覚悟しな、サーフォル! 洞窟で戦ったときのようには
いかないぜっ!!」
リュアを後ろに下がらせて、キシュガルは槍を構える。
今回のキシュガルの目は本気だった。
いつものようにヘラヘラしているような雰囲気とは打って変わって、
別人のような感じだ。
「ハッ」
と、鼻で笑ったサーフォルも、そのキシュガルの挑みを受け入れるように
自分の武器である鞭を取り出した。
「こっちもはなからそのつもりだったさ。そっちこそ洞窟のときの様に
上手くはいかないよっ!」
鞭を両手でピンと張り、片手に持ち替えて床にたたきつけた。
「いいな、リュア。オレに任せればいいから」
「う、うん……わかった」
なぜか震えているリュアは、返事をする声も少し震えていた。
何かに怯えているように――
「リュア、あんたもアタシを倒すってのかい? 街外れて泣いていたのを
拾ってあげたアタシを? 『母親』のように可愛がってあげたアタシを?」
「っ!?……――」
サーフォルが放った言葉を聞いたリュアは、大きく目を見開いて、虚ろな瞳で
口を開けたまま立ち尽くしてしまった。

今までの記憶が走馬灯のように流れてくる。
「おかぁさぁん……」
子供の自分が暗闇の中、泣きながら立っていた。
8、9歳だろうか。そのくらいの時のリュアが、リュアの目の前にいた。
(あのときのアタシ――弱いアタシだ……お母さんが大好きだったアタシは、
死んだ母親が恋しくて、一人でずっと泣いていたっけ)
泣いていた小さい頃のリュアが消えて、再び人の影が薄っすらと現れた。
「リュアちゃん、あなたもうちで引き取ってあげるのに」
「結構です。アタシは……行くところがありますから」
おばさんと、小さい頃のリュア。
(そう、弟が引き取られた日。アタシも引き取ってくれるっていったけど、
やっぱりお母さんのことが忘れられなくて、断っちゃったんだ)
再び消える。
そして、血のついたナイフを片手に持った、リュアが現れた。
(サーフォルに拾われて……生きていくためには、人を殺さなきゃいけなかった。
それが当たり前のように感じていた……でも――)
リュアは後ろを振り返ってみた。
そこには、誰かが、手を差し出している。
(アタシは、こんなことしちゃいけないって気づけたから)
その差し出された手を、片手で握った。
(キシュガルのおかげで、気づけたから)
そして、暗闇に光が満ちて、目の前が光に包まれていった。

「て、てめぇっ!!」
「卑怯だ、とでもいいたいのかい? これは本当のことなんだし、卑怯も何もないわよ。
これが現実よ……うふふふふっ――さあ、坊や。今度こそ殺してあげる」
その言葉を聞いたキシュガルは、眉間にしわを寄せ、サーフォルを睨んだ。
そして、両手で槍を構え、走り出した。
「でりゃぁぁっ、くらえぇっ!」
「甘いっ!」
サーフォルに向かって突き出した槍の先は、幻影を突き刺し、本物のサーフォルは
背後に回っていた。隙を突いて、鞭でキシュガルの腕を叩いて槍を落とさせた。
「痛ぅっ!」
「あらあら、威勢だけなのね、坊や」
そいうってニヤリと笑ったサーフォルは腕を押さえてしゃがんでいるキシュガルに、
もう一発鞭を打ち込んだ。
身構えたキシュガル。しかし、それから数秒たっても痛みは感じられなかった。
目を開いて前を見てみると、そこには、
「大丈夫、キシュガル? 間一髪みたいだったね……」
「リュ、リュア……」
リュアがヌンチャクでキシュガルに当るはずだった鞭を弾いてくれていたのだ。
さっきまで放心状態だったリュアだが、さっきとはもう違うようだ。
振り返ってにっこり笑うと、ヌンチャクを構えてサーフォルの方を向いた。
「アタシは、あなたを母親なんて思ってない。それに、もう『やってはいけない』ことを
しちゃいけないって、キシュガルが気づかせてくれたから……!」
キシュガルも槍を構えてリュアの横に立った。
二人は顔を見合わせ、少しだけ笑いあって、再びサーフォルの方を見た。
「チッ……ま、ザコが1人増えたところで――」
「ザコかどうかは、戦ってからいってよ。あなたに教わった暗殺術、まだ披露してないんだから」
「!?」
『暗殺術』という言葉を聞いて、サーフォルは一歩後ろに退いた。
それもそのはず。その暗殺術とは人を殺すためにある術で、習得はかなり困難なものだが
その術を使われたものは二度と起きれないという恐ろしい術だ。
「なーんて、そんな恐ろしい術、もう使いたくないわ……キシュガル、アタシについてこれる?」
「当たり前だってーの。群青の守護神をなめんなよ?」
「じゃ、1、2ーの、3!でいくよ……」
合図の確認をしたリュアは、右手の人差し指と中指をサーフォルに向けて突き出した。
「暗殺術、ダークネスネットトライアングルッ!!」
「そ、その術は……!?」
サーフォルが気づいたときにはもう遅く、三方向に張られた闇の炎に囲まれて身動きが取れなくなっていた。
「おいおい、暗殺術とかいうの、使わないんじゃなかったのかよ」
「いーのいーの。それより、いくよっ! 1、2ーの――3っ!!」
二人は身動きの出来なくなった標的、サーフォルに向かって走り出した。
「うらぁっ!」
まずキシュガルが槍でサーフォルを突き上げる。
そして天井に叩きつけられ、落下するところをリュアが
「てぇぃっ!」
ヌンチャクで殴りつけてから蹴りでキシュガルのいるところへ飛ばす。
「これで、トドメだぁっ!」
キシュガルのウインドランスの一閃で、サーフォルの胸を突き刺す。
「コンビネーションアサルトシュラウド!!」
「やったぁっ!」
突き刺した槍を引き抜くと、サーフォルからは血が出ずに、そのまま溶けて
消えてしまった。
「えぇ!? 何これ!」
と、リュアが驚いている一方、同じような光景を見たことに気づいたキシュガル。
そう、黒一を倒したときも、溶けて消えてしまったのを思い出した。
「どういうこと、だ……?」
「アタシにはさっぱり……」
二人は四天王の一人、サーフォルに打ち勝ち、さらに奥を目指した……

一方、デュッセルとファリスはキシュガル達が通ったような一本道の通路を突き進み、
不気味な部屋にたどり着いた。
「ここは……血の臭いがする」
デュッセルは目を閉じて鼻で血の臭いを嗅いでいた。
そして、ファリスはとても嫌な光景を見ていた。
「デュ、デュッセルさん……ここ、闘技場と処刑――」
「ん?」
辺りを見渡すと、辺りが壁に囲まれており、その壁の高さは高い。
そして上を見ると、処刑のときにつかうギロチンと首吊り代があった。
「これは……なぜ要塞にこのようなものが」
「デュッセル=ウィルガイア、よく来てくれたね……待ってたよ」
どこかで聞いたことのある少年の声が観客席の方からしてきた。
デュッセルとファリスは声のするほうを見上げてみると、そこには
以前戦ったことのある四天王の一人、ショーンルがいた。
「ようこそ、決闘場へ」
そして、デュッセル達の目の前の扉が開く。
「………」
そこには、サイグが立っていた。


続く

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