第]\話 『優しさと死の運命』
ゲイザ達は、港町デュラズのとても高級そうな宿屋のロビーにいた。
「本当に、ここでいいのか……?」
タクスが不安そうに言う。
とても、今まで泊まったこともないような宿屋だからだ。
普通に泊まれば60万ガルドは取られそうだ。
「ここでよろしいはずですよ。わたくしに任せて、皆さんはここで待っててくださいね」
「待って待って、私もいくですのー!」
ファリスとラティーはそういうと、イルアを背負っているゲイザ、タクス、ルベリィ、デュッセル、
キシュガル、リュアをその場に待機させてフロントの受付に向かった。
受付の人とファリスのやり取りをゲイザ達は、無言で見ていた。
「なぁ、リュア。マルディアグはこんな宿屋がいっぱいあるのか?」
キシュガルはファリスを見ながら、横にいるリュアに質問した。
「いいや、ここは多分特別に高級だと思うよ。それに、ここは宿屋なんて言い方しないって。
ホテルっていうんだよ」
「ホテル? なんだそりゃ」
「温泉があって、ご馳走も出て、それで宿屋より何十倍もくつろげるところよ」
そんな会話をしている間に、ファリスとラティーは戻ってきた。
「部屋の鍵、4つ貰いましたので、ゲイザさんとタクスさんに一つ。
デュッセルさんとキシュガルさんに一つ。イルアさんとルベリィさんに一つ。
わたくしとリュアさんに一つで」
「あ! 私はー!!?」
「わたくしのいる部屋か、ルベリィさんのいる部屋、どちらでもいいですわよ?」
「じゃあ、今日はルベリィさんの部屋にしーよおっと」
と、そのときゲイザに背負われているイルアが目を覚ました。
「ん……ここ、は?」
「イルア。ここは港町デュラズだ。詳しい話はルベリィに聞いてくれ」
それだけ言うと、ゲイザはイルアを降ろして勝手にどこかに行ってしまった。
そんなゲイザと同じ部屋なタクスは、ゲイザの後を追って行った。
「わ、私……――」
目を覚ますとすぐにどこかに言ってしまったゲイザを目で追って、その姿が
見えなくなると同時に、悲しい顔をして俯いてしまった。
「イルアちゃん、今はそっとしておこ?後から、ね」
「………」
「ちょ、ちょっとゲイザ、待てって!」
「さっさと部屋に行くぞ。疲れたからな」
追っかけてきたタクスの方を見ず、ゲイザはただ黙って目的地である
部屋の鍵に書かれた番号の部屋へ急いだ。
「ゲイザ、お前ちょっとあれは酷くないか?」
「部屋についたぞ」
ゲイザとタクスの目の前にはその鍵に書かれた同じ番号の数字が
そのドアに書いてあったので、ここに間違いない。
そして鍵を差し込んでドアを開けると、快適に過ごせるために
綺麗にしてあるベッドが2つ、テーブルを挟むようにイスが2つ置いてある。
そして一番奥には大きなガラス窓。その先からは月明かりと星、そして街の明かりが
見えた。
「広いな……さすが普通の宿屋とは違う」
「ゲイザ!!」
無視され続けたためか、タクスはついに大声を出してしまった。
するとゲイザはため息をついて諦めたかのようにタクスの方を見た。
「わかってる。わかってるさ……だから、気にしないでくれ」
「そうか……わかった。ごめんな」
「なんでお前が謝るんだよ――ま、荷物を置いたらルベリィのところにでも行ってろ」
タクスはベッドに自分の持ってきている荷物をベッドに置くとすぐにゲイザに
行ってくるといい、出て行った。
「ふぅ……わかってる、はずなんだけどな」
白いシーツか敷かれたベッドに荷物を置いて、ちゃんと正しく置かれている
イスに座った。そして、空にある星を見た。
そして、一息ついたと思ったとき、誰かがこの部屋のドアを叩いた。
「誰だ……今開ける!」
イスから立ち上がり、少々速足でドアの元まで行き、開けてあげた。
ドアを開けると、そこにはイルアの姿があった。
「ゲ、ゲイザ……あの、話がしたいんだけど……いいかな?」
「いいけど……」
ゲイザがそう答えると、イルアは嬉しそうな顔をしてゲイザの手を取って
引っぱった。
「じゃあ、屋上にいきましょ。今日は星空が沢山出てるのよ」
今まで以上にない、とても元気そうな笑顔で言った。
しかし、ゲイザには無理をしているようにしか見えなかった。
ゲイザとイルアはエレベーターという機械を使って星空のみえる屋上に来ていた。
このホテルは全8階ある。なので結構な高さだ。
「そろそろ冬だから、寒くなってきたね」
イルアは白い息を吐くとゲイザに向かって微笑んだ。
確かに、風が少しあってとても肌寒い。
「イルア……お前、まだ記憶がないのか?」
二人は地べたに座り、星空を見上げた。
少々寒いが、空には沢山の星と月が出ている。
「ホントは、思い出してた――セントグラームのあの町外れにあった家に行ったとき。
私が『真のホムンクルス』だってこと、わかってたの。ちょっとしたショックで
ちょっと記憶を失ってただけ。あの家にあった資料をみたら思い出したわ」
「なぜ、イルアは真のホムンクルス……」
「真のホムンクルスというのはね、人間に極限まで近づけたホムンクルスなの。
人のように成長もするし、人のように生きれる。私を造った人はね、子供が欲しかった
のよ。でも、私の存在は、人々に否定されていたの」
「じゃあ、あのディメガスが奪った魔晶石は」
「真のホムンクルスとしてとても必要不可欠なものよ」
ゲイザはイルアを見てみると、なぜか微笑んでいた。
「でも、魔晶石とられちゃったから……私がゲイザと話せるのも、あと少し……か」
ちょっと寂しそうな声。
「ディメガスから奪い返せばいいんだろう?」
「きっと、助からない……」
「なぜだ?」
「なんでだろう……そう思うから、かな」
そういうと、イルアはその場から立ち上がって、星空を見上げた。
「死ぬかもっていうのに、怖くないの」
星空を見上げる顔は、本当に死を恐れていないみたいだった。
「怖く、ない?」
「死ぬっていう、運命を背負っているから、かな」
「っ……!!」
ゲイザは思い出した。
死ぬ運命を背負った少女達を。
「死ぬってわかっていても……それでも、生きていたいって思わないのか?」
「そりゃ、思うけど……でも、優しくしてくれる人と出会えただけ、よかったと思えるから」
「優しく、してくれる人……?」
イルアが手に持っていたのは、ゲイザがイルアにあげた小刀だった。
戦う武器がないからゲイザは形見の小刀をイルアに使うように言ったのだ。
「俺は、その死ぬ運命ってのを背負ってる女の子を、二人、見た……
その子たちは死ぬとき、泣きながら笑ってたけど――でも、俺が殺してしまったようなものだった」
ミリアとマイは、あのとき、泣いていた。そして、笑っていた。
とても、死ぬのが辛そうではなく、悲しんでいた様子もなかった。
そう、イルアも、ミリアとマイと同じ。
「私と同じで、きっと死ぬのが怖くなかったんだよ。それは、ゲイザに会えたから、かな?
私は、ゲイザみたいに、優しくしてくれる人に会えただけで、嬉しいから……いいの」
「そう、か……わかった。さ、そろそろ戻るか。寒いしな」
ゲイザはそういうと、イルアと共に屋上から去っていった。
続く
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